富山大学大学院医学薬学研究部麻酔科学講座
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 がんの痛み(癌性疼痛)について

◎モルヒネは怖くない

 病気にはだれもがなりたくはありませんが、生物の宿命というべきか、実際には多くの人々が癌になります。その約8割の人が何らかの痛みを感ずるようになるといわれています。この痛みに対して、一般的にはWHO(世界保健機関)の指針に従った経口モルヒネを中心とした癌疼痛治療が行われています。この指針では、痛みの弱い段階から非麻薬性の鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェンなど)を用い、痛みが強くなってきた場合にはモルヒネを中心とした麻薬(麻薬は神経のオピオイド受容体に結合することにより鎮痛効果を発揮するのでオピオイドとも呼ばれている)をさらに用います。痛みの程度にあった薬を適切に使用することによって多くの患者様が痛みをほとんど感ずることなく日常生活を営むことが可能となります。 麻薬と聞くと、一般的には怖いイメージがありますが、医療用の麻薬を適切に使用すれば、決して薬物依存(麻薬中毒)になることはありません。また、人格が変わったり、犯罪をおかしたりすることも決してありません。癌の痛みに対して医療用麻薬はとてもよい鎮痛手段となります。 ただし、適切に使われないと、痛みが十分に取れなかったり、吐き気や便秘、眠気が表れることがあります。薬を適切に使用すると、多くの場合これらの症状も抑えることが可能ですので、よくお医者様と相談しながら治療を行っていただければと思います。

 

◎当科で行っている持続くも膜下モルヒネ投与法

 WHOの指針に従った癌疼痛治療ではモルヒネを中心としたオピオイド、NSAIDs(一般的な解熱鎮痛薬)、鎮痛補助薬(抗うつ薬、ステロイドなど)を用いた鎮痛をはかります。もちろん投与量を調整しながら、時に麻薬の種類の交換を行いながら進めるわけですが、場合によっては痛みがあるのに、眠気、嘔気などの副作用ばかりが前面に出てくることがあります。指針に従っても、約1割の患者さんでは有効な鎮痛方法がないことがあります。最近、このような難治である胸部から下方の癌性疼痛に対して、くも膜下(痛みを感ずる脊髄神経の入っている所)に植え込み型のカテーテル(薬をいれる細い管)を留置し、持続的にモルヒネを流す「持続くも膜下モルヒネ鎮痛法」が、有効な方法として試みられるようになってきました。当麻酔科(ペインクリニック)でもこれまでに、複数の患者様に対しておこない、効果をあげてきました。

 

 

持続くも膜下モルヒネ投与

カテーテル① の先端を目的とする脊髄のそばに留置し、そこへ PCAポンプ② を用いて、皮下ポート③ を通じてモルヒネを持続的に流します。

 

 

この方法では、痛みを感ずる脊髄神経のそばにカテーテルを留置します。カテーテルの一方の側をポート(外から針を刺すことの出来る風船)に接続し、胸壁の皮下に植え込みます。結局、患者様の体の中にはこのカテーテルと皮下ポートのみが埋め込まれます。この皮下ポートにPCAポンプという特殊なポンプの先端を専用の針を用いて接続し、鎮痛薬を流します。このPCAポンプは、持続注入量、1回注入量などを自由に設定することができ、痛みを感じたときにボタンを押すと決められた注入量(この場合一定時間内には過量に薬液が注入されないような機能が付いています)が脊髄を含んでいるくも膜下に入ります。非常に少量のモルヒネにて鎮痛が得られることになります(静脈内投与量の1/100量)ので、ほぼ1週間に一度の薬液交換で済み、さらにポートやカテーテルが体内に留置されているので長期間の使用が可能となり、入浴や在宅治療も可能となります。非常に難治であった癌性疼痛の患者さまが、通常の日常生活を営めるようにもなります。 もし、難治性の癌性疼痛でお困りの患者様やそのような患者様を知っていらっしゃいましたら、痛みをとる有効な方法でありますので、一度当麻酔科にご相談下さい。