エコチル調査でわかったこと

妊娠前期における抑うつ症状と血中ω3系多価不飽和脂肪酸の研究

 ω3系多価不飽和脂肪酸(以下ω3)とは、魚に多いエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の総称です。妊娠中は胎児形成のために普段よりも多いω3の摂取が必要とされています。また、妊娠期・産後のうつはω3の摂取不足が関与している可能性も指摘されていますが、まだ一致した見解は得られていません。そこで今回、富山ユニットセンターの『追加調査』として、妊娠前期の抑うつ症状と血中ω3との関連を調べてみました。(『追加調査』とは、ユニットセンターなどが独自の計画・予算でエコチル調査の参加者を対象に行う調査で、事前に環境省の承認を受けて実施しております。)
 富山ユニットセンターで登録されている5,584人のうち、本研究(血中脂肪酸調査)に同意された3,837人の中から、前期質問票で抑うつ症状のある283人を抽出しました。また、対照として年齢・学歴・世帯収入でマッチングさせた283人を抽出し、両群の血中ω3を測定しました。
 その結果、グラフのように血中のEPAが高いほど、抑うつ症状になりにくいことがわかりました。一方、同じω3であるDHAでは統計学的な有意差は認められませんでした。先行研究などより、うつに対してはDHAよりもEPAの方が効果があることが報告されており、今回の結果と合致しておりました。妊娠前期における抑うつ症状と血中ω3に関する調査は世界で初めてであり、今後はさらに産後抑うつ症状も含め、時期を変えて調査を継続していきたいと思います。

妊娠前期における抑うつに対する血清ω3系脂肪酸のオッズ比

 EPAおよびDHAの“低”のグループでの、抑うつのなりやすさを“1”とした時の“中”および“高”の抑うつのなりやすを示しております。数値が“1”より低いほど抑うつになりにくいことを示しております。

出典:Hamazaki K, Harauma A, Otaka Y, Moriguchi T, Inadera H. Serum n-3 polyunsaturated fatty acids and psychological distress in early pregnancy: Adjunct Study of Japan Environment and Children's Study. Transl Psychiatry. 2016;6:e737.より

追加調査名:血中脂肪酸組成と母子の健康に関する調査

ちょっと詳しく

DHA・EPAって?

 DHA(ドコサへキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は、魚由来の代表的なω3系多価不飽和脂肪酸です。DHAやEPAは血液をサラサラにする成分として知られています。耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 またDHAは、脳や神経にとって大事なものであり、子どもの発育に必要といわれています。そのため、妊娠中や授乳中のお母さんは、より多くのDHAを摂ることが推奨されています。その他、DHAやEPAは、ぜん息やアトピーなどの炎症性疾患、認知機能、気分の落ち込みなどとの関連が示唆されており、現在、研究が進められています。

ココでいう「抑うつ症状」とは?

「抑うつ症状」という言葉にドキッとされた方もいらっしゃるかもしれませんが、「抑うつ症状がある=うつ病」ではありません。
 ここでいう抑うつ症状とは“気分が沈んで気持ちがスッキリしない”、“気持ちがソワソワして落ち着かない”といった「心の疲れのサイン」を指しています。

魚を摂るにあたっての注意点

 一般的に大きな魚は小さな魚よりも、食物連鎖による濃縮により多くの水銀を含んでいます。水銀は胎児の発育に影響する可能性があり、これからママになる方は、大きい魚を食べる際には量を控える方が良いようです。
 その一方で、水銀に関して“特に注意が必要でないもの”もあります。魚は、ω3系多価不飽和脂肪酸以外にも、良質なタンパク質やミネラルなどを含み、妊婦さんにとっては栄養バランスの良い食材ですので、積極的に摂って頂きたいです。

特には注意が必要でないもの
  • キハダ
  • サケ
  • イワシ
  • ブリ
  • ビンナガ
  • アジ
  • サンマ
  • カツオ
  • メジマグロ
  • サバ
  • タイ