エコチル調査でわかったこと

産後うつと関連して
対児愛着が悪くなる

 母親は出産後、自然とわが子に愛情を抱き世話をしたいという「対児愛着(ボンディング)」の感情を持つことが一般的です。しかし、自分が産んだ子どもを愛せない・世話をしたいと思えない「ボンディング障害」という症状に苦しむ人もおられます。このボンディング障害は虐待やネグレクトにつながり、子どもの成長や発達にも悪影響を与える場合もあります。これまで、ボンディング障害は産後うつの発症と同時に起こる例が多いことが知られており、富山大学の研究グループは、エコチル調査に参加しているお母さん約76,000人の産後1か月時のボンディングと産後うつの程度を評価し、関連を調べました。

 ボンディングは、赤ちゃんへの気持ち質問票からの5つの質問項目を用いて評価しました。また、産後うつについてはエジンバラ産後うつ病質問票を用いて評価しました。まず、約76,000人の母親全員の赤ちゃんへの気持ち質問票の回答を基に、5つの質問がどのような回答の傾向を示すか因子分析を用いて検討しました。その結果、2つの質問からの回答が「育児不安」の傾向を、3つの質問からの回答が「母親感情の欠如」を示すことが明らかになりました。そこで、ボンディングのこれらの指標と産後うつの指標の関連を調べたところ、「育児不安」と「母親感情の欠如」のいずれについても関連があることが明らかになりました。このことより、産後うつに対して早期の対応をすることによって、ボンディング障害を予防する可能性があることが示唆されました。

 次に、2回参加されている約3,700人で、ボンディングおよび産後うつの指標が、上の子と下の子の出産後でどう変化するかサブ解析を行いました。その結果、それぞれの総得点は、下の子の出産後で改善していました。また、「育児不安」、「母親感情の欠如」、を示す指標についても、下の子の出産後で改善していました。以上より、出産・育児経験を経たことでボンディングと産後うつの指標が改善し、とくに育児における「不安」の感情が和らぐことが示唆されました。このことから、初めての出産を迎える妊婦さんには出産前に赤ちゃんと触れ合う体験を増やすことで、育児不安を軽減できる可能性があると言えます。

 しかしながら、本研究は実験的な研究ではなく、観察した研究であるため断言することはできません。今後は、産後うつへの早期介入や、初産婦さんや未婚の女性への育児体験プログラムを提供するといった研究を積み重ねて、さらに検証していく必要があります。

Tsuchida A, Hamazaki K, Matsumura K, Miura K, Kasamatsu H, Inadera H, et al. Changes in the association between postpartum depression and mother-infant bonding by parity: Longitudinal results from the Japan Environment and Children's Study. Journal of Psychiatric Research. 2019;110:110-6.

エコチル調査富山ユニットセンター
 2019年1月