エコチル調査でわかったこと

つわりがひどい人は
産後うつになりやすい?

 妊娠中に起こる「つわり」は、多くの妊婦さんを悩ませる症状かと思います。エコチル調査ではこれまで、つわりと産まれてくるお子さんの体格や早産との関係を報告してきました。今回は、高知大学のエコチル調査の研究グループによる、つわり症状と産後うつとの関連を報告します。

 つわりの程度は、「妊娠してから妊娠12 週ころまでの間につわりの症状はありました?」という質問で

  1. つわりなし
  2. 軽度(吐き気のみ)
  3. 中等度(嘔吐はするが食事はとれた)
  4. 重度(嘔吐して食事もとれなかった)

という4択で回答いただきました。

 産後うつの程度は、産後1か月時点で回答していただいた「エジンバラ産後うつ質問票 (Edinburgh Postnatal Depression Scale: EPDS)」の結果を使用しました。エジンバラ産後うつ質問票は、産後2週健診や、1か月健診でお母さんにフォローが必要かどうかを判断する指標として一般的に使われております。80,395人を対象に調べたところ、この指標により、産後うつの傾向があると判定された方は14%でした。

 本研究では、つわりなしと判定された人とくらべ、軽度、中等度、重度の方では産後うつのなりやすさが高い傾向が見られました。

グラフに示した解析は、以下の因子で補正した結果です。精神疾患の既往、産科的な疾患、母親の年齢、出産前BMI、教育歴、
婚姻状況、世帯収入、母乳育児、喫煙状況、アルコール摂取状況、妊娠中の精神状態、出産歴、生殖医療、分娩様式、切迫流産、
出産時合併症、早産、早期破水、高血圧、妊娠糖尿病、児の性別、胎児ジストレス、SGA、先天異常、Apgar7未満

 この結果から、妊娠の早期に起きるつわりによるストレスが産後まで影響を及ぼしているのではないかと考えられますが、どのようなメカニズムで影響を与えているかはわかりません。メカニズムに関しては、今後別の研究から解き明かされることが期待されます。

研究を担当されたムチャンガ・シファ先生からのメッセージです

 主に妊娠初期に8割の妊婦さんが体験する「つわり」ですが、その程度や期間は様々で、吐き続けてしまい入院が必要な場合もあれば妊娠中期以降も続く場合もあります。ほとんどの妊婦さんが治療をすることなく乗り切ることができますが、検診の際には主治医や助産師にその症状を伝えるようにしてください。近年、「産後うつ」について研究が進む中で、つわりとの関係も注目されています。お母さんの心の健康は生まれてきたお子さんの健康にも影響を与えるため、パートナーや周りの方は妊娠中からの温かいサポートを、また妊婦さんは「つわりはあって当たり前だから」と我慢せず、気軽に医療機関へ相談するようにしてください。

ムチャンガ シファ 先生
国立国際医療研究センター・産婦人科専門医学博士・高知大学医学部 短期研究員
[コンゴ民主共和国出身。現在3児の母。高知大学医学部で博士号を取得。]

Muchanga SMJ, Eitoku M, Mbelambela EP, Ninomiya H, Iiyama T, Komori K, et al. Association between nausea and vomiting of pregnancy and postpartum depression: the Japan Environment and Children's Study. J Psychosom Obstet Gynaecol. 2020:1-9.

エコチル調査富山ユニットセンター
 2021年2月

※本記事は、論文とエコチル調査高知ユニットセンターの記事を基にエコチル調査富山ユニットセンターが再構成いたしました。