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「熱性けいれんについて」 目次

1、熱性けいれんとは
2、熱性けいれん発作時の対応
3、熱性けいれんの予防法
4、熱性けいれんの予後
※、熱性けいれんの最近の話題

熱性けいれんについて

1、熱性けいれんとは
「38度C以上の発熱に伴って生じる全身けいれんであり、発熱の原因が中枢神経系の感染症に起因しないもの」と定義される。
・世間一般では「ひきつけ」と称し、熱性けいれんやてんかんと区別?して良性のエピソードを意味する言葉がある。しかし、医学的には「ひきつけ」という言葉はなく、上記の定義を満たせば全て熱性けいれん(以下FC)として扱う。
・FCの頻度は日本では全人口の9%で、欧米の5%に比べて明らかに高く、極めてポピュラーな疾患である。
・FCの発症には遺伝的素因の関与が強く示唆されており、すでに遺伝子が判明したものもある。親がFCであると子供は 20%,兄弟がFCであると 50%,双子の1方がFCであると 80%の確立とする報告がある。
・FCは6ヶ月〜6才(特に2〜4才)で認められ、ほとんどの例では特別の治療をするまでもなく後遺症や発達障害を残さずに自然治癒する。しかし、FCの5〜10%(当科:8.5%)の症例では経過中に無熱性けいれんを生じ、てんかんへ移行する。
・てんかん症候群分類(1989年:国際てんかん連盟)では、FCは特殊症候群の状況関連性発作に分類されており、てんかんの中に含まれている。しかし、一般的には予後良好であることよりてんかんとは区別して扱う。

1)典型的な熱性けいれん(単純性FC)
・FCの定義にある如く、全身性で左右対称性のけいれんである。発作持続時間は5分以内で発作後はすみやかに意識が回復する。
・普通の活動をしていた子供が、突然に全身(手足・体・首・顔)を硬直させ、意識消失,眼球上転あるいは正中位固定,無呼吸,口唇のチアノーゼを伴なう発作(強直性けいれん)で始まり、続いて手足をビクンビクンさせる発作(間代性けいれん)に変わって行く。全身の強直性けいれんのみ、あるいは、間代性けいれんのみでも典型例に含める。
・いかにも重症なけいれんの様に見えるが、予後を考える上でこの発作型が最も良い発作である。 ・以上の様な発作型を示し、発作回数が少ないものを単純性FCと呼ぶ。

※FCは、体温が 38.5℃を超える時で且つ急速な上昇を示した時に起こる。ゆっくり体温が上昇した時に起こることは少ない。また、発熱初期に発作は集中しており(80%以上の発作は8時間以内に起こる)、最初の発熱時が最も高頻度である。この特徴はFCの再発を予防を考える上で重要なことである。
2)非典型的な熱性けいれん(複合型FC)
以下に示す発作症状や因子を有する例では、FCの再発率やてんかんへの移行率が単純性FCに比べて高く、より注意深い観察と予防を含めた処置が必要となる。
A:神経症状(器質的疾患)
・FC発症前から精神遅滞や小頭症などの神経症状を有し、器質性病変の存在が示唆される例。
・てんかんへの移行、特に症候性局在関連性てんかんへの移行が高頻度である。
B:部分発作(参照:てんかんの発作症状
・脳の一部のみ、または一部で始まり周囲(または脳全体)に広がる発作を指す。
・部分発作を示唆する症状として、@運動発作:顔や手足の一部のピクピク,眼球・顔の一側への偏位(回向発作),半身痙攣,発声,フェンシング様の姿勢などで頻度が高い。
A感覚発作:異常知覚,視覚や聴覚症状などで頻度は少ない。
B自律神経発作:嘔気・嘔吐,顔面蒼白などで比較的頻度が高い。
C精神発作:認知異常,幻視や幻覚などで頻度は少ない(高熱時せん妄,うわごとなどとの区別が難しいこともある)。
・これらの発作は、一見軽い発作に見えることが多く、いつ終了したのかも分かりにくいこともある。また、体がグニャグニャになっている,意識が混濁している(反応はかすかにある),口をモグモグさせている(自動症)などの場合もある。

C:長時間発作
・15分以上持続する発作を言う。
・全身痙攣が長時間となった場合でも間代性痙攣に移ったころから呼吸を再開しており、けいれんのみで死亡することはない。過度の刺激をせず、落ちついて対処すること。
・長時間発作を繰り返すことで、将来側頭葉内側硬化症が惹起されるとの報告がある。しかし、この頻度は極めて低く、数回までの長時間FCであればまず問題はない。

D:頻回発作
・短期間で頻回の発作を繰り返すものを指す。24時間以内に2回以上,6カ月間で3回以上,1年間で4回以上の発作が含まれる。
・一般的にFCは短時間に繰り返して起こる(群発発作)ものではない。

E:発作後の一過性神経症状
・発作後に長時間持続する朦朧状態や手足の麻痺(Todd's麻痺)を認める発作。
・通常、麻痺は強直あるいは間代けいれんの強かった部位で認める。1〜2時間で回復するものから翌日にわたるものまで様々だが、後遺症として残ることはない。

F:その他の因子
・両親・同胞の無熱性けいれん(てんかん)の既往歴:てんかんへの移行に関係する。
・両親の熱性けいれんの既往歴:FC再発に関係する。
・1歳未満発症のFC:FC再発に関係する。
・脳波上のてんかん性異常波:明らかな関係は確認されていないが、異常波の種類によってはてんかんへの移行に関係する。

2、熱性けいれん発作時の対応
1)家庭での対応と応急処置 (参照:
てんかん発作時の対応
・あわてず、落ちつき、他の家人を呼ぶ。ひとりは時間、もうひとりは発作の様子を観察する。
・着ている衣類をゆるめる。過度の刺激はしない。
・顔を横向きにして、頭部を反り気味にする。
・口腔内のものはガーゼ等でかき出す。歯をくいしばっていても、物をかませない。
・もとにもどるまで必ずそばについている。
・落ちついたら、体温を測定する。

2)早急に医療機関の受診が必要な場合
・初めての発作のとき。
・全身痙攣発作が5分以上続くとき。
・短時間に2回以上発作があるとき。
・部分発作(前述)のとき。
・発作後に神経症状(前述)を認めるとき。

以上の場合は、医師により発作に対する処置と必要に応じて原因検索(血液検査、髄液検査、頭部CT、脳波検査など)が行われる。検査により、代謝異常、電解質異常、低血糖、髄膜炎、脳炎脳症、頭蓋内病変(脳奇形、腫瘍、出血等)等が見つかる場合がある。

3、熱性けいれんの予防法
<治療法の歴史>
熱性けいれんの治療・予防は時代とともに変遷してきている。
◎1970年以前:予後良好の痙攣であるとして無治療。
◎1970年〜1980年:熱性けいれんからてんかんへの移行が注目され、全FC児にてんかんに準じた抗痙攣剤療法を行う必要性が強調された。
◎1980年以降:てんかんに移行する可能性が高いと思われる例に限定して一定期間抗痙攣剤を投与する‥‥NIH合意文1980,熱性けいれん懇話会治療指針1988。
◎1996年以降:FCの再発およびてんかん移行が予測される例に限定して、発熱時のみの間欠的予防(ジアゼパム坐剤)を行う‥‥熱性けいれん懇話会治療ガイドライン1996。
※発熱時のみの間歇的抗痙攣剤内服(フェノバルビタール):どの時代においてもこの様な治療法が推奨されたことはなく、薬物動態学的にも予防効果は否定されている。

<熱性けいれん懇話会、指導ガイドライン1996>
最も新しい治療指針である。問題点がないわけではないが、今までのFCに関する知見を参考にして作成されており、より合理的な予防法であると考えられる。当科ではすべてのFCを本ガイドラインに従って治療している。
患児が持っているFCの臨床特徴(要注意因子)に従って、1)2)3)を選択する(左図1)。
1)自然放置・・・単純性FCで、発作回数が少ない場合。
2)発熱時ジアゼパム(ダイアップ坐薬)の間歇投与法
◎適応 ・15分以上続く長時間発作。
    ・過去に2回以上のFCがあり、以下の2項目以上を満たす。
    ・頻回発作、短期間に発作を繰り返す(半年で3回、1年で4回以上)。
@FC発症前より発達遅滞や神経学的異常がある。
A非典型的FC(前述)。
B両親や兄弟に無熱性けいれんの既往がある。
C1才未満のFC発症。
D両親または片親にFCの既往がある。
※@〜B:てんかん移行に関連する因子、C,D:FC再発に関連する因子
◎方法(左図2)
体温が37.5℃以上になったら1回目を挿肛し、8時間経過して発熱が持続している場合、2回目を挿肛する。3回以上は使用しない。4〜5才まで予防を継続する。
※吸収するまで5分間かかる。急速な体温上昇時は間に合わない可能性がある。その為、1回目の挿入は37.5℃にこだわらず「熱があると思ったら迷わず挿肛する」でOK。




3)抗けいれん剤の持続投与法
◎適応 ・38℃未満の発熱での発作。
    ・頻回の長時間発作。
    ・ジアゼパム間歇投与法が無効と思われる例。
    ・その他、頻回のジアゼパム間歇投与法失敗例等、主治医と相談の上で適応とする。
◎方法 
発熱に関係なく1〜2年間抗痙攣剤(VPA, PB)を連日内服。4〜5才を目標とする。

4、熱性けいれんの予後
・FCの予後は全体的には良好である。しかし、5〜10%(当科では8.5%)は経過中または年齢を経て無熱性けいれん・てんかんに移行することがある。
cf. てんかんの発生頻度は全人口の0.9%であり、FC児ではてんかんになる確立が非FC児より5〜10倍高いということになる。
・前述した複合型FCつまり非典型的な臨床特徴を有する例は移行率が明らかに高い。
・移行するてんかんの種類は様々である(側頭葉てんかんや特発性てんかんが高頻度)。しかし、移行したとしてもてんかんの予後は良好であることが多い。
・脳には学習効果があると言われている。FCを繰り返すことはより発作を起こしやすい状態を惹起している、つまりてんかんへの移行につながると考えられ、FCの再発を予防することは重要なことと思われる。なお、痙攣による二次的な脳障害に関して注目されたこともあるが、現時点では長時間FC(多くは30分以上の重積症)を繰り返さない限り脳障害はないと考えられている。

※熱性けいれんの最近の話題
1、熱性けいれんと側頭葉内側硬化症
・近年、難治性てんかんの外科的治療が行われるようになり、側頭葉内側硬化症を有する例が注目されている(手術で 90%以上が完治する)。そして、側頭葉内側硬化症では幼少時にFCの既往が多いことより、FC特に繰り返す長時間発作がその原因ではないが?とする報告がある。
・当科で調査した結果、FCと側頭葉内側硬化が関係あると思われたのは2例のみで、否定はできないものの極めて頻度が低いことが推察された。

2、熱性けいれんプラスを有する全般てんかん
・オーストタリアのグループが、特有の熱性けいれんと全般てんかんを高頻度で合併する大家系を報告し、責任遺伝子も発見された。
・熱性けいれんは1歳頃発症して6歳以降まで持続し発作回数が多い。そして、経過中に無熱性けいれんを合併することがある。全般てんかんは大発作,欠神発作など様々である。しかし、全体的に発作予後は良好である。
・以前より、FCにおいては遺伝的素因の関与が推察されていた。この報告はその関与を始めて明らかにしたもので注目に値する。今後この様なアプローチが広がると思われる。

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last modified 99.1.25
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