食道がんについて

当院は、食道外科専門医が勤務する、北陸では数少ない食道外科認定施設の1つで、食道癌をはじめ、さまざまな食道疾患を対象に外科的治療を積極的に行っています。

1食道癌について
 食道は、口から入った食べ物を首(頸部)と胸(胸部)を通って胃(腹部)まで送る管状の臓器で、胸の中では左右の肺や気管・気管支、心臓、大動脈、背骨などに囲まれています。(図1)

 食道癌は、食道の内側にある粘膜から発生し、喫煙や飲酒、香辛料を多く使った食事などで危険性が増すといわれています。初期には自覚症状はなく、進行するにつれて食事のしみる感じやつかえ感、胸やけ、痛みなどの症状が現れます。さらに病状が進むと、声が枯れたり咳や痰が増えたりすることがあります。
 食道癌は早期発見が難しいこともあり、比較的治療が難しい病気と思われてきましたが、検査や治療法の進歩によってますます治る病気になってきました。
食道の位置
2食道癌の診断と治療
 内視鏡検査(胃カメラ)やバリウムによる上部消化管造影によって、癌の位置や大きさ、性質などを調べます。さらに、CT やMRI、PET-CT などの検査によって、周辺の臓器への広がりや、リンパ節転移や全身への転移の有無を調べることで、癌の進行度(病期・ステージ)を診断します。  食道癌の治療法には、手術や内視鏡(胃カメラ)治療、抗癌剤、放射線治療などがあり、病期に応じた治療を行っています(図2)。  近年は、手術と抗癌剤など、いくつかの治療法を組み合わせる場合が多くなっています(下記「集学的治療」を参照ください)。
食道癌に対する標準治療
3食道癌に対する胸腔鏡下手術
 食道癌に対する最も一般的な治療法は、手術です。国内で多い胸部食道癌に対しては、頸部、胸部、腹部の3か所の手術を同時に行います。まず、胸部で食道と転移があるかもしれないリンパ節を、気管や心臓、大動脈などから剥がして摘出します。次に、腹部で胃の一部と食道を切り取って、残った胃を細長く伸ばして、頸部の操作で持ち上げた胃と口側の食道をつなぎます(図3)。
 このように、比較的大きな手術であるため、患者さんの体力と手術の負担を考慮した上で、適応を決定します。
 食道癌の手術で、患者さんの体にとって最も負担になるのが、胸部の操作です。これまでは、大きく開胸していましたが、当院では、2008 年より胸腔鏡下食道切除術を導入しています。胸腔鏡下手術では、肋骨と肋骨の間に、5~10mm 程度の傷を4~5か所つけて、その1つからカメラ(胸腔鏡)を入れて、胸の中の様子をハイビジョンモニターで観察しながら手術を行います(図4)。この手術によって、より安全で緻密な操作が可能となり、リンパ節摘出数が増える一方、出血量は非常に少なくなりました(図5)。また、声を出したり食べ物を飲み込むときに重要な働きをしている反回神経という神経の周りのリンパ節を摘出する必要がありますが、NIMという神経検出モニタを使って術中に反回神経を確認しながらより安全に手術しています。
 近年は、腹部の操作も腹腔鏡で行うことで、さらに傷が小さくなり、体に対する負担や痛みが少なく、術後の回復がとても早くなっています(図6)。
食道がんに対する切除・再建手術 胸腔鏡下食道がん手術 胸腔鏡下食道がん手術 胸腔鏡下食道がん手術
4みんなで支える、体にやさしい食道癌治療
 胸腔鏡下手術によって体への負担が小さくなった食道癌手術ですが、さらに安心して手術を受けていただくために、入院前から病状や治療法について詳しい説明を聞いてもらい、術後の肺炎予防のための口腔ケアや呼吸訓練を行います。また、心臓や肺の働きを調べて、必要があれば治療やリハビリを行います。病状によっては、術前抗癌剤や放射線治療が必要な場合もありますが、内科、外科、放射線科、薬剤部などが連携して治療にあたります。術後も歩行リハビリや食事指導、栄養指導など看護部、理学療法部、栄養科などが連携して患者さんの早期回復のサポートを行います(図7)。これらの活動について日々評価と改善を行い、学会等で報告しています(図8)。
 このように、患者さんを中心とした治療を病院全体で支えながら進めることで、最新の医療をより安心・快適に受けていただけるよう取り組んでいます。
食道がん手術後のチーム医療 食道癌周術期チーム医療に関する学会報告
5集学的治療
 臨床病期Ⅱ、Ⅲといった進行癌症例においては積極的に術前補助化学療法(手術前の抗癌剤治療)を行い癌の根治率の向上に努めています。最近は、切除不能な進行癌に対して抗癌剤治療を行うことで癌が縮小して切除ができるようになる症例も増えています。
 図9に症例を示します。この患者さんでは食道癌が進行して食道をふさぐとともに、気管支に浸潤しているため切除不能でしたが、抗がん剤治療によって腫瘍が縮小し、気管支との境界がはっきりしてきたため手術を行い、安全に切除することができ、」お元気に過ごされています。
 そのほか化学放射線治療後の遺残や再発に対する切除(サルベージ手術)も安全に行っています。術前後の化学・放射線療法が必要な場合は、腫瘍内科、放射線科、薬剤部などと密に連携して治療にあたります。頸部食道癌に対する喉頭温存手術や、下咽頭・喉頭切除術なども当院耳鼻咽喉科と連携して行っています。
上部消化管内視鏡
6当科における診療実績
 当科での食道癌手術件数は、2008 年以後徐々に増加しており、2016 年は25件で、このうち18 件(72.0%)が胸腔鏡下手術でした(図10)。
 食道癌の治療成績を示します。2008 年から2014 年までの84 例の5年生存率(癌が治る割合)は、臨床病期Ⅰ期81.8%、Ⅱ期79.7%、Ⅲ期49.2%、Ⅳ期33.3%と、全国集計と比べても、非常に良好な結果です(図11)。
富山大学附属病院における食道がん手術件数の推移 富山大学附属病院における食道がん治療成績
7食道良性疾患の診断と治療
 食道良性腫瘍、食道アカラシア、食道裂肛ヘルニア、(逆流性食道炎)などを対象に、食道内圧測定やpHモニタリングシステムを用いた診断を行い、胸腔鏡・腹腔鏡による低侵襲手術を積極的に行っています。
8食道がんに対する新たな治療法開発を目指した研究
 食道がん手術ではがん病変を含めて食道の大半が切除されますが、病気の検査に必要な部分を除いたほとんどの部分が不要組織として廃棄されます。当科では患者さんの許可のもとこの不要組織の一部を保存して研究材料として使用しています。以下に研究の概略をお示しします。

A.がん幹細胞研究 

 食道がん組織から「がんの悪玉細胞」といわれる、少数の細胞(がん幹細胞)を探し出してその性質を調べることによって、より効率的にがんを退治する方法を研究しています(図12)。

B.血液循環がん幹細胞(CTSC)研究

 がん患者さんの静脈血液に紛れ込んでいるがん幹細胞を検出することでがんの早期発見や治療効果診断に役立てる研究をしています(図13)。

C.食道原発神経内分泌癌(小細胞癌)における治療効果予測についての研究

 非常に珍しいため標準的な治療法が決まっていない食道原発神経内分泌癌において手術によって治療できる可能性が高いかどうかを予測する研究です(図14)。
 この研究は日本神経内分泌腫瘍研究会の多施設共同プロジェクト研究として当科が主たる研究機関となって行われています。本研究の研究計画書と患者さんへ説明はこのホームページからご覧いただけます。(ⅰ.研究計画書第8版、ⅱ.オプトアウト用 web掲載内容、ⅲ.指針改正対応についてのメモランダム 5-8-2017)
食道がん切除標本を使ったがん幹細胞研究 血液循環がん幹細胞研究 マイクロRNA発現パターンによる治療効果予測
9英語論文(上記研究に関連するもの)
Okumura T, Shimada Y, Imamura M, Yasumoto S
Neurotrophin receptor p75 (NTR)characterizes human esophageal keratinocyte stem cells in vitro.
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Okumura T, Tsunoda S, Mori Y, Ito T, Kikuch K, Wang TC, Yasumoto S, Shimada Y
The biological role of the low affinity neurotrophin receptor (p75NTR)in esophageal squamous cell carcinoma. Clinical Cancer Research,12:5096-5103, 2006

Okumura T, Ericksen RE, Takaishi S, Wang SS, Dubeykovskiy Z, Shibata W, Betz KS, Muthupalani S, Rogers AB, Fox JG, Rustgi AK, Wang TC.
K-ras mutation targeted to gastric tissue progenitor cells results in chronic inflammation, an altered microenvironment, and progression to intraepithelial neoplasia.
Cancer Research,70:8435-8445, 2010

Shimada Y, Okumura T, Nagata T, Sawada S, Matsui K, Hori R, Yoshioka I, Yoshida T, Osada R, Tsukada K.
Usefulness of blood supply visualization by indocyanine green fluorescence for reconstruction during esophagectomy.
Esophagus, 8:259-266, 2011

Shimada Y, Okumura T, Sekine S, Moriyama M, Sawada S, Matsui K, Yoshioka I, Hojo S, Yoshida T, Nagata T, Fukuoka J, Tsukada K.
Expression analysis of iPS cell - inductive genes in esophageal squamous cell carcinoma by tissue microarray.
Anticancer Res, 32:5507-5514, 2012

Okumura T, Shimada Y, Moriyama M, Takei Y, Omura T, Sekine S, Nagata T, Shimizu K, Tsukada K.
MicroRNA-203 inhibits the progression of esophageal squamous cell carcinomawith restored epithelial tissue architecture in vivo. International Journal of Oncology, 44:1923-1932, 2014

Okumura T, Shimada Y, Sakurai T, Hori R, Nagata T, Sakai Y, Tsukada K
Abnormal cell proliferation in the p75NTR-positive basal cell compartmen of the esophageal epithelium during squamous carcinogenesis
Diseases of the Esophagus, 28:634-643, 2015

Okumura T, Shimada Y, Omura T, Hirano K, Nagata T, Tsukada K.
MicroRNA Profiles to Predict Postoperative Prognosis in Patients with Small Cell Carcinoma of the Esophagus.
Anticancer Res, 35:719-727, 2015

Shimada Y, Okumura T, Takei Y, Watanabe K, Nagata T, Hori T, Tsuchiya S, Tsukada K, Shimizu K
Role of fibroblast growth factor receptors in esophageal squamous cell carcinoma
Esophagus, 13:30–41, 2016

Ohnaga T, Shimada Y, Takata K, Obata T, Okumura T, Nagata T, Kishi H, Muraguchi A, Tsukada K.
Capture of esophageal and breast cancer cells with polymeric microfluidic devices for CTC isolation.
Molecular and Clinical Oncology, 4:599-602, 2016

Yamaguchi T, Okumura T, Hirano K, Watanabe T, Nagata T, Shimada Y, Tsukada K
Detection of circulating tumor cells by p75NTR expression in patients with esophageal cancer.
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Yamaguchi T, Okumura T, Hirano K, Watanabe T, Nagata T, Shimada Y, Tsukada K.
p75 neurotrophin receptor expression is a characteristic of the mitotically quiescent cancer stem cell population present in esophageal squamous cell carcinoma.
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Okumura T, Shimada Y, Watanabe T, Nakamichi N, Nagata T, Tsukada K
Functional outcome assessment of swallowing (FOAMS)scoring and videofluoroscopic evaluation of perioperative swallowing rehabilitation in radical esophagectomy.
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Circulating tumor cells expressing a cancer stem cell marker CD44 as a diagnostic biomarker in patients with gastric cancer.
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Okumura T, Kojima H, Miwa T, Sekine S, Hashimoto I, Hojo S, Nagata T, Shimada Y.
The expression of microRNA 574-3p as a predictor of postoperative outcome in patients with esophageal squamous cell carcinoma.
World J Surg Oncol. 2016.26;14(1):228.

Kojima H, Okumura T, Yamaguchi T, Miwa T, Shimada Y, Nagata T.
Enhanced cancer stem cell properties of a mitotically quiescent subpopulation of p75NTR-positive cells in esophageal squamous cell carcinoma.
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Okumura T, Yamaguchi T, Watanabe T, Nagata T, Shimada Y.
Clinical Relevance of a Candidate Stem Cell Marker, p75 Neurotrophin Receptor (p75NTR)Expression in Circulating Tumor Cells.
Adv Exp Med Biol.2017;994:247-254.