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1.はじめに
顔や口は、胎児期のはじめにいくつかの突起がくっついて形成されます。何らかの理由によって、その一部の突起がうまくくっつかないと、唇や口の天井(口蓋)が割れてしまうことがあります。このことを、専門的な言葉では裂の見られる部分によって、口唇裂(こうしんれつ)、口蓋裂(こうがいれつ)、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)と呼んでいます。


2.口唇・口蓋裂とは
唇だけに裂があるものを口唇裂(図1)、口の天井に裂があるものを口蓋裂(図2)、両方に裂があるものを口唇口蓋裂(図3)といいます。
 口蓋裂では、その形態のために次に述べるように口の機能に問題が起こります。ミルクが飲めない、歯の数が足りなかったり歯並びが乱れる、あごや顔面の成長発育が悪くなる、ことばの異常、耳の疾患、心理的な問題などです。しかし、現在では適切な時期に適切な手術、処置、訓練を行うことで、これらの問題を最小限に抑えることができます。そのためには高校を卒業するくらいまでの長期的な治療が必要となりますが、その間は、ほぼ健常児と変わらない日常生活を送ることができます。




3.治療について

【口唇口蓋裂治療のフローチャート (富山大学 口腔外科 こども口機能専門外来)】


フローチャートの説明
①哺乳床(ホッツ床)
 ホッツ床は、口の中の型をとって作るプラスチックの入れ歯のようなものです。口蓋に裂がある場合は、哺乳がうまくできないことがありますが、ホッツ床を用いて裂隙のある口蓋部を覆うことにより、哺乳を助けることができます。
 ホッツ床には、あごの誘導・発育の働きもあるので、成長に合わせて何度か調整したり、作り直したりすることが必要となります。



②術前鼻矯正
 口唇口蓋裂の場合、鼻が扁平で拡大しているので、手術の前までにホッツ床から ワイヤーを伸ばして鼻軟骨を挙上したり、鼻の下にテープをはることによって鼻の形を整えたりすることがあります。

《術前外鼻矯正と口唇テープの効果》


③口唇マッサージ
 口唇のマッサージをすることにより、口の周りの筋肉がやせるのを防ぎ、口唇の発育をうながします。
④口唇形成術
 生後3ヶ月、体重6kg以上を目安に全身麻酔により口唇形成術を行います。口唇の裂を閉鎖し、自然な口唇形態を作ることを目的とした手術です。口の周りの筋肉である口輪筋の連続性を作り、唇の自然な動きと機能を回復することも大きな目的の1つです。
⑤口蓋形成術
 通常は1歳~2歳までに行われます。口と鼻を遮断させるだけでなく、左右に別れた軟口蓋の筋肉をつなぎ、正常な鼻咽腔閉鎖機能を獲得することを目的としています。多くの児は2歳になる頃までに話しことばが増加するため、この時期までに口蓋形成術を行うことにより、良好なことばの発達が期待できます。手術による傷のひきつれによって、顎発育が抑制されることを防ぐ目的で、当科では以下に示す手術法を選択しています。
 粘膜弁法によるpushback operation(プッシュバックオペレーション):硬口蓋部の骨膜を口蓋の骨に残したまま粘膜弁のみを挙上し、これと連動した軟口蓋とも後方移動させる方法です。骨の露出がないために傷のひきつれが軽度ですみ、上あごの発育抑制が軽度で、言語成績も良好です。(顎発育を考慮した二段階法を選択する施設もあります。二段階法とは軟口蓋と硬口蓋を二回に分けて閉鎖する方法です。)



⑥言語治療
 口蓋裂があると息が鼻に漏れてことばがはっきりしません。口蓋形成術を行うことで鼻咽腔閉鎖機能を獲得できるようにします。術後にその機能を十分使っていない場合には、ちがうことばに聞こえる場合があります。そのときはおもちゃのラッパを吹かせる、シャボン玉を吹かせる、コップの水にストローで息を吹き込ませて泡を立てるなどの遊びの要素を多くして鼻咽腔閉鎖機能の治療を行います。また、誤り音を自覚させ、正しいことばの作り方を獲得させ、正しい音を習慣化させるというような治療や、言語の発達をうながす治療が必要になります。
⑦口唇・鼻形態修正術
 成長に伴い口唇の傷のひきつれが目立つようになってきたり、鼻の形態が変形してきたりすることがあります。必要に応じて適切な時期に口唇・鼻形態修正術が行われます。
⑧歯科矯正治療
 口唇口蓋裂児は上あごの発育が悪く、上あごの歯が下あごの歯の内側にある反対咬合(受け口)になりやすいです。また、歯の数が足りなかったり、歯の形が通常より小さくて、上あごの歯並びが複雑になることがあります。こうした咬み合わせの問題は、主に矯正歯科医が治療にあたりますが、顎裂部の骨移植、顎矯正手術(上下の顎の成長がアンバランスな場合に顎の骨を移動させて咬み合わせを改善する)、歯科補綴治療(歯にかぶせものをして咬み合わせを改善する)などを総合的に考え、治療計画を立てる必要があります。
⑨顎裂部骨移植術
 犬歯萌出前の9~12歳ごろに顎裂部に自分の腰骨の骨髄を移植することで、上あごの骨を再生することができます。これにより歯を誘導することができるために、自分の歯で安定した咬み合わせを獲得することが可能になります。
⑩中耳炎・副鼻腔炎
 口蓋裂があると乾いた空気や食べ物が直接咽頭部に送り込まれるため、咽頭部の粘膜の炎症や副鼻腔炎(蓄膿症)を起こしやすい状態です。咽頭部に開口している耳管に炎症が波及すると中耳炎を起こします。また、耳管の周りの筋肉の走行異常・形成不全、付着の異常が原因で耳管の機能障害があるために、中耳炎が起こりやすい状態になっています。耳をむずがったり、聞こえが悪いと思われる場合は耳鼻咽喉科受診が必要になります。




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