富山大学附属病院 顎口腔外科・特殊歯科
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 口蓋裂に対する口蓋形成術の目的は、単に裂を閉鎖するだけではなく、鼻咽腔閉鎖機能の獲得にあります。広く行われているのが、軟口蓋筋群の再構成と軟口蓋の延長をはかる〝Pushback operation(プッシュバックオペレーション)〟です。この手術方法による鼻咽腔閉鎖機能の獲得率は90%以上と安定した成績が得られていますが、術後に強い瘢痕形成(傷のひきつれ)が起こり、そのために顎の発育を妨げてしまうことが問題となっています。
 当科ではModified pushback operation(粘膜-骨膜複合弁によるPushback operation:以下MPO)〟を採用しています。この方法は、〝Conventional pushback operation(従来のpushback operation:以下CPO)〟と同様に鼻咽腔閉鎖機能をはかるとともに、瘢痕の原因となる術後の骨の露出がないように改良された方法なので、CPOと比較して、顎の発育、口蓋の知覚、言語成績の面で優れていることが示されています。




 Noguchiらの検討(表1)では、上顎に並ぶ左右の奥歯の間の距離(上顎の左右方向の成長)は、手術をしていない正常対照群55.4mmと比較して、MPO51.3mmCPO52.4mmで、両群とも有意に短いことが示されました。しかし、前歯から奥歯までの距離(上顎の前後的な成長)は健常群32.7mmに対して、MPO30.9mmCPO27.2mm、口蓋の深さ(上顎の上下的な成長)は正常対照群14.9mmMPO16.1mmCPO12.2mmであり、MPO群はCPO群に比べて有意に長く、正常対照群と比べても劣っていませんでした。MPOは上顎の前後的、上下的な成長を妨げないことが分かります。


表1 口蓋の形態における正常対照群、MPO群、CPO群の比較(測定平均値)

測定項目

\術式(人数)

正常対照群(35人)

MPO15人)

CPO23人)

口蓋の幅

C-C'

36.0

33.8

33.6

M-M'

55.4

51.3

52.4

口蓋の長さ

32.7

30.9

27.2

口蓋の高さ

14.9

16.1

12.2

MPO:粘膜-骨膜複合弁によるpusnback operationCPO:従来型pushback operation
C-C’:上顎の左右の犬歯間距離(mm)、M-M’:上顎の左右の第一大臼歯(奥歯)間距離(mm
口蓋の長さ:上顎中切歯(前歯)の間~左右の上顎第一大臼歯遠心面間線(奥歯の後ろ)までの距離(mm)、口蓋の高さ:口蓋~上顎左右第一大臼歯口蓋側歯肉点間線(奥歯の裏側の歯ぐきの高さ)までの距離(mm






 Noguchiらの接触感覚の検討(表2)では、MPO群は正常対照群と似ており、CPO群より有意に低い値を認めました(より小さな刺激にも反応できるということ)。口腔の立体認知能力が正常構音の獲得に関与していると言われておりますので、MPOを行った場合、言語成績にもより良好な影響を与えると考えられます。

表2 口蓋形成術後の唇顎口蓋裂患者における、SWモノフィラメントによる口蓋知覚検査

口蓋の領域\

術式(人数)

正常対照群(35人)

MPO18人)

CPO19人)

前方

2.17

2.47

3.58

側方

2.35

2.69

3.72

Pushback operationによって上皮欠損が起こり骨が露出する部位における、SWモノフィラメントを用いた知覚テスト結果。数値が小さい方がより小さな刺激にも反応できる、つまり、知覚が鋭いことを示します。






 Itoらによる学童期における言語成績を示します(表3)。正常言語獲得率は、CPO群では口蓋裂単独(ICP)で83%、片側性唇顎口蓋裂(UCLAP)で75%、残りの2030%で異常構音を認めました。その多くは、舌と口蓋との接触関係でつくられる子音に問題(口蓋化構音)がありました。これと比較してMPO群ではICP100%UCLAP97%で、ほぼ全例が正常言語を獲得できました。歯の並び、口蓋の形態、口蓋の知覚が、言語習得期における発達に影響を与えた可能性が考えられます。

表3 口蓋形成の術式の違いにおける、学童期の構音障害

術式

裂の種類

評価時期

構音障害

正常構音(%)

口蓋化構音

側音化構音

声門破裂音

その他

MPO

ICP

29人)

就学前

1

0

2

1

25(86)

入学後

0

0

0

0

29(100)

UCLAP

33人)

就学前

8

3

1

0

23(70)

入学後

1

1

0

0

32(97)

CPO

ICP

23人)

就学前

2

2

1

0

18(78)

入学後

2

1

0

1

19(83)

UCLAP

243人)

就学前

10

0

2

0

12(50)

入学後

6

1

0

0

18(75)

以上より、当科での口蓋形成術はModified pushback operation(粘膜-骨膜複合弁によるPushback operationMPO)〟を採用しています。

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