当研究室では大きく分けて3つの研究を行っている。
1.羊膜を用いた研究
再生医療(細胞移植療法)には移植するための細胞、細胞の増殖や分化を制御する増殖因子やサイトカインなどの液性因子、細胞の増殖や分化に必要な微小環境を構成する細胞外マトリックスや人工物などの足場、の三要素が重要である。このうち、細胞として幹細胞の利用が期待される。
我々は細胞供給源として、羊膜細胞に着目してきた。ヒト羊膜細胞は受精後8日目に胚盤葉上層が二分して形成され、外胚葉由来の上皮細胞と中胚葉由来の間葉系細胞からなる。羊膜は胎児由来の細胞から形成されES細胞が樹立される時期とほぼ同時に分化する発生学的にはきわめて近い組織であることから、多くの幹細胞が残存する可能性が示唆される。
羊膜は、帝王切開例よりインフォームドコンセントを得て採取する。
a. 羊膜の性質に関する研究
羊膜に関する生物学的組織学的研究
免疫染色、電子顕微鏡による解析などにより羊膜の組織学的研究を行っている。
また、羊膜と胎盤組織、絨毛膜など胎児関連組織を比較することにより、羊膜の特性を知る。
羊膜由来細胞の分子生物学的解析
羊膜由来細胞は幹細胞様の性質を持ち、免疫拒絶性が低いことから、再生医療の細胞源として注目されているが、その生物学的、分子生物学的解析はほどんど行われてこなかった。そこで、羊膜由来上皮細胞と羊膜由来間葉系細胞を用いて、フローサイトメトリー、免疫蛍光染色、定量的PCR法にて遺伝子レベル、たんぱく質レベルの発現解析を行い、幹細胞としての性質を検討している。
羊膜細胞の不死化
羊膜由来細胞の弱点の一つに長期に増殖能を保持しないことがあげられる。これを改善するためにHAE および HAM にレトロうウイルスを用いてhTERT, E6/E7 を導入することにより不死化羊膜上皮細胞(immortalized HAE ;iHAE) ,と不死化羊膜間葉系細胞(immortalized HAM;iHAM) を数系統ずつ樹立した。これらを用いて、遺伝子発現解析、免疫蛍光染色などの解析や、神経、骨、軟骨、脂肪、心筋などへの分化能を検討している。(国立がんセンター清野透先生との共同研究)
b. 羊膜由来細胞の各組織細胞への分化の検討
遺伝子導入した細胞は実際の細胞移植療法の臨床応用には向かないことを踏まえ、HAM細胞のなかからとくに増殖能が強いものを用いて、骨、軟骨、心筋、脂肪への分化能を検討している。
HAE細胞から幹細胞の性質の一つであるSpheroidを形成する細胞を用いて、神経、膵β細胞などへの分化を検討している。
c. 各種疾患治療への応用
iPS細胞や骨髄由来間葉系幹細胞では培養期間が長期にわたるために、この急性疾患治療には適さない。羊膜由来細胞は、免疫拒絶性が低いことからレディメイドの細胞源となることが期待される。
脊髄損傷修復
脊髄損傷には損傷後2週間以内に細胞を移植することで治療効果が得られるとされているおり、レディメイドの移植細胞源を用意することが期待される。そこで、脊髄損傷モデルラットに対してiHAMを移植し、その治癒効果を検討した。IHAMのみ、あるいはヒアルロン酸とIHAMを移植することにより、運動機能回復を認めた。
このほか、アルツハイマー病、糖尿病治療への応用を目指して研究を行っている。
2. 組織工学的研究
a. ハイパードライ羊膜
羊膜を生体膜としてとらえ、より効果的により簡便に臨床に用いることを目的とし、ハイパードライという特殊な方法で羊膜を乾燥させた。このハイパードライ羊膜の生物学的、物理学的解析を行うとともに、既に、眼科、口腔外科、耳鼻科、脳外科などで実際の治療効果を検討している。
b. バイオプリンティング法を利用した医療用ロボットの開発
富山大学工学部中村真人先生戸田英樹先生との共同研究により、生体イメージをコンピュータに取り込み、バイオプリンティング法により取り込んだイメージを再現するロボットを開発している。 3. 癌幹細胞の研究 癌組織には少数の癌幹細胞が存在するという仮定に基づき、この癌幹細胞をターゲットとした新規抗癌剤の開発を目指して、婦人科腫瘍、口腔腫瘍を用いて、細胞の遺伝子発現解析、原発癌組織標本に対する免疫組織染色、動物実験などにより、各腫瘍に存在する癌幹細胞のマーカー同定を検討している。
3. 癌幹細胞の研究
癌組織には少数の癌幹細胞が存在するという仮定に基づき、この癌幹細胞をターゲットとした新規抗癌剤の開発を目指して、婦人科腫瘍、口腔腫瘍を用いて、細胞の遺伝子発現解析、原発癌組織標本に対する免疫組織染色、動物実験などにより、各腫瘍に存在する癌幹細胞のマーカー同定を検討している。