2021.03.24
医局コラム

「隣の芝生」

 今の家に引っ越して一年がたった。家といっても借家だが、住み心地がよく気に入っている。オーナーは、本学の元教員らしく終の棲家として理想の家を建てたが、築2年で思いがけず昇進が決まり引っ越すことになったそうだ。泣く泣く売りに出したが、買い手がつかず賃貸に出すことになったと聞いている。オーナーの思いを引き継いで大切に使っている。広い庭があり、妻や子供達は家庭菜園やガーデニングを楽しんでいる。周囲の道は狭く大雪の際は苦労したが、それ以外に不満はない。
 引っ越し後、新しい日課の一つに“芝生の管理”が加わった。ガレージ横の小さなスペースに芝生を植えたのだ。オーナーからは“庭は好きに使ってよい”と言われており、必要な道具一式が残されていた。雑草を取り、土を耕し、平にした後、ムサシで芝生を大量に買い込んで、敷き詰めた。もちろん芝生を植えるのは初めての経験で、思いのほか苦戦したが、COVID自粛中の暇つぶしにはもってこいだった。次々に生える雑草を処理し、肥料を与え、夏の暑い日にはたっぷりと水を撒く必要があった。芝刈り機を購入し、定期的に短く刈り込んだ。努力の甲斐あって、芝はしっかりと生着して青々と育ってくれた。
 自分で芝生を育てるようになると、やはり気になるのが“隣の芝生”だ。近所を散策すると、広い庭に芝生が植えられており、きれいに管理されている。どうしても自分の芝生と比較してしまう。“隣の芝生は青い”という言葉は有名だが、The grass is always greener on the other side of the fence が語源となっているそうだ。米国留学中にも実感したが、アメリカ人は異常なまでに芝生にこだわりを持っていた。日本以上に景観を重視する文化があったように思う。どうやら“隣の芝生”が気になるのは世界共通らしい。
 新しい春がきて、我が家の芝生も雑草まみれになってきた。5月には新芽がでて芝刈りと散水に追われる毎日がやってくる。花粉の季節がすぎたら、本格的に草むしりを開始する予定だ。裏庭にもまだまだ荒地が残っており、今年はそこにも芝生を植えたいと思っているが、まだ妻の同意は得られていない。 “隣の芝生”に一喜一憂せず、あせらず、マイペースで進みたいと改めて感じる春になった。

医局員 Y