2021.07.09
医局コラム

オリンピアンたちの言葉

 4年に1度という特別さがあるオリンピックは、それにかける選手たちの思いも熱く、観る私たちにもその熱は伝播する。勝った人も負けた人も、その口から吐露される言葉は4年という歳月が乗っかった実に素直な心情が溢れていて、真実の言葉だからこそ心を奪われる。スキージャンプ原田雅彦の「ふなき~ふなき~・・」、モーグル上村愛子の「なんでこんな一段一段なんだろう」などはその言葉が出た背景を知っているからこそ最も印象に残っていたりする。
 今回の東京オリンピック、まだ始まっていないがすでに心に響く一言があった。水泳の池江璃花子さんが発した、大病からの復活優勝を果たした際の「努力すれば必ず報われる」である。私は素直に、「いったいどれだけ自分を信じてどれほどの努力をしてきたのだろう、頑張った人だけが発することのできる言葉で、本当に良かった!」と感動を覚えた。しかし世の中には、報われる=勝者ではない、その発言はおかしい、ほかに頑張っている人をないがしろにしている、と批判もあり、池江さんもその後発言をトーンダウンさせている。ちょっと寂しい気がした。
 努力とは “自分を一歩前に進ませようとすること” であり、報われるとは “少し前に進んだ自分を実感できること” なのだと私は思う。きっと池江さんは優勝できていなくても成長している自分を感じることができれば程度は小さくても“報われた”と実感したと思うのである。それが勝負にも勝って最大限報われたと実感できた中での心から飛び出した言葉であったのだと思う。決して他人を無下にするつもりなんかないことは明らかで、むしろ病気前からは見る影もないほど痩せた肩まわりで優勝までこぎつけた努力を、素直に称え世間も一緒に喜んでもよかったのではないだろうか。
 コロナ禍で大変な状況である。政府のコロナ対策も非常に甘い。オリンピックでの感染拡大も懸念される。不安は尽きぬが、オリンピックは開催されるようである。こうなったら選手たちには雑音なき世界で真剣な勝負を繰り広げて欲しいと願う。そして最大限の努力をしてきた選手たちの内から溢れ出てくる言葉で、感動を、元気を、前向きな力をみんなで感じ取りたいと思う。