エコチル調査でわかったこと

妊娠中の食事からのビタミンD摂取量は子どもの3歳時点のアレルギー疾患と関連する:エコチル調査

 近年、アレルギー疾患が増加傾向にあると言われています。様々な要素がそこに関係していると考えられていますが、ビタミンDをはじめとする栄養素の影響が注目されています。ビタミンDは免疫系において重要な働きをすることが知られており、小児期のビタミンD不足はアレルギー疾患の発症との関連も指摘されています。一方で、妊娠中のお母さんのビタミンDの摂取量が子どものアレルギー疾患に関与するかどうかについては、意見が分かれています。

 我々は以前に、エコチル調査を用いて妊娠中のビタミンDの摂取量とお子さんの1歳時点のアレルギー疾患の関係について調査しました(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnsv/68/5/68_375/_article)。そこには明確な関係は見出せませんでしたが、1歳においては評価できない疾患もあり、また低年齢ではアレルギー疾患の正確な診断が難しいため、正確な結果が得られなかった可能性が残りました。そのため今回はエコチル調査に参加いただいた73,209組の母児を対象とし、妊娠中のビタミンD摂取量とお子さんの3歳時点のアレルギー疾患との関係について調査しました。

 妊娠中のビタミンDの摂取量は食物摂取頻度調査票と呼ばれるアンケートを用いて計算し、ビタミンDの摂取量によってお母さんを5つのグループに分類し、各グループ間の違いを検討しました。お子さんのアレルギー疾患は3歳時点のアレルギー症状(ぜん鳴、アレルギー性鼻炎、アレルギー性鼻結膜炎、アトピー性皮膚炎)の有無および、3歳までにアレルギー疾患(気管支ぜん息、花粉症、アトピー性皮膚炎)と診断されたかのそれぞれについて検討しました。アレルギー症状については、国際的な調査で用いられるInternational Study of Asthma and Allergies in Childhood (ISAAC)調査票に基づき評価しました。得られた情報をもとに、お母さんのアレルギー疾患の既往や出生週数・体重など、アレルギー疾患に影響を及ぼす他の様々な条件を一定にするための解析を行いました。その結果を以下に示します(図1)。

図1:ビタミンD摂取量とアレルギー性疾患との関係

 妊娠中のビタミンD摂取量が少ないグループと比較して、摂取量が多くなるほどお子さんが3歳時点でアレルギー性鼻炎の症状がある割合が低いことがわかりました。また、ビタミンD摂取量が最も少ないグループと比較して、2~4番目に摂取量が多いグループでは、花粉症と診断されているお子さんの割合が低いこともわかりました。他の項目では、アレルギー性鼻結膜炎を含め、ビタミンDの摂取量による明らかな差は見られませんでした。

 今回の研究では妊娠中のビタミンDの摂取量の平均値は1日あたり4.7μgと、調査時点の日本人の食事摂取基準(2015年版)で示された妊婦の目安量である7μg(2020年版の目安量は8.5μg)より大幅に少ないこともわかりました。幼児期のアレルギー性鼻炎の罹患は、後の気管支ぜん息発症のリスクになる可能性も指摘されており、妊娠中のビタミンD摂取量を増やすことでそういったアレルギー疾患のリスクを減らすことができる可能性があります。

 一方でこの研究の解釈にはいくつかの注意点もあります。ビタミンDの摂取量やアレルギー疾患の診断などはアンケートを用いて収集したため、記憶違いや回答ミスなどが含まれている可能性があります。そのほか、ビタミンDは日光に当たることによっても体内で生成されますが、その影響を完全には排除できていません。また、お子さんが生まれた後のビタミンDの摂取量についても考慮していません。また、本研究の結果は大多数の人々を比較して見えた傾向であって、お子さんがアレルギー疾患になった理由が「妊娠中のビタミンD摂取量が少なかったからである」ことを示す内容ではありません。

 今後はお子さんの食事内容などさらに情報を集めるとともに、より高年齢でもアレルギー性鼻炎の予防が示唆される関連が認められるのか、さらに調べていく必要があります。

 この研究成果は、医学系専門誌「International Archives of Allergy and Immunology」に2023年8月22日にオンライン掲載されました。

Maternal Dietary Vitamin D Intake during Pregnancy Is Associated with Allergic Disease Symptoms in Children at 3 Years Old: The Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年11月