エコチル調査でわかったこと

生後6か月までの母乳育児の状況と6歳までの子どものアレルギー疾患罹患との関係

背景と目的

 子どものアレルギー疾患は生活の質にも影響する重要な健康課題であり、アレルギー疾患と関連する因子を明らかにし、予防戦略を検討することは、公衆衛生・小児保健の重要なテーマとなっています。
 世界保健機関(WHO)は現在、乳児の最適な成長と発達を促進するため、生後6か月間の完全母乳育児(EBF: exclusive breastfeeding)を推奨しています。母乳育児は、子どものアレルギー疾患の発症に関連することが報告されており、これまでの研究では、生後4~6か月間の完全母乳育児(EBF)は就学前の子どもにおける気管支喘息およびアレルギー性鼻炎のリスクを低下させる可能性が報告されています。その一方、母乳育児と食物アレルギーとの関連については、異なる結果が報告されており、その理由のひとつとして研究の方法論的な相違に起因する可能性が指摘されていました。
 そこで、全国規模の出生コホート調査である「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いて、完全母乳育児と粉ミルクを併用した母乳育児を区別し、生後6か月間の母乳育児の状況が、6歳までのアレルギー疾患(気管支喘息、アレルギー性鼻結膜炎、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎)の発症とどのように関連しているかについて検討しました。

研究概要

  • エコチル調査に登録された、計104,043組の母子のデータの内、子どもの性別や授乳に関する回答等が不完全なデータを除き、合計88,037組の母子ペアを分析しました。年齢ごとの対象数は、生後~1歳未満 84,120組、1歳以降2歳未満 83,486組、2歳以降3歳未満 76,672組、3歳以降4歳未満 72,735組、4歳以降5歳未満 68,753組、5歳以降6歳未満 69,209組でした。
  • 母乳および粉ミルクの育児期間は、「母乳育児および粉ミルク育児の期間をご記入ください。」という質問について、生後6か月時に母親に回答してもらいました。回答は母乳および粉ミルクを授乳している期間を生後1か月目から6か月目までの1か月単位の区間に線を引いて記入してもらいました。
  • 生後6か月までの母乳および粉ミルクの育児期間については、以下の4つのグループに分類しました。

    • 完全人工栄養6か月(母乳を一切与えない)
    • 母乳6か月未満(粉ミルクを与えて、かつ、母乳を与えた期間が6か月未満)
    • 母乳6か月+粉ミルク(粉ミルクは与えたが、母乳は6か月間ずっと与えていた)
    • 完全母乳6か月(6か月間、母乳のみ与えていた)

    離乳食(固形食)の開始時期や内容については考慮せずに、生後6か月までの母乳および粉ミルクの授乳状況のみに基づいて分類しました。

  • 子どものアレルギーに関する情報は、「前回の調査以降、お子さんは医師によりアレルギー疾患と診断されましたか?これには、お子さんが引き続き医療ケアや治療を受けていた場合も含まれます。」という質問に対し、保護者に回答してもらいました。前年にアレルギー疾患の診断があったかどうかを確認するため、6年間にわたり毎年アンケートが配布されました。この結果は、各期間における年齢別1年有病率を反映するものと考えられます。今回、検討したアレルギー疾患は、気管支喘息、アレルギー性鼻結膜炎、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎の4疾患です。
  • 統計解析には、一定期間で発生する事象の回数を予測・分析する統計手法のひとつであるポアソン回帰分析を用いました。生後6か月までの母乳および粉ミルクの育児期間で分類した4グループにおける、アレルギー疾患の罹患リスク(リスク比:RR)と95%信頼区間(95% CI)を推定しました。解析は母親の年齢、学歴、婚姻状況、飲酒・喫煙状況などの因子を用いて調整し、完全人工栄養6か月のグループと比較したリスク比として算出しました。

主な結果

 生後6か月までの母乳および粉ミルクの育児期間の割合は、完全人工栄養6か月2.3%、母乳6か月未満24.9%、母乳6か月+粉ミルク37.4%、そして、完全母乳6か月35.3%でした。
 完全人工栄養6か月のグループに比べて、完全母乳6か月のグループでは、生後~1歳未満で気管支喘息の罹患リスクが、1歳以降2歳未満で気管支喘息、アレルギー性鼻結膜炎の罹患リスクが統計的に有意に低下していました。一方で、3歳までの食物アレルギーの罹患リスクについては統計的に有意に上昇していました(図1)。

a.気管支喘息
b.アレルギー性鼻結膜炎
c.食物アレルギー
d.アトピー性皮膚炎

図1(a~d)生後6か月までの母乳および粉ミルクの育児期間とアレルギー疾患の罹患リスク
(リスク比と95%信頼区間)

 生後6か月までの母乳育児の状況と3歳までのアレルギー疾患罹患との関連が示されたため、3歳までの状況について男女別に検討しました。その結果、完全人工栄養6か月のグループに比べて、完全母乳6か月のグループでは、気管支喘息の罹患リスクにおいて、男子では1歳以降2歳未満、女子では生後~1歳未満において統計学的に有意な関連が認められました。一方、食物アレルギーの罹患リスクについては、男子では生後~3歳未満、女子では生後~2歳未満において統計学的に有意な関連が認められました(図2)。

a.気管支喘息
b.アレルギー性鼻結膜炎
c.食物アレルギー
d.アトピー性皮膚炎

図2(a~d)生後6か月までの母乳および粉ミルクの育児期間と男女別にみた3歳までのアレルギー疾患の罹患リスク
(リスク比と95%信頼区間)

考察と限界

 本研究は、生後6か月までの完全母乳育児は2歳までの気管支喘息に対する予防効果がある可能性を示唆しており、母乳育児が子どもの気管支喘息に対して予防効果があることを報告した、これまでの結果と一致していました。一方で、完全母乳育児は3歳までの食物アレルギーの罹患リスクを高める可能性があることを示唆しています。
 食物アレルゲンに対するアレルギー免疫獲得は、一般的に早期の経口摂取によってもたらされると考えられており、特定の食品を早期に導入することにより食物アレルギーのリスクが低下する可能性が報告されています。現在の「食物アレルギー診療ガイドライン」では、母乳育児を継続しつつ、生後4~6か月の間に固形食を導入することが推奨されています。母乳育児に加え、月齢に応じて離乳食を取り入れた栄養摂取を進めることが食物アレルギーの罹患リスクを低下させると考えられており、本研究結果はこのガイドラインの推奨を支持する結果といえます。
 本研究の限界として、アンケートの回答は回答者の思い出しに基づくものであることから思い出しバイアスが生じる可能性があります。また、離乳食の詳細な内容について考慮することができなかったこと、父親のアレルギー既往歴について調整できなかったこと、さらに他の未測定の要因が存在する可能性などがあげられます。また本研究は観察研究であるため、母乳育児と子どものアレルギー疾患との関連性に因果関係があることを示すものではありません。

意義と展望

 生後6か月間の母乳育児は、気管支喘息に対しては予防効果をもたらす一方、食物アレルギーの罹患を高める可能性が示唆されました。特に男子において、食物アレルギーに対して、3歳までの罹患リスクを高める可能性が示唆されました。
 生後6か月を超える長期の母乳育児や離乳食の内容が、小児のアレルギー性疾患の罹患に影響を及ぼす可能性があり、今後さらなる研究が必要であると考えられます。

 この研究成果は、国際的な医学系専門誌「BMC Pediatrics」に2026年4月21日に掲載されました。

Association of breastfeeding with caregiver-reported physician-diagnosed allergies in children: the Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2026年5月

ちょっと詳しく

母乳育児について

 母乳育児は、母児ともに良好な影響を与えることから推進されてきました。2018年WHOとユニセフによる「母乳育児成功のための10ヵ条」が発表され、母親が分娩後30分以内に母乳育児を開始し、その後6か月間は粉ミルクを与えずに母乳で育てる「完全母乳育児」ができるようサポートすることが提言されました。
 一方、病気の治療ゆえ母乳育児ができない場合や、乳首に傷や痛みが生じることで授乳がうまくいかない場合もあります。母乳育児は可能な限り取り組みたいものですが、母乳育児ができないことでの罪悪感などの負の感情が生じないよう、周囲の温かいサポートが重要です。

食物アレルギー診療ガイドライン

 この診療ガイドラインは、「食物アレルギー」を主題として、一般社団法人 日本小児アレルギー学会(JSA)によって作成されました。2021年版が最新版で、アレルギー対応の標準化と生活の質(QOL)向上を目指し、科学的根拠に基づいた診療基準が示されています。具体的な内容は、医療従事者向けに安全な経口負荷試験の実施方法、正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去、妊娠中・授乳中の食事制限や、乳児の食物アレルギー発症予防に関するエビデンスなどが示されています。