妊娠前のBMI、妊娠中の体重増加量は出産後6か月間の母乳栄養の継続と関連する(エコチル調査より)
母乳育児は世界中で広く推奨され、出生後は母乳で育てることが望ましいとされています。母乳のみで育てられた子どもはそうでない子どもに比べて、感染症の罹患率や死亡率が低いことが知られています。また、母親に対しても完全母乳栄養(exclusive breast feeding :EBF)は卵巣がんや乳がん、2型糖尿病の発症率低下と関連することが報告されています。このため世界保健機関(World Health Organization : WHO)は、出産後6か月間の母乳栄養を推奨しています。
肥満の程度を示すBMI(Body Mass Index:体格指数)および妊娠期間中の体重増加量は、出生児の体重や帝王切開、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群などと関連することが知られています。このため日本産科婦人科学会は2021(令和3)年、妊娠前のBMI別に「妊娠中の体重増加指導の目安」を公表しています(表1)。この目安は妊娠中および出産時の有害事象を減らすことを目的として定められているため、推奨されている妊娠中の体重増加量が、母乳栄養の継続とどのように関連するかについては、明らかではありませんでした。

そこで、妊娠前体格別の妊娠中体重増加量が、出産後6か月間の母乳栄養継続とどのように関連するかについて「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いて検討しました。
妊娠前のBMIは、医療記録より取得した妊娠前の体重を身長の2乗で割った値により算出し、日本肥満学会が基準とする低体重(BMI18.5未満)、普通体重(BMI18.5~25.0未満)、肥満(1度)(BMI25.0~30.0未満)の3つのカテゴリーに分類しました。肥満(2度以上)(BMI30.0以上)は個別対応とされているため今回の解析から除外しました。
妊娠中の体重増加量は、医療記録より得た妊娠40週時の体重から妊娠前の体重を差し引いて算出し、日本産科婦人科学会のガイドラインに基づき、妊娠中の体重増加量を不十分、適正、過剰に分類しました。
産後6か月間の母乳育児は、出生から生後6か月までの各月の母乳栄養の継続および人工乳の利用状況について母親への質問紙調査より回答を得ました。産後6か月間の母乳栄養の継続については、以下の3つのグループに分類しました。

妊娠前BMIの3グループ(低体重、普通体重、肥満(1度))と妊娠中の体重増加量の3グループ(不十分、適正、過剰)を組み合わせた合計9分類において、妊娠前BMIが普通体重であり妊娠中の体重増加量が適正なグループを基準として、妊娠前のBMIおよび妊娠中の体重増加量と母乳栄養継続との関連を検討しました。
今回解析した集団の妊娠前BMIは、低体重群16.6%、普通体重群75.3%、肥満(1度)群8.1%でした。妊娠前BMIからみた産後6か月間の母乳栄養継続の割合は図1に示しました。

解析の結果、妊娠前低体重群の女性では、妊娠中の体重増加量が不十分(12kg未満)または過剰(15.1kg以上)であった場合、Non-EBF type-Ⅱとなるリスクが高くなることが分かりました。一方、適正増加群(12-15kg)では、普通体重で妊娠中体重増加が適正増加群と有意な差を認めませんでした。
妊娠前普通体重群の女性では、妊娠中の体重増加量が不十分(10kg未満)または過剰(13.1kg以上)であった場合、Non-EBF type-Ⅱとなるリスクが高くなることが分かりました。
妊娠前肥満(1度)群の女性では、妊娠中の体重増加量に関係なく、Non-EBF type-Ⅰ、Non-EBF type-Ⅱとなるリスクが高くなることが分かりました(図2-1、2-2)。

Non-EBF type-Ⅰ(6か月間 混合栄養を継続)となるリスク

Non-EBF type-Ⅱ(6か月間 母乳栄養を継続しなかった)となるリスク
本研究は妊娠前のBMIおよび妊娠中の体重増加量がともに生後6か月までの母乳栄養の継続と関連することを示したものです。
低体重群、普通体重群の女性は妊娠中の体重増加量を適正にすることが母乳栄養継続の観点から好ましいことを示唆しています。また母乳栄養継続の観点からは、肥満女性は妊娠前に普通体重に減量することが重要であることを示唆する結果といえます。
本研究はわが国を代表する大規模な集団で、妊娠前BMIと妊娠中の体重増加量がともに母乳栄養の継続と関連していることを示した画期的なものです。
本研究の限界として、妊娠前の体重は自己申告によるものであること、出産後、6か月までの母乳育児の状況については、6か月時点での質問票に基づき記入しているため、正確でない可能性があることがあげられます。

この研究成果は、産科系専門誌「BMC Pregnancy and Childbirth」に2025年3月25日付でオンライン掲載されました。
エコチル調査富山ユニットセンター
2025年6月