エコチル調査でわかったこと

生まれてから6か月までに過ごした季節が、湿疹およびアトピー性皮膚炎の発症と関連する~エコチル調査より~

 花粉症といえば春や秋、風邪・インフルエンザは冬、夏は熱中症や食中毒・・・のように、特定の季節に多く発症する病気は色々ありますが、「生まれた季節」によってかかりやすい病気があることをご存知でしょうか? いくつかの先行研究より、アレルギー疾患、斜視、股関節脱臼、精神神経障害などが生まれた季節によって発症のしやすさに差があることが報告されています。自分自身が生まれた季節を変えることはできませんので、「生まれた季節」の何に注意して予防したらよいのかを明らかにするために、このような病気について詳しく調べていく必要があります。

 アトピー性皮膚炎は小児期に高頻度で発症するアレルギー疾患で、日本国内では、小児の10~20%程度は発症するとされています。かゆみを伴う湿疹が生じるのが特徴で、食べ物やダニなどのアレルギー物質の影響を受けて悪化します。かゆみの症状が強いと皮膚をかきむしり、睡眠が十分にとれないなど日常生活に支障をきたす場合もあるので、本人やケアをする家族の負担や心労は非常に大きく、「生まれた季節」とアトピー性皮膚炎の発症について詳しく調べていくことは非常に重要です。

 これまでに我々は3歳までのアトピー性皮膚炎発症を調べたところ、秋生まれの子が、春生まれの子よりアトピー性皮膚炎の発症が多いことがわかりましたが、日照時間と湿度との関連ははっきりしませんでした(Yokomichi H, et al. BMJ Open. 2021;11(7):e047226.)。今回は、アトピー性皮膚炎の診断だけではなく、生後1歳までに保護者が報告したお子さんの「湿疹」の症状についても検討し、秋生まれとの関連がどのくらい早期から見られるのか検討することにしました。

 対象は、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加している子ども81,615名で、北海道から沖縄県まで全国15のユニットセンター(図1)で登録された方々です。今回調べたのは、保護者が判定したa)生後1か月の湿疹、b)生後6か月の湿疹、c)1歳の湿疹および保護者が報告したd)1歳までのアトピー性皮膚炎の診断の4つについてで、生まれた季節とそれぞれの発症との関連を多変量解析にて検討しました。

図1 エコチル調査の研究拠点

 対象の子どものうち、それぞれの症状を有していたのは、a)生後1か月の湿疹:61.0%、b)生後6か月の湿疹:33.0%、c)1歳の湿疹:18.7%、d)1歳までのアトピー性皮膚炎の診断:4.3%でした。はじめに、生まれた月別の発症状況を比較するため、5月を基準として各生まれ月における湿疹およびアトピー性皮膚炎の出現の調整オッズ比を計算したところ、生後1か月の湿疹では7月生まれで最も高く、生後6か月の湿疹は11月生まれ、1歳の湿疹とアトピー性皮膚炎は10月生まれが最も高くなることがわかりました(図2)。生後6か月以降で秋生まれの子が湿疹やアトピー性皮膚炎の発症が高いということがわかりました。

図2 生まれ月と湿疹およびアトピー性皮膚炎の有病率との関連

オッズ比は多変量ロジスティック回帰分析により算出した。調整変数:母親年齢、世帯収入、教育歴、母親のアレルギー歴、妊娠中のビタミンD摂取量、妊娠中の喫煙、タバコ煙曝露、児の性別、在胎週数、授乳方法、1か月時の食物アレルギー、上のきょうだいとの同居、ペットの飼育、出生した地域

 当たり前のことですが、生後6か月時点と1歳時点では逆の季節をすごしていますので、観察している季節が異なります。そのことを模式的にあらわしたのが次のページの図3になります。秋生まれでは春に観察する生後6か月時点と秋に観察する1歳時点のいずれでも、他の季節生まれより湿疹の有病率が高いことがわかります。

図3 生まれた季節別の各時点の湿疹の有病率

たとえば、生後6か月の時点で、春生まれの乳児は秋に、秋生まれの乳児は春に情報収集を行ったことを示す模式図。生後6か月と1歳の湿疹は観察時期が逆であるが、両時点とも秋生まれの乳児の有病率が最も高いことがわかります。

 最後に、児の性別と母親のアレルギー歴の有無で分けて、季節と1歳時点までのアトピー性皮膚炎の発症との関連を調べました(表1)。その結果、母のアレルギー歴に関係なく、男児では春生まれより秋生まれでアトピー性皮膚炎の発症が統計的に有意に高いことがわかりました。また、母にアレルギー歴があると男児でも女児でも春生まれと比べて秋生まれの子で発症しやすくなるという関連が見られました。さらに母にアレルギー歴がある男児においては夏生まれにおいてもアトピー性皮膚炎の発症が統計的に有意に高いことがわかりました。

表1 性別と母のアレルギー歴で分けて解析した生まれた季節とアトピー性皮膚炎の関連

オッズ比は多変量ロジスティック回帰分析により算出した。 調整変数:母親年齢、世帯収入、教育歴、妊娠中のビタミンD摂取量、妊娠中の喫煙、タバコ煙曝露、在胎週数、授乳方法、1か月時の食物アレルギー、上のきょうだいとの同居、ペットの飼育、出生した地域。太字は春生まれと比較して統計的有意に高く発症することを示す。

 今回の調査では、生後6か月時点と1歳時点という季節が異なる2時点で観察しましたが、いずれも秋生まれの子で湿疹が発症しやすく、またこれまでの報告通り1歳までのアトピー性皮膚炎の発症も秋生まれに多いことがわかりました。アトピー性皮膚炎の発症には、皮膚の乾燥とそれによる皮膚バリアの崩壊が大きなリスク要因と指摘されています。秋生まれのお子さん、特に男児や母親にアレルギー疾患歴がある場合は、早期から適切なスキンケアを行うことで、アトピー性皮膚炎の発症を予防できる可能性があります。

 本研究では以上のことがわかりましたが、研究の限界点もあります。一つは、湿疹の有無とアトピー性皮膚炎の診断を保護者の回答する質問票より行ったため、客観的な情報収集ができていないこと、次に、生後1か月時点と生後6か月および1歳時点では湿疹の有無を尋ねる質問文が異なるため正確な時系列の比較ができていないこと、さらに、アトピー性皮膚炎は遺伝的要因によって発症のしやすさが異なりますが、遺伝的要因を検討できていないことなどです。

 今後は、どの季節に生まれてもアトピー性皮膚炎の発症が予防できるように、季節変動する様々な因子との関連をさらに調べていく必要があります。

 この研究成果は医学研究の専門誌「BMC Pediatrics」に2023年2月15日に掲載されました。

Season of birth and atopic dermatitis in early infancy: results from the Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年3月