エコチル調査でわかったこと

妊娠中のハウスダスト忌避行動と子どもの精神神経発達との関連について
― 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)からの研究成果

 赤ちゃんは一定の期間をお母さんのお腹の中で過ごし、お母さんから胎盤を通じて発達に必要な栄養を受け取って成長していきます。この妊娠期間中にお母さんが有害な物質にさらされると、赤ちゃんも影響を受ける可能性があり、出生直後の期間だけでなく小児期から成人になってからもいくつかの疾患のリスクが高まることが知られています。そのため、エコチル調査では、妊娠期間中にお母さんがさらされる様々な化学物質の情報を収集してきました。
 ハウスダスト※1は一般的にアレルギーの原因であることが知られていますが、ハウスダストには精神神経発達に悪影響を及ぼす化学物質(金属類、難燃剤、多環芳香族炭化水素など)も含まれていることが知られています。そこで、本研究では、妊娠中のハウスダスト除去につながる行動に注目し、子どもの発達との関連について調べました。

 エコチル調査に登録された81,106組の母子の情報について解析しました。子どもの精神神経発達の指標は、生後6か月と1歳時点のASQ-3※2Ages and Stages Questionnaire, Third Edition(保護者が記入する発達評価ツール))という指標を用いました。ASQ-3はコミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会といった5つの領域の精神神経発達の状況を点数化して評価します。この研究では、5つの領域ごとに点数を集計し、マイナス2標準偏差以下の得点※3だった場合“発達が遅めである”と定義した上で、5つの領域のうち、“発達が遅めである”と判定された領域数を点数として算出しました。
 ハウスダスト除去につながる行動としては、部屋や寝具への掃除機の使用頻度、布団干しの頻度、防ダニカバー使用の有無について着目しました。これらの行動において、最も除去行動の頻度が少ないグループを1とした場合、より頻度の高い群において“発達が遅めであること”の起こりやすさを検討しました。

ハウスダスト忌避行動と、生後6か月時、1歳時の精神神経発達の関連

最も頻度が少ない集団を1とした時の、オッズ比※4と95%信頼区間※5を示しています。
1より低いものは、発達が遅れていると判定される子が少ないということを示しています。

 その結果、いずれの行動も頻度が増えるにしたがって、“発達が遅めである”というお子さんが少ない状況が明らかになりました。以上より、妊娠中にハウスダスト忌避行動を多くすると、子どもの精神神経発達が遅めにならないようなプラスの効果がある可能性が示唆されました。しかし、本研究では、ハウスダスト忌避行動の測定は自記式質問票でなされており、ハウスダストそのもの(成分、量など)の測定をしていないため、どういったメカニズムで胎児の神経発達に影響するか判定できていません。そのため、今後さらなる研究が必要です。

 上述したように、ハウスダスト忌避行動の測定は自記式質問票でなされており、本調査では妊娠中のお母さんが除去したであろうハウスダストの成分や量、吸引・経口摂取した量の測定まではできていません。そのため、本研究で示唆された「妊娠中にハウスダストを忌避すると、子どもの神経発達が遅めにならないようなプラスの効果がある」ということをより明確に示すには、新規の研究計画を立ち上げ、ハウスダスト忌避行動と実際の除去量や吸引・経口摂取量、体内で検出された有害化学物質の量も測定しそれぞれに関連があるかも調べる必要があります。

この研究成果は環境科学と公衆衛生学の専門誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に2021年4月19日付で、オンライン掲載されました。

Matsumura, K., et al. House Dust Avoidance During Pregnancy and Subsequent Infant Development: The Japan Environment and Children’s Study IJERP. 2021.

エコチル調査富山ユニットセンター
 2021年6月

ちょっと詳しく

※1 ハウスダスト

 ハウスダストを日本語訳すると「家の中のホコリ」となりますが、ホコリの中でも特に1mm以下の大きさのものを指しています。このような小さなホコリは、衣類などの繊維のクズ、ダニの死がい・フン、砂ぼこり、花粉などさまざまなものがあります。また、これらに、鉛、難燃剤、多環芳香族炭化水素などの有害化学物質が含まれています。
 ハウスダストは吸引(呼吸)だけでなく、経口によっても体内に入ります。これまでは主にぜん息や鼻炎などアレルギーの原因として知られておりましたが、近年は精神神経発達への影響も懸念されています。

※2 発達指標ASQ-3

 この研究で扱った発達指標のASQ-3(Ages and Stages Questionnaire, Third Edition)とは、保護者の方がお子さんを観察して回答する質問票から得られる指標です。ASQ-3は、コミュニケーション(話す、聞くなど)、粗大運動(立つ、歩くなど)、微細運動(指先で物をつかむなど)、問題解決(手順を考えて行動するなど)、個人・社会(他人とのやり取りに関する行動など)の5つの領域について各年齢時での発達の度合いを評価します。

※3 マイナス2標準偏差以下の得点

順位を付けた場合、おおよそ、下から2.5%に入る得点に相当します。

※4 オッズ比

 オッズとは、ある現象の起こりやすさを、ある現象が起こる回数(人数)÷ある現象が起こらない回数(人数)として表した値であり、オッズ比とは、この値の比のことです。
 本研究では、最も頻度が少ないグループのオッズを基準(1)とすると、ほかのグループでは「発達が遅め」の子の出現しやすさが「何倍(いくつ)」になるかを示すために使っています。各グループのグラフ上に示された値(=オッズ比)が、1より大きいと起こりやすい、1より小さいと起こりにくいと言えます。

※5 95%信頼区間

 調査の精度を表す指標で、精度が⾼ければ狭い範囲に、低ければ広い範囲となります。