家庭内粒子状物質(PM)濃度と川崎病発症との関連―エコチル調査(詳細調査)からの研究成果―
1. 研究概要
- エコチル調査(詳細調査)のデータを用いて、家庭内の空気中微粒子(PM)と川崎病発症との関連を検討しました。
- 3,848組の母子を対象に、幼児期の家庭内PM濃度(PM2.5およびPM10–2.5)を1.5歳と3歳の2時点で測定し、6歳までの川崎病発症との関連を解析しました。
- その結果、比較的大きな粒子であるPM10–2.5については、濃度が高い家庭ほど川崎病の発症が少ない傾向が一貫してみられました。微小粒子(PM2.5)についても同じ方向の傾向がみられましたが、PM10–2.5と比べて弱いものでした。また、2時点で測定したPM濃度には中程度の相関がみられ、家庭ごとのばく露レベルに一定の持続性があることが示唆されました。
- 本研究は、幼児期の家庭内PM濃度と川崎病発症との関連を示したものです。ただし、本結果は「粒子が多いほど川崎病を予防できる」ことを意味するものではありません。家庭内PM濃度が、住環境や生活習慣など、家庭ごとの複合的な環境要因を反映している可能性があります。
- また、川崎病の発症例は59例と限られていたため、今後、より大規模な集団での検証や、PMの発生源・成分を含めた詳細な研究が求められます。
2. 研究の背景
川崎病は、主に5歳未満の乳幼児に発症する原因不明の急性全身性血管炎であり、発熱や発疹など多様な症状を呈します。その発症には、上気道から侵入する何らかの病原体や抗原が関与している可能性が指摘されています。
これまでの研究では、発症の季節性や地理的分布が中央アジアからの気流や大気中の微生物と関連することや、屋外の大気中粒子状物質(PM)濃度と発症との関連が報告されています。
一方で、乳幼児は日常生活の多くを室内で過ごすにもかかわらず、家庭内の空気環境、特に室内の粒子状物質が川崎病発症とどのように関係しているかについては、これまで十分に検討されていませんでした。
こうした背景から、本研究では、家庭ごとの室内PM濃度と出生から6歳までの川崎病発症との関連を検討しました。
3. 研究内容と成果
本研究では、エコチル調査の詳細調査のデータを用い、約3,800組の母子を対象に解析を行いました。家庭内の粒子状物質(PM2.5およびPM10–2.5)について、子どもが1.5歳および3歳時にそれぞれ1週間測定し、その平均値を家庭ごとの代表値とみなしばく露指標として用いました。川崎病の発症は6歳まで追跡し、医療機関からの情報に基づいて判定しました。
解析の結果、6歳までの川崎病の累積発生率は1,000人あたり15.34人でした。統計解析の結果、PM10–2.5については、濃度が高いほど川崎病発症が少ない傾向が一貫して認められました。一方で、PM2.5については、弱いながらも、PM10–2.5と同方向の関連が認められました。この関連は、交絡因子を調整した解析や、連続的なばく露を用いた解析においても同様に確認されました。
また、室内PM濃度は同一家庭内で一定の再現性を示しており、家庭ごとの環境特性を反映する指標として評価できることが示されました。
4. 今後の展開
本研究では、家庭内PM濃度と川崎病発症との関連を初めて検討し、特に粗大粒子(PM10–2.5)との間に逆方向の関連が認められました。ただし、この結果はPMそのものが発症を抑制することを示すものではありません。家庭内PM濃度が、居住環境や生活習慣など、測定されていない家庭ごとの特性を反映している可能性もあり、直接的な因果関係を示すものではありません。加えて、本研究では1.5歳と3歳の各時点における1週間の測定値に基づいてばく露を評価しており、長期的なばく露や季節変動、屋外空気環境からの影響を十分に反映できていない可能性があります。
今後は、より大規模な集団で今回の結果を検証するとともに、PMの発生源や成分、屋外PMとの関係、住宅環境や生活習慣などを含めて詳細に検討する必要があります。また、免疫発達との関連を含めた基礎的研究と疫学研究を組み合わせることで、家庭内PM濃度と川崎病発症との関連の背景にある要因を明らかにすることが期待されます。
本研究の成果は、Elsevier社が刊行する衛生学と環境保健分野における国際的学術誌「International Journal of Hygiene and Environmental Health」に、令和8年9月11日付で掲載されました。
エコチル調査富山ユニットセンター
2026年10月
ちょっと詳しく
粒子状物質(PM)
空気中に浮遊する非常に小さな粒子の総称で、ほこり、煙、花粉、微生物由来物質などが含まれます。粒子の大きさによって健康への影響が異なることが知られています。
PM10–2.5
直径10マイクロメートル以下かつ2.5マイクロメートルより大きい粒子を指します。主に上気道(鼻や喉)に沈着しやすく、花粉や土壌由来粒子、微生物成分などを含むことがあります。
PM2.5
直径2.5マイクロメートル以下の非常に小さな粒子を指します。肺の奥深くまで到達しやすく、大気汚染の指標として広く用いられています。