エコチル調査でわかったこと

妊娠中の身体活動量が非常に
少ないと、早産のリスクが増す

 妊娠中は、つわりや体重の増加でお母さんの体には大きな負担がかかります。そのため、今まで余暇に行ってきた運動や、体を動かす家事や仕事をやめたり減らしたりする方も多いと思います。
 これまで、妊娠中の運動は、妊娠中の心や体の健康を維持するとされ推奨されてきました。しかしながら、運動だけではなく日常の業務や家事等を含めた「身体活動量」が、出産にどのような影響を与えるかは明らかではありませんでした。

 そこで、富山大学と横浜市立大学の共同研究グループは、エコチル調査に参加している妊娠中のお母さん約8万6千人について身体活動量を評価し、早産や分娩方法にどの程度影響するか関連を調べました。
 身体活動量は、平均的な1週間で1日にどのくらいの時間、体を動かしているかを尋ねる「国際標準化身体活動質問票(IPAQ)」を用い、活動の強度と時間を妊娠中後期に回答してもらいました。また、妊娠前期には妊娠前の身体活動量について回答してもらいました。
 得られた身体活動量を集計して、量が少ない人から多い人までを順に並べ、等しい人数になるよう4つにグループ分けを行いました。その結果、妊娠中は、「非常に少ない(0~1.0 Met時/週)」、「少ない(1.1~8.2 Met時/週)」、「中等度(8.3~23.0 Met時/週)」、「多い(23.1 Met時/週以上)」に分かれました。

エコチル調査(図)妊娠期の身体活動量
(図)妊娠期の身体活動量
妊娠期の女性約86,000人を、身体活動量を基に4群に分けた(単位:Met時/週)

 次に、「中等度」群と比較してほかのグループでは満期産より早産になりやすかったかどうか、および、自然分娩より帝王切開あるいは器械分娩(「ちょっと詳しく」参照)になりやすかったかどうかを検討しました。
 その結果、妊娠前の身体活動量は早産や分娩方法に影響を与えないことがわかりました。一方、妊娠中の身体活動量は、早産や分娩方法に影響を与えることが明らかになりました。

  1. 「非常に少ない」群で「早産」になりやすかった
    妊娠中の身体活動量と早産の関連
  2. 「少ない」群で「帝王切開」になりやすかった
    妊娠中の身体活動量と帝王切開の関連
  3. 「非常に少ない」群と「多い」群で「器械分娩」になりやすかった
    妊娠中の身体活動量と器械分娩の関連

 この度比較の基準とした「中等度」という身体活動量は、厚生労働省が推奨する身体活動量「1週間に23Mets・時」よりやや少ない程度の身体活動をしているグループです。ですので、早産や分娩方法への影響に関しては、「1週間に8~23Mets・時」程度の適度な身体活動をすることが推奨されます。
 ただし、統計学的な観点から言うと、「身体活動量が少なかったから早産・帝王切開・器械分娩になるリスク」および「身体活動が多いから器械分娩になるリスク」は、喫煙や体重増加などが及ぼす影響と比べるとそれほど大きなものではありません。

 今回の結果は、医師から運動をしないように指導される切迫流産、切迫早産、早産や分娩方法に影響を与えると考えられている妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など、多数の要因を除外する形で検討しております。しかし「早産等になりやすいから運動ができない」という可能性を完全に除外できているとは言い切れません。
 妊娠中は自分の体調を考慮しながら、気になることがあればかかりつけの医師と相談して無理のない範囲で体を動かすよう心掛けるとよいでしょう。

論文:Takami M, Tsuchida A, Takamori A, Aoki S, Ito M, Kigawa M, et al. Effects of physical activity during pregnancy on preterm delivery and mode of delivery: The Japan Environment and Children's Study, birth cohort study. PLoS One. 2018;13(10):e0206160.より

エコチル調査富山ユニットセンター
 2018年11月

ちょっと詳しく

Metsとは?

 運動強度の単位で、安静時(横になったり座って楽にしている状態)を1としたときと比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示します。

例えば、

  • 3 Mets:歩く・軽い筋トレをする・掃除機をかける
  • 4 Mets:速歩・ゴルフ(ラウンド)・自転車に乗る・子供と屋外で遊ぶ・洗車する
  • 6 Mets:軽いジョギング・エアロビクス・階段昇降
  • 8 Mets:長距離走を走る・クロールで泳ぐ・重い荷物を運搬する

 Metsで表された活動強度に活動実施時間(時)をかけたものをMets・時と言い、活動量の単位として国際的に使われています。エクササイズガイド2006では、Mets・時をエクササイズ(Ex)と呼んでおり、1週間に23Exの身体活動をすることが推奨されています。

参考:健康・体力づくり事業財団 エクササイズガイド
http://www.health-net.or.jp/etc/exercise.html

器械分娩とは?
 

自然分娩が困難な状況が続いた時に、吸引器や鉗子(かんし)を使って出産を促す方法です。