エコチル調査でわかったこと

妊婦健診受診状況と低出生体重児割合との関係:環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」

 日本における低出生体重児割合の高さは世界的にみて最も深刻であり1)、この課題に国をあげて関心を高める努力と早急な対応が求められています。一般に3,000g程度で生まれる子が多いですが、2,500g未満だと「低出生体重児」と呼ばれ、小さく生まれたお子さん達は短期的にも長期的にも健康リスクが多いと言われています。

 低体重となる要因には様々なものが考えられますが、沖縄県を対象とした研究では、妊婦健診の受診回数が少ない人より多い人で低出生体重児が生まれる割合が減少することが示され、妊婦健診が重要な役割を果たしていることが示されました2)。妊婦健診では、妊婦さんと赤ちゃんの健康状態を定期的に確認し、母児ともに健やかに過ごすための食事や生活に関するアドバイスが得られます。健診受診によって低出生体重児が減るようであれば、受診できないことを防ぐ対策が行われるべきですが、沖縄県からの報告が果たして日本全国の傾向と言えるのか、大規模なデータが必要です。

 そこで本研究では、日本国内の15地域で行われている子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加している妊婦さんとその子ども(91,916組)を対象として、妊婦健診を受診しなかった回数と低出生体重児が生まれることが関係するのかを検討しました。また、「妊婦健診を受診しない」ことには、どういった要因が関連するかを明らかにし、健診受診を促すために有効な方策を明らかにすることを目的としました。

 妊婦健診の受診状況は、妊婦健診を受けなかった回数(以下、非受診)について、0回、1回、2回、3回以上の4群に分け、低出生体重児の出生との関係を調べました。非受診が0回の群を基準(1.0)にして、非受診回数と低出生体重児の出生との関連を解析した結果、オッズ比(95%信頼区間)は、非受診回数1回群1.57(1.46-1.69)、2回群2.40(1.97-2.94)、3回以上群2.38(1.46-3.88)となり、非受診回数が多い群ほど低出生体重児が生まれる割合が高くなることが明らかとなりました(図1)。

図1. 妊婦健診を受けなかった回数(非受診)と低出生体重児出生との関連

 また、どういった要因を持つ人が妊婦健診を受診しないかを明らかにするため、年齢、BMI、学歴、収入、喫煙、飲酒、パートナーからの暴力、妊娠合併症、身体・精神疾患既往歴、出産歴、妊娠に対する否定的な気持ち、婚姻状況、両親との同居、仕事、妊娠初期・中後期の精神的健康について、受診回数との関連を検討しました。その結果、独身や離婚や死別している場合や妊娠に対する否定的な気持ちがある場合は、そうでない人たちに比べて、妊婦健診を受けない割合が多いことがわかりました。一方、就業していること、妊娠中後期の精神的健康・身体的健康が良好である方は、妊婦健診を受ける場合が多いことがわかりました(図2)。

図2.妊婦健診を2回以上受けない(非受診回数が多い)状況と関連する要因
※ 1標準偏差当たりのオッズ比

 妊婦健診を受診しない背景には、妊婦さんの配偶者が不在である場合や妊娠に対する否定的な気持ちが関連していることが明らかになりました。配偶者の不在は、妊婦さんのソーシャルサポートの低さに繋がります。さらに、我々の先の研究から、妊娠に対する否定的な気持ちをもつ妊婦さんは、そのような気持ちをもたない妊婦さんと比較して情緒的ソーシャルサポートが低いことも明らかになっており3)、ソーシャルサポートが妊婦健診の受診を促す可能性が示唆されます。

 本研究が示した結果は、沖縄県を対象とした研究で示された妊婦健診の受診回数と低出生体重児割合の関係が、日本全国を対象としても同様に見出された点で重要です。このことは、日本における妊婦健診が妊婦と新生児の健康状態を良好に保つ重要な役割を果たしていることを示しており、非受診を防ぐ対策が求められます。沖縄県での先行研究では、健診受診回数が増加したことで、低出生体重児の減少に繋がりましたが、その背景に制度改正によって妊婦健診に対する公費負担が増えたことが健診受診を促しました。このことから、妊婦健診に対する公的負担を増やすことは、低出生体重児を減らす有用な対策の1つと言えます。

 また、健診を受診しないこととソーシャルサポートの関連が示唆されたことから、妊娠初期からの妊婦の支援をより充実させるべきと言えます。これに対するヒントとして、保健師・助産師による母子手帳の交付を行っている福岡県久留米市の取り組み4)が参考になります。この取り組みでは、保健師や助産師が早期から妊婦に対面することで、支援を要する妊婦さんを把握し、早期に支援を開始することができます(事務職による交付を行う市民センターよりも、保健師・助産師による交付を行う保健所や保健センターの方が、保健サービスに関する満足が高いことがわかっています)。このように、経済的支援と精神的支援の両側面からのアプローチが低出生体重児の減少に有効な方策と考えられます。

 本研究の限界として、エコチル調査で情報収集する対象とした妊婦健診は、妊娠前期、妊娠中期、妊娠後期それぞれ1回ずつの最大3回までに限られていたこと、カウントした妊婦健診受診時の正確な在胎週数を把握できていないことなどが挙げられます。そのため、実際に受けたすべて妊婦健診の回数や、どの時期に受診しなかったことが低出生体重児の出生と関連しているのかを明らかにすることができませんでした。また、この調査は、主に妊婦健診に出向く医療機関や母子手帳を発行する場でリクルートを行いましたので、「選択バイアス」が生じている可能性があります。さらに、このような調査に参加する妊婦さんは、子どもの健康に関心が高く、一般的な妊婦さんと比べてより健康である可能性があることが挙げられます。

 しかし、より健康である可能性が高い妊婦さんから得られた限られた妊婦健診の受診データからも、先行研究と同様に妊婦健診を受診しない回数が多いと低出生体重児の割合が増えるという関係が示されました。このことで、妊婦健診の重要性が改めて浮き彫りになりました。今後は、妊婦さんに対し、健診受診を妨げるような要因を取り除けるよう、具体的で多面的な支援の在り方を検討していくことが求められます。

  1. Normile, D., Staying slim during pregnancy carries a price. Science, 2018. 361(6401):p. 440.
  2. 松島みどり・小原美紀 妊婦健康診査の公費負担回数増加が健診回数及び低体重出生児割合に与える影響 社会保障研究, 2019. 3(4),546-561.
  3. Matsumura, K., et al., Causal model of the association of social support during pregnancy with a perinatal and postpartum depressive state: A nationwide birth cohort-the Japan Environment and Children's Study. J Affect Disord, 2022. 300: 540-550.
  4. 内藤美智子他 妊婦要因と低出生体重児、流産・死産児の関連性:保健師・助産師による母子健康手帳の全例交付と児の出生状況の把握 日本公衆衛生雑誌, 2019. 8: 397-406.

 この研究成果は疫学系専門誌「Annals of Epidemiology」の2023年7月号(オンライン先行掲載:2023年4月23日)に掲載されます。

Relationship between prenatal checkup status and low birth weight: a nationwide birth cohort–the Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年6月

ちょっと詳しく

ソーシャルサポート

 社会的関係の中でやりとりされる支援のことで、健康行動の維持やストレッサーの影響を緩和する働きがあります。ソーシャルサポートはその内容によって、以下のように分けることができます。

  • 情緒的サポート:共感や愛情の提供
  • 道具的サポート:形のある物やサービスの提供
  • 情報的サポート:問題の解決に必要なアドバイスや情報の提供
  • 評価的サポート:肯定的な評価の提供

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-067.html