エコチル調査でわかったこと

妊娠中の血中重金属の量と
早産の関係

 産まれてくる赤ちゃんの約95%が、お母さんのお腹の中で37〜42週ほどすごして産まれてきます。しかし、約5%の赤ちゃんは、37週未満で産まれてくる場合があり、これを「早産」と呼びます。また早産はさらに、34〜36週で産まれる「後期早産」と22〜33週で産まれる「早期早産」に分類されます。そのうち、「早期早産」で産まれた赤ちゃんは、体の臓器や器官が未熟な場合も多く、生存率の低下や後遺症のリスクが高くなることが指摘されています。

 早産のリスク因子は、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、喫煙、子宮内感染などが知られています。また近年、お母さんの血液中に含まれる鉛、カドミウム、水銀などの重金属濃度が高い場合にも起こりやすくなることが報告されてきました。しかしながらこれまで、早産を「後期早産」と、よりリスクが高い「早期早産」に分類して重金属との関係を調べた研究はありませんでした。

 そこで、産業医科大学をはじめとするエコチル調査の共同研究グループは、エコチル調査に参加している妊娠中のお母さん約1万5千人について妊娠中に採取した血液内の重金属を評価し、「後期早産」および「早期早産」と関連があるか調べました。調べた重金属は、鉛、カドミウム、水銀、セレン、マンガンの5種類です。

 まず、本研究で調べた約1万5千人のうち、「後期早産」は556例(3.7%)、「早期早産」は108例(0.7%)発生したことがわかりました。次に、測定した血中重金属濃度を集計して、濃度が低い人から高い人までを順に並べ、等しい人数になるよう「非常に低い(0.497ng/g以下)」、「低い(0.498~0.661 ng/g)」、「中等度(0.662~0.901 ng/g)」、「高い(0.902 ng/g以上)」の4つにグループ分けました。そして、「非常に少ない」群を基準に、そのほかの濃度のグループで、「後期早産」および「早期早産」の割合が増えるかどうかを検討しました。

 その結果、鉛、水銀、セレン、マンガンでは、妊娠中の血中濃度が「非常に低い」群も、そのほかの高濃度のグループでも「後期早産」および「早期早産」のなりやすさは変わりませんでした。また、カドミウムでは、「後期早産」については、他の4種の金属類と同様、なりやすさは変わりませんでした(下図参照)。

図:妊娠中の血中カドミウム濃度群と後期早産の関連
非常に低い群を1とした時の後期早産のなりやすさ
(Tuji et al. Environ Res. 2018;166:562-9. Table 3より作図)

 一方、「早期早産」については、「非常に低い」群に対し「低い」群と「中等度」群ではなりやすさは変わらないものの、「高い」群では1.9倍なりやすくなることがわかりました(下図参照)。

図:妊娠中の血中カドミウム濃度群と早期早産の関連
非常に低い群を1とした時の早期早産のなりやすさ
(Tuji et al. Environ Res. 2018;166:562-9. Table 3より作図)

 この結果から、カドミウムが「早期早産」の原因物質であるように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、本研究からはそこまでは言い切れません。なぜなら、お母さんの母体内のカドミウムがどういうメカニズムで「早期早産」に関わるかについては、本研究では明らかにしていないからです。

 「早期早産」でお子さんを産む割合は、全出産の約0.7%でしたので、100人が産まれた時に1人いるかいないかです。この割合から、多くの人に影響が及ぶものではないことがご理解いただけるかと思います。しかしながら、たとえわずかでも、「お母さんの血液中のカドミウム濃度が高いと早期早産になりやすくなる」という結果がある以上、カドミウムが本当に影響を与えているのか、もし与えているならば体内に取り込まないための対策が必要か検討する必要があります。

 エコチル調査は妊娠期のお母さんが10万人ほど参加されましたが、妊娠中の血中金属濃度は、2万人分の情報がまず最初に確定されたため、本研究を進めました。今後は10万人のデータを用いることで、もう一度この結果を検証する予定です。また、早産に関係のあるほかの環境要因についても引き続き調べていきます。

Tsuji M, Shibata E, Morokuma S, Tanaka R, Senju A, Araki S, et al. The association between whole blood concentrations of heavy metals in pregnant women and premature births: The Japan Environment and Children's Study (JECS). Environ Res. 2018;166:562-9.

エコチル調査富山ユニットセンター
 2019年2月

ちょっと詳しく

カドミウムはどこからくるの?

 カドミウムは主に水や土に含まれており、これを取り込んだ植物を食べることで体に取り込まれることが知られています。また、タバコにも比較的多く含まれているため、喫煙から摂取することも知られています。この研究においても喫煙者の血中カドミウム量は非喫煙者より高い状況でした。

カドミウムは危険なの?

 カドミウムは大量に摂取すると腎臓や骨に障害が起きることが知られています。かつては鉱山からの汚水に混じったカドミウムが原因である「イタイイタイ病」で多くの人が苦しみました。この点では非常に危険といえますが、現在の日本では通常の生活でこのような病気になる濃度でカドミウムを摂取することはありません。
 しかしながら、環境中にはいまだ微量のカドミウムが存在し、日常的に食事等で摂取しております。微量のカドミウムが本当に危険か、どういったことに影響を与えるのかは明確ではありません。エコチル調査では、健康への影響について注意深く調べていく予定です。