エコチル調査でわかったこと

黄砂の飛来時の過ごし方で、アレルギー様症状の発現リスクが低減

 わが国は、春と秋に大陸からの季節風に乗って「黄砂」が飛来します。これまで、動物実験により、飛来した黄砂がアレルギーを悪化させる可能性があること、またぜんそくのお子さんは黄砂飛来後に入院するリスクが高いといったことが知られていました。

 そこで、2011年京都大学を中心に、富山大学、鳥取大学が「黄砂と子どもの健康調査」を立ち上げ、

  • 黄砂の飛来でアレルギー症状に影響が出るのか?
  • 簡単にできる予防行動にどれくらいの効果があるか?

 といったことを明らかにするための共同研究を行ってきました。
 そして2016年には、既に妊婦さんのアレルギー様症状と黄砂飛来の関連について報告しています(Kanatani KT, et al. Effect of desert dust exposure on allergic symptoms: A natural experiment in Japan. Ann Allergy Asthma Immunol. 2016;116(5):425-30 e7.)。

 今回はこの共同研究グループを代表して、富山大学医学部小児科学講座 板澤 寿子講師が、乳幼児のアレルギー様症状について検討した論文を公表したので、詳細について報告します。

調査の方法

  1. 京都、富山、鳥取の子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加するお母さんを対象に、黄砂の調査への参加いただける方を募集しました。調査開始当時はすべて妊婦さんで、妊娠中のご自分の症状に関する調査を実施後、さらに産まれたお子さんの症状に関する調査への協力を再度依頼しました。
  2. 黄砂が飛来したことの判定には、環境省が設置する「Light Detection and Ranging ; LIDAR(ライダー)」にて濃度判定した情報を用いました。ライダーは、富山県では射水市の太閤山にある富山県環境科学センターに設置されています。
  3. 参加者さんには携帯電話で使用しているメールアドレスを登録してもらい、ライダーで黄砂が一定レベル以上測定された日および地域のPM2.5濃度が基準値を超えた日の夜にメールアンケートを配信しました。アンケートは、長時間経過した思い出しによる回答を防ぐため、配信の翌日の深夜を締め切りとしました。

④ 参加者さんのケータイには、以下のような選択形式のアンケートが届き、その日のお子さんの様子を回答いただきました。

⑤ 比較のため黄砂が飛ばなかった日もランダムにメールを配信し、回答いただきました。また毎月、病気のために受診した日や園を欠席した日を回答してもらいました(翌月末〆)。

結果

 京都464名、富山641名、鳥取383名の合計1,488名の乳幼児の結果が得られました(登録時点の平均年齢は約2歳)。これらの乳幼児を、アレルギー症状のリスクが高いと考えられるぜんそく様の呼吸いわゆる喘鳴(ぜんめい)の既往があった群と、なかった群に分けて黄砂飛来のリスクについて検討しました。

黄砂濃度0.1/km増加に対する症状発現オッズ比

 その結果、喘鳴あり群も、喘鳴なし群も、当日の黄砂の濃度と症状に関連があり、喘鳴あり群では当日だけでなく数日経ってからも黄砂の濃度と症状に関連があることがわかりました。また、屋外滞在時間の短かった子やロイコトリエン拮抗薬を定期的に使用していた子ではその関連は低減されていました。

 これらのことから、黄砂の濃度情報を事前に入手し、黄砂の期間の屋外滞在時間を短縮化、換気を最小限にすることによって黄砂時の症状を実際に低減できている可能性が示唆されました。ロイコトリエン拮抗薬を定期的に使用している子でもその関連は低減されていましたが、これらの子は定期的に医師にかかっている子でもあり、今回は観察によって得られた結果なので有効性についての明言はできません。今後、ランダム化比較試験等のさらなる研究の積み重ねによって、検証していく必要があります。

 以上のように、観察研究のため明言できない点はありますが、ぜんそくがあるなど症状でお困りの方は、黄砂の飛来予報を確認し飛来日の過ごし方を検討されるとよいかと思います。

 この研究成果はヨーロッパアレルギー学会の学術専門誌「Allergy」に2019年12月30日にオンライン掲載されました。

Itazawa T, et al. The impact of exposure to desert dust on infants' symptoms and countermeasures to reduce the effects. Allergy. 2019:10.1111/all.14166.

参考情報
  • 黄砂の飛来予測は、気象庁の「黄砂情報(予測図)」で確認できます。
    https://www.jma.go.jp/jp/kosafcst/:「気象庁黄砂予測」で検索
  • 現在の黄砂濃度を確認したい場合は、環境省の黄砂飛来情報のページで確認できます。
    http://www2.env.go.jp/dss/kosa/:「ライダー 黄砂」で検索

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