エコチル調査でわかったこと

年上のきょうだい数と幼児の腸内細菌タイプの関連を発見-きょうだい構成と疾患リスクとの関連解明へ期待-

概要

  • 理化学研究所(理研)生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの柴田涼平客員研究員、大野博司チームディレクター、千葉大学予防医学センターの櫻井健一教授、山本緑講師、兵庫医科大学看護学部の島正之特命教授、高知大学エコチル調査高知ユニットセンターの菅沼成文センター長、同医学部小児思春期講座の大石拓助教、同イノベーションセンターの安光ラヴェル香保子特任助教、東北大学大学院医学系研究科発達環境医学分野の大田千晴教授、富山大学学術研究部医学系小児科学講座の足立雄一教授(研究当時)、同医学系公衆衛生学講座の稲寺秀邦教授、同エコチル調査富山ユニットセンターの吉岡英治センター長らの共同研究グループは、2歳と4歳の子どもの腸内細菌叢(さいきんそう)[1]のタイプや便中の短鎖脂肪酸[2]濃度が年上のきょうだいの数と関連することを明らかにしました。
  • 本研究成果は、家族構成と子どもの腸内環境の発達との関係を理解し、将来、腸内環境に着目した病気の予防法を検討するための基礎になると期待されます。
  • 今回、共同研究グループは、エコチル調査[3]の追加調査に参加した2歳児903人と、そのうち4歳時でも参加した684人の便を解析しました。腸内細菌叢を三つのタイプに分類したところ、年上のきょうだいが居る子どもでは、細菌の多様性[4]と便中プロピオン酸(短鎖脂肪酸の一つ)濃度が最も低いタイプに分類される割合が低いことが分かりました。
  • さらに、4歳時では、年上のきょうだいの数と腸内細菌叢のタイプとの関連を仲介する可能性のある複数の因子を検討したところ、直近3カ月の抗菌薬使用を介する経路が、年上のきょうだいの数と腸内細菌タイプ関連の一部に関与する可能性が示唆されました。
年上のきょうだいと幼児の腸内環境との関連

背景

 子どもの腸内細菌叢は、出産方法や授乳、食事などの因子の影響を受け、生まれてから成長する過程で大きく変化し、次第に大人に近い構成になります。乳幼児期の腸内環境は、その後のアレルギー疾患などとの関連が報告されており、何がその形成に関わるのかを理解することが重要です。
 これらの腸内環境に影響を与える因子のうち、近年ではきょうだい構成に注目が集まっています。これまでの疫学研究では、年上のきょうだいがいる子どもでは、アレルギー疾患などの発症リスクが低いことが報告されています。また、年上のきょうだいの存在は、特定の腸内細菌の割合や便中の短鎖脂肪酸濃度とも関連することが分かってきました。しかし、これらの研究の多くは乳児期や3歳未満を対象としており、こうした関連が就学前まで続くのか、また、きょうだいの存在と腸内環境との関連がどのような経路で生じるのかは十分に分かっていませんでした。
 また、きょうだい構成は授乳や食事、保育施設への通園、抗菌薬の使用などとも関係するため、腸内環境との関連をどの要因が説明するのかを切り分けることは容易ではありません。そこで本研究では、2歳時と4歳時の便と生活環境の情報を組み合わせ、年上のきょうだいの数と腸内環境の関連、およびその関連に関わる経路を調べました。

研究手法と成果

 本研究は、エコチル調査の詳細調査に参加する子どもを対象に、千葉、兵庫、高知、宮城、富山の5地域と理研が共同で追加調査を実施しました。エコチル調査の追加調査に参加した2歳児903人と、そのうち4歳時でも参加した684人の便を解析し、得られた腸内細菌叢のデータを解析対象としました。
 便中の細菌の種類とその割合は16S rRNA遺伝子解析[5]で調べ、短鎖脂肪酸などの濃度も測定しました。さらに、診療記録や保護者への質問票から、きょうだい構成、家庭環境、授乳・食事、保育施設への通園、抗菌薬の使用などの情報を収集しました。
 まず、周産期や家庭・生活環境に関わる要因と腸内細菌叢の構成との関連を調べたところ、年上のきょうだいの数は、2歳時と4歳時のいずれでも強い関連を示しました。また、年上のきょうだいの数が多いほど、2歳時には複数の便中短鎖脂肪酸濃度が高く、4歳時にはプロピオン酸濃度が高いという関連が認められました。
 次に、細菌の組み合わせが似た便検体をまとめる方法を用いて、腸内細菌叢を三つのタイプ(エンテロタイプ[6])に分類しました。タイプ1は、三つのタイプの中で細菌の多様性と便中プロピオン酸濃度が最も低いことが特徴でした。2歳時にはタイプ1が最も多く、413人(46%)が該当しました。一方、4歳時にはタイプ2が最も多く、345人(50%)が該当しました(図1)。

図1 幼児の腸内細菌叢の3タイプと年齢による違い

2歳時903人と4歳時684人の便検体を、細菌の構成に基づいて三つのタイプに分類した。タイプ1は細菌の多様性と便中プロピオン酸濃度が最も低いタイプである。2歳時にはタイプ1が46%、4歳時にはタイプ2が50%を占めた。これらは細菌叢の特徴を示す分類であり、健康状態の良しあしを判定するものではない。

 年上のきょうだいの数と各タイプとの関連は、地域による違いに加え、世帯収入、両親の学歴、性別、早産、低出生体重、同居家族やペットなどの要因を考慮して調べました。
 タイプ2に対してタイプ1に分類されるオッズ[7]を、年上のきょうだいがいない子どもを基準に比較すると、年上のきょうだいが1人居る場合の調整オッズ比[7]は、2歳時0.49、4歳時0.45でした。2人以上居る場合は、それぞれ0.32、0.22でした。いずれの年齢でも、年上のきょうだいがいることはタイプ1に分類されるオッズの低さと関連していました(図2)。

図2 年上のきょうだいの数とタイプ1との関連

タイプ2に対してタイプ1に分類されるオッズを、年上のきょうだいが0人の子どもを基準に比較した結果。点(■)は調整オッズ比、横線は95%信頼区間を示す。きょうだい1人では、2歳時0.49(0.34–0.69)、4歳時0.45(0.26–0.77)、2人以上では、それぞれ0.32(0.19–0.54)、0.22(0.08–0.53)である。地域や家庭環境などを考慮しても関連が認められた。オッズ比は人数の割合や疾患リスクの比ではない。

 一方、タイプ2に対するタイプ3の割合と、年上のきょうだいの数との間には、2歳時と4歳時のいずれでも統計学的に明確な関連は認められませんでした。
 さらに、年上のきょうだいの数とタイプ1、2の違いとの関連について、授乳や食事、保育施設への通園、抗菌薬の使用などを介する経路を媒介分析[8]で調べました。その結果、今回検討した要因を介する経路では、年上のきょうだいの数とタイプ1、2の違いとの関連の大部分を説明できませんでしたが、4歳時では、直近3カ月以内の抗菌薬使用が年上のきょうだいの数とタイプ1、2の違いとの関連の一部に関わる可能性が示されました。

今後の期待

 本研究は、これまで主に乳児期に検討されてきた年上のきょうだいと腸内環境の関連を、2歳時と4歳時で捉え、腸内細菌叢の構成と便中の代謝物の両面から示した点に特徴があります。これまで、年上のきょうだいがいる子どもでは、アレルギー疾患などの発症リスクが低いことが報告されています。本研究の成果は、こうしたきょうだい構成と疾患リスクとの関連を考える上で、腸内環境がどのように関わるのかを理解する手がかりになります。
 今後は、年上のきょうだいと関連して変化する腸内細菌や代謝物が、アレルギー疾患をはじめとする子どもの健康や病気の発症と実際にどのように結び付くのかを検証する必要があります。また、食事や薬剤使用の詳細、今回測定できなかった生活環境などの要因も含めて検討し、きょうだい構成、腸内環境、疾患発症をつなぐ仕組みをより詳しく明らかにすることが課題です。
 こうした研究が進むことにより、将来、腸内環境に働きかけることでアレルギー疾患などの発症リスクを低減できるかを検討するための基盤になることが期待されます。ただし、今回の研究は、年上のきょうだいがいること自体が病気を予防することや、今回認められた腸内環境の違いが疾患リスクの低下を直接もたらすことを示したものではありません。今後、疾患発症との関連や因果関係を検証していく必要があります。

 本研究は、科学雑誌『Pediatric Research』オンライン版(10月14日付)に掲載されました。

Sibling factors associated with gut microbiota and fecal short-chain fatty acids in preschoolers

エコチル調査富山ユニットセンター
 2026年10月

ちょっと詳しく

[1]腸内細菌叢(さいきんそう)

 腸の中に生息する細菌の集まり。細菌の種類やそれぞれの割合は人によって異なり、その構成は成長や生活環境に伴って変化する。

[2]短鎖脂肪酸

 腸内細菌の代謝によってつくられる酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸。腸のバリア機能や免疫反応に関わる。本研究では便中に含まれる濃度を測定した。

[3]エコチル調査

 子どもの健康と環境に関する全国調査(Japan Environment and Children’s Study:JECS)。環境要因が子どもの健康や発達に与える影響を調べる出生コホート調査である。本研究は、その詳細調査の参加者を対象とした追加調査である。

[4]細菌の多様性

 細菌の種類の多さや、それぞれの割合の偏りを表す指標。本研究ではシャノン指数(群集の「不確実性(情報の多様さ)」を情報理論に基づいて測る指標で、種の数(豊富さ)が多く、個体数が均等に分かれているほど値が大きくなる)などを用いた。数値が高いことだけで、健康状態の良しあしが決まるものではない。

[5]16S rRNA遺伝子解析

 細菌が持つ16S rRNA遺伝子の配列の違いを利用し、検体に含まれる細菌の種類や割合を調べる方法。本研究の解析は主に属の単位までであり、細菌の機能そのものを調べたものではない。

[6]エンテロタイプ

 腸内細菌叢を、構成の似たグループに分けたもの。本研究では、タイプ1はRuminococcus(Mediterraneibacter)gnavus群、タイプ2はFaecalibacterium属、タイプ3はRuminococcus属の割合が高いことが特徴である。

[7]オッズ、調整オッズ比

 オッズとは、二つの状態のなりやすさの比。オッズ比とは、さらに二つの集団間でオッズを比べた指標。調整オッズ比とは、年上のきょうだいの数以外にも結果に影響し得る要因の違いを統計的に考慮した上で算出したオッズ比である。本研究では、タイプ2に対してタイプ1に属するオッズを、年上のきょうだいがいない群を基準に比較した。人数の割合や疾患リスクの比とは異なる。

[8]媒介分析

 ある要因と結果の関連を、別の要因を介する部分と、介さない部分に分けて調べる統計的方法。測定していない要因や解析上の仮定の影響を受けるため、特定の生物学的な仕組みを直接証明するものではない。