エコチル調査でわかったこと

妊娠期間中のビタミンD摂取量と産後の抑うつ症状のリスク:エコチル調査より

 ビタミンDは、主に骨の健康に関与するビタミンですが、これまでに、骨粗しょう症だけでなく、糖尿病や高血圧等の生活習慣病やうつ病等の発症とも関連することが報告されています。

 私達は、食事(特に魚やキノコ類)と日光による生合成を通してビタミンDを取り入れています。

 産後の女性は、ホルモンバランスの乱れ等による体調の変化や、育児による生活リズムの変化により、精神の健康を損ねる可能性が高まることが知られています。母親の精神の健康は、母親自身のQOLだけでなく、子の養育にも影響を与えるため、とても大切です。

 これまでに、血液中のビタミンD濃度と産後の女性の抑うつ症状との関連性については数多く報告されていますが、食事からのビタミンD摂取量との関連性についての研究は行われていませんでした。

 そこで、本研究ではエコチル調査に参加している74,840名の女性を対象とし、妊娠期間中の食事からのビタミンD摂取量と産後1ヶ月時の抑うつ症状との関係を調べました。解析では、食事からのビタミンD摂取量以外に抑うつ症状に関連すると考えられる年齢、社会経済要因および屋外での活動時間等の計17の要因を考慮しました。

 その結果、食事からのビタミンD摂取量が最も少ないグループと比較して、摂取量が多い群では、産後1ヶ月時の抑うつ症状のリスクが低下することが明らかになりました(図1)。

図1.妊娠期間中のビタミンD摂取量と産後1ヶ月時点での抑うつ症状との関連

 本研究により、食事からのビタミンD摂取量が多いと、少ない人よりも抑うつ症状のリスクが低減し、妊娠期間中にビタミンDを摂取することが産後うつの予防に繋がる可能性が示唆されました。

 妊娠中は、1食において主食(炭水化物)、主菜(たんぱく質)、副菜(ビタミン、ミネラル、食物繊維)のそろったバランスのよい食事をとることが大切です。ビタミンDは精神への影響以外に、骨の健康維持や免疫機能の調整等の働きも明らかになっていますので、日頃から不足しないよう意識した食事を心がけるとよいでしょう。なお、本研究では、サプリメントからの摂取量を調査していないため、それらによる過剰摂取には気をつける必要があります。

 *ビタミンDを多く含む食品(可食部100gあたり);焼き鮭39.0µg、まいたけ 4.9µg等

 本研究は、食事からのビタミンD摂取量と産後の抑うつ症状の関連を示した最初の報告です。しかし、本研究は観察研究であり、因果関係を扱っていません(ビタミンDを摂取することにより起こる結果を直接的に示しているわけではありません)。また、ビタミンD 合成の主要経路である日光への曝露の時間や、ビタミンDの代謝に関与する栄養素との関連性を検討していません。これらの点が本研究の限界であり、介入研究を行うなど、今後更に検討していく必要があります。

 この研究成果は栄養学系専門誌「Journal of Nutritional Science and Vitaminology」の2023年2月28日号に掲載されました。

Dietary intake of vitamin D during pregnancy and the risk of postpartum depressive symptoms: the Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年2月