妊娠がわかったときの気持ちと子どもの発達との関連:ネガティブな気持ちとの関連をソーシャルサポートが軽減!? 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)より
研究の内容
妊娠は女性の生活を大きく変える主要な出来事であり、妊娠期から産後にかけては抑うつや不安などのメンタルヘルスの問題が高頻度で生じることが知られています。特に、望まないあるいは予期しない妊娠は強いストレス要因となり、母親の精神的健康だけでなく、母子関係や子どもの発達にも負の影響を及ぼす可能性が指摘されています1),2)。しかしながら、このような妊娠に対するネガティブな気持ちが子どもの発達にどのような影響を及ぼすのかについては、十分に明らかになっていません。
一方、母親へのソーシャルサポート(「ちょっと詳しく」参照)は、母親自身のメンタルヘルスの改善だけでなく、子どもの発達を促進する保護因子としても機能することが示されています。しかし、妊娠に対する気持ちが子どもの発達にどのように影響し、その過程においてソーシャルサポートがどのような役割を果たすのかについては、十分に明らかになっていません。
そこで本研究では、日本国内15地域で実施されている子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加した妊婦とその子ども73,518組を対象に、妊娠が判明した時点での気持ちと3歳時の子どもの発達指標との関連を明らかにするとともに、育児期(2歳半時点)の母親へのソーシャルサポートが媒介するかも併せて検討することを目的としました。 妊娠が判明した時点での気持ちは6つの選択肢(「とてもうれしかった」「予想外だったがうれしかった」「予想外でとまどった」「困った」「特に何とも思わなかった」「その他」)から回答してもらいました。また、子どもの発達は、保護者が回答する発達評価票「ASQ-3(Ages and Stages Questionnaires, Third Edition)」(「ちょっと詳しく」参照)を用いて3歳時点で評価しました。ASQ-3では、「コミュニケーション」「粗大運動」「微細運動」「問題解決」「個人・社会性」の5つの領域について評価し、各領域で基準値を下回った場合を「発達の遅れ疑い」と判定しました。さらに、育児期における母親へのソーシャルサポートについては、周囲からの愛情や精神的支援、人とのつながりに関する3項目を用いて評価し、妊娠時の気持ちと子どもの発達との関連に及ぼす影響を解析しました。なお、ソーシャルサポートは3項目の合計得点(3~15点)を算出し、9点以下の場合にソーシャルサポートが低い状態と位置付けました。


研究結果
妊娠に対する気持ちは、妊娠前期ごろに配布した質問票にて情報収集し「とてもうれしかった」が49,395人(67.2%)と最も多く、次いで「予想外だったがうれしかった」が17,899人(24.3%)、「予想外でとまどった」が4,704人(6.4%)でした。そのほか、「困った」が358人(0.5%)、「特に何とも思わなかった」が344人(0.5%)、「その他」が818人(1.1%)でした(図1)。また、「とてもうれしかった」以外の気持ちを持つ母親は、ソーシャルサポートが低い傾向にありました(図2)。
次に、妊娠が判明した時点での気持ちと子どもの発達との関連を検討した結果、「とてもうれしかった」と回答した場合と比較して、それ以外の気持ちを持った母親の子どもでは、発達の遅れ疑いが多い(「ちょっと詳しく」参照)ことが明らかになりました。特に、「特に何とも思わなかった」と回答した母親の子どもにおいて、その関連が最も強く認められました(調整オッズ比1.68、95%信頼区間1.41–2.00)(図3)。

最後に、ソーシャルサポートについて検討したところ、妊娠が判明した時点での気持ちと子どもの発達との関連には、ソーシャルサポートが媒介しており、周囲からの支えがその関連をやわらげる方向に働くことが示唆されました。特に、「その他」と回答した母親でソーシャルサポートを介する部分の割合が最も大きく (45.0%)、次いで「困った」(43.0%)、「特に何とも思わなかった」(27.8%)の順でした。また、「予想外だったがうれしかった」(22.8%)や「予想外でとまどった」(22.2%)においても、ソーシャルサポートが関連の一部を担っていることが示されました (図4)。

本研究では、これまで妊娠の意図性と子どもの発達との関連で指摘されてきた知見と同様に、妊娠時の気持ちという指標でも、子どもの発達と関連することが確認されました。なかでも今回の検討では、「特に何とも思わなかった」と回答した群で最も高いリスクが認められました。
この結果は、明確なネガティブ感情だけでなく、無関心あるいは感情が顕在化していない状態にある母親も、支援の対象として留意すべきであることを示しています。「特に何とも思わなかった」という気持ちを表した母親は、子どもとの関わりが希薄になることで、子どもの自己認識や対人相互作用の機会に影響を及ぼすのかもしれません。一方で、ソーシャルサポートが高いと否定的あるいは無関心な感情を抱いていた場合でも、発達の遅れ疑いの発生が少なくなる関連が示されました。母親に対する社会的な支援は、母親自身のメンタルヘルスの改善を通じて、子どもの発達に好影響を及ぼす可能性が考えられます。
本研究で用いた「妊娠がわかったときの気持ち」は、母子健康手帳交付時の面接において確認されることが多く、母子保健の現場で広く収集されている情報です。本研究の結果は、この簡便な質問項目が、その後の子どもの発達に関わる重要な指標となりうることを示しています。これまでの研究において、妊娠に対する気持ちがネガティブである場合、妊婦健診の受診や健康行動が抑制され、支援につながりにくいことが指摘されています3)。本研究においても、妊娠がわかった時点での気持ちが子どもの発達と関連することから、妊婦健診の受診を促進するとともに、その機会を活用して育児期までつながる継続的な支援体制の構築が必要だと言えます。
本研究にはいくつかの限界があります。第一に、妊娠に対する気持ちは単一項目で評価されており、感情の多様性を十分に捉えられていない可能性があります。第二に、子どもの発達は保護者による自己報告に基づいているため、評価バイアスの影響が考えられます。また、本研究は妊婦健診や母子手帳交付の場でリクルートされた対象者を中心としており、選択バイアスの可能性があります。
今後は、妊娠がわかった時点での気持ちを手がかりに、支援が必要な対象を早期に把握するとともに、妊婦健診および出産後の定期健診を通じて、継続的かつ多面的なソーシャルサポートにつなげていくことが求められます。

- Tokuda N, Kobayashi Y, Tanaka H et al. (2021) Feelings about pregnancy and mother–infant bonding as predictors of persistent psychological distress. Journal of Psychiatric Research 140: 132–140. https://doi.org/10.1016/j.jpsychires.2021.05.056
- Delgado-Ron JA and Janus M (2023) Association between pregnancy planning or intention and early child development: A systematic scoping review. PLOS Global Public Health 3(12): e0002636. https://doi.org/10.1371/journal.pgph.0002636
- Nagamine M, Matsumura K, Tsuchida A et al. (2023) Relationship between prenatal checkup status and low birth weight. Annals of Epidemiology 83: 8–14. https://doi.org/10.1016/j.annepidem.2023.04.008
この研究成果は、健康心理学系専門誌「Journal of Health Psychology」に2026年6月28日にオンライン先行掲載されました。
エコチル調査富山ユニットセンター
2026年7月
ちょっと詳しく
ソーシャルサポート
社会的関係の中でやりとりされる支援のことで、健康行動の維持やストレッサーの影響を緩和する働きがあります。ソーシャルサポートはその内容によって、以下のように分けることができます。
- 情緒的サポート:共感や愛情の提供
- 情報的サポート:問題の解決に必要なアドバイスや情報の提供
- 道具的サポート:形のある物やサービスの提供
- 評価的サポート:肯定的な評価の提供
本研究では、「愛情や好意を示してくれる人がいるか」「相談や意思決定を支えてくれる人がいるか」「信頼できる人と連絡を取れているか」の3項目を用いてソーシャルサポートを評価しており、主に情緒的サポートおよび情報的サポートを反映する指標を用いました。
子どもの精神神経発達の評価尺度
子どもの精神神経発達は、Ages and Stages Questionnaire, Third Edition(ASQ-3)を用いて評価されました。発達指標のASQ-3(Ages and Stages Questionnaire, Third Edition)とは、保護者の方がお子さんを観察して回答する質問票から得られる指標です。ASQ-3は、コミュニケーション(話す、聞くなど)、粗大運動(立つ、歩くなど)、微細運動(指先で物をつかむなど)、問題解決(手順を考えて行動するなど)、個人・社会(他人とのやり取りに関する行動など)の5つの領域について各年齢時での発達の度合いを評価します。本研究では、何個の領域でカットオフ値を下回ったという合計得点を算出し、合計点が高いほど「発達の遅れ疑い」の可能性が高いと判断しました。