エコチル調査でわかったこと

妊娠中の母親のハウスダストに関する掃除行動と生後18か月から3歳までの子どもの発達との関連―子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)による研究結果

1. 研究概要

  • 妊娠中の母親のハウスダスト(「ちょっと詳しく」参照)に関連する掃除行動と生後18か月から3歳までの子どもの発達との関連について、エコチル調査の81,125組の母子のデータを分析しました。
  • 妊娠中のハウスダストに関連する掃除行動については、(1) 居間の床に掃除機をかける頻度、(2) 布団に掃除機をかける頻度、(3) 布団を干す頻度、(4) 布団や寝具への防ダニカバーの使用の有無を母親に質問しました。生後18か月、2歳、2歳6か月、および3歳時点での子どもの発達は「日本語版乳幼児発達検査スクリーニング質問紙第3版(J-ASQ-3)」(「ちょっと詳しく」参照)を用いて評価しました。
  • その結果、妊娠中にハウスダストに関連する掃除行動の頻度が高いほど、子どもの発達上の懸念を示すスクリーニングで陽性となる割合が低いことと関連していました。これは、本チームが先に実施した生後1歳以下の子どもの発達との関連を検討した研究と同様の結果を示しています。しかし、本研究の結果を解釈する際には、ヘルシー・ユーザー・バイアス(「ちょっと詳しく」参照)や母親の健康リテラシー、母親の健康関連行動や日常行動の類似性などを考慮する必要があり、観察された関連性は慎重に解釈する必要があります。
  • また、子どもの発達評価に用いたJ-ASQ-3は保護者の回答に基づくものであり、診断を行う検査ではない点、本研究は観察研究であり、因果関係を断言できるものではない点等が限界点として挙げられます。妊娠中の母親のハウスダストに関連する掃除行動と生後18か月から3歳までの子どもの発達の関連性の背景にあるメカニズムを解明するためには、客観的な環境ばく露評価および出生後の家庭環境に関するより包括的な評価を取り入れたさらなる研究が必要と考えます。

2. 研究の背景

 赤ちゃんは一定の期間をお母さんのお腹の中で過ごし、胎盤を通じて発達に必要な栄養を受け取って成長していきます。この妊娠期間中に母親が有害な物質にさらされると、赤ちゃんもその影響を受け、小児期の疾患や大人になってからの慢性疾患にかかるリスクが高くなることが指摘されています。
 エコチル調査では、将来生まれてくるお子さんに対して、予防的な対策をとれるように、とくに微量な物質の影響を受けやすい胎児が「どういった物質に対して脆弱か」を明らかにしていきたいと考えています。そのため、これまで妊娠期間中に母親がさらされる様々な化学物質の情報を収集してきました。
 ハウスダストに含まれる物質には、発がん性、催奇形性などといった有害性があると言われ、ハウスダストが人の健康に影響を及ぼすことがこれまでの先行研究からも知られています。妊婦は一日の大半を屋内(特に自宅)で過ごすほか、妊娠が進むにつれて自宅で過ごす時間が長くなる傾向があります。妊娠中の室内空気質と子どもの発達に関する先行研究では、妊娠中に空気清浄機を使用した母親から生まれた子どもは、乳幼児期における精神発達の遅れが少ないことが示されています。
 これらの結果から、妊娠中の母親の家庭環境における室内空気質が、出生後の子どもの発達と関連している可能性を示唆しており、妊娠中はハウスダストが少ない空間で生活することが生後の子どもの良好な発達にも関連していることがわかりました。また、室内空気質やハウスダストへのばく露など、日本における室内環境条件についての懸念が示されており、私たちはハウスダストの管理や室内空気質の改善を含む室内環境条件の向上に注力すべきと考えました。妊娠中の掃除行動と乳児期の神経発達との関連を調べた研究では、生後1歳までの子どもの発達との関連が示されましたが、それ以降の神経発達に関する知見は提示されませんでした。
 そこで、本研究では、家庭環境を管理する代用指標として用いた、妊娠中の母親のハウスダストに関連する掃除行動が、幼児期(生後18か月時、2歳時、2歳6か月時、3歳時)の神経発達と関連があるかどうかを検証し、それによって生後1歳以降への知見の拡張を図りました。

3. 研究内容と成果

 本研究の解析は、エコチル調査に登録された81,125組の母子の情報を用いて行いました。子どもの発達の指標は、生後18か月時、2歳時、2歳6か月時、3歳時点の保護者が記入する発達評価ツール「日本語版乳幼児発達検査スクリーニング質問紙第3版(J-ASQ-3)」を使用しました。J-ASQ-3はコミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会といった5つの領域の発達の状況を点数化して評価します。この研究では、5つの領域ごとに点数を集計し、マイナス2標準偏差以下の得点だった場合、“発達上の懸念がある(スクリーニング陽性)”と定義しました。
 妊娠中のハウスダストに関連する掃除行動については、(1) 居間の床に掃除機をかける頻度、(2) 布団に掃除機をかける頻度、(3) 布団を干す頻度、(4) 布団や寝具への防ダニカバーの使用の有無としました。これらの行動の頻度と、J-ASQ-3で明らかになった発達指標との関連について、最も掃除行動の頻度が低いグループを1とした場合の“発達が遅めであること”の起こりやすさを検討しました。
 その結果、いずれのハウスダストに関連する掃除行動も実施頻度が高くなるにしたがって、“発達上の懸念がある(スクリーニング陽性)”というお子さんが少ない状況が明らかになりました。ただし、本研究では環境汚染物質やハウスダストへのばく露を直接測定するのではなく、母親のハウスダストに関連する掃除行動を、妊娠中の家庭環境管理の代用指標として用いたため、子どもの発達にハウスダストが直接影響しているかどうかを明らかにしたものではありません。

4. 今後の展開

 本研究では、妊娠中に、床や布団に掃除機をかけたり、布団を干したり、防ダニカバーを使用したりするなど、掃除やハウスダスト対策をよく行っていたお母さんの子どもでは、18か月から3歳までの複数の時期において、発達上の懸念がある割合が低いことがわかりました。しかし、本研究で観察された関連性の強さは控えめで、統計的に有意ではあったものの、個人レベルでのリスクの差は小さい可能性があることを示唆しています。
 子どもの発達指標に使用したJ-ASQ-3は、妥当性が確立されて広く使用されている発達スクリーニングツールですが、妊娠中のハウスダストに関連する掃除行動の回答ともに、保護者からの情報に依存している点が研究結果に影響した可能性があります。また、本研究は観察研究であるため、妊娠中のハウスダストに関連する掃除行動と子どもの発達との因果関係を明らかにしたものではありません。よって、本研究の結果は、妊娠中のハウスダストに関連する掃除行動の頻繁な実施が、子どもの発達上の懸念を減らすことを保証するものではありません。
 本研究では取り扱うことができなかったその他の要因があるという可能性を踏まえ、子どもの発達上の懸念との因果関係については、さらなる研究を進めていくことが重要と考えます。

 本研究の成果は、令和8年9月3日付で小児科学の学術専門誌「BMC Pediatrics」に掲載されました。

Maternal house dust–related cleaning behaviors during pregnancy and neurodevelopment from 18 months to 3 years of age in the Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2026年10月

ちょっと詳しく

ハウスダスト

 ハウスダストは空気中に舞い上がり、呼吸に伴って体内に入ります。そのため近年は有害なものであるとたびたび取り上げられ、対策を実施する自治体も増えてきています。ハウスダストを日本語訳すると「家の中のホコリ」となりますが、ホコリの中でも特に1mm以下の大きさのものを指しています。このような小さなホコリは、衣類などの繊維のクズ、ダニの死がい・フン、砂ぼこり、花粉などさまざまなものがあります。また、これらに、鉛、難燃剤、多環飽和炭化水素などの有害化学物質が吸着していることも知られています。

日本語版乳幼児発達検査スクリーニング質問紙第3版(J-ASQ-3)

 この研究で扱った発達指標の「日本語版乳幼児発達検査スクリーニング質問紙第3版(J-ASQ-3:Ages and Stages Questionnaire, Third Edition)」とは、保護者の方がお子さんを観察して回答する質問票から得られる指標です。ASQ-3は、コミュニケーション(話す、聞くなど)、粗大運動(立つ、歩くなど)、微細運動(指先で物をつかむなど)、問題解決(手順を考えて行動するなど)、個人・社会(他人とのやり取りに関する行動など)の5つの領域について各年齢時での発達の度合いを評価します。
 この研究では、5つの領域ごとに点数を集計し、5つの領域のうち、1つでも基準を下回った子どもを「発達上の懸念あり(スクリーニング陽性)」とし、それ以外を「発達上の懸念なし(スクリーニング陰性)」としました。

ヘルシー・ユーザー・バイアス(healthy user bias)

 健康意識の高い人は、ある健康行動を実践するだけでなく、日頃からさまざまな健康的な生活習慣を身につけていることがあります。そのため、観察された健康上の効果が、特定の行動そのものによるものなのか、もともとの健康意識や生活習慣によるものなのかを区別しにくくなる現象を指します。