エコチル調査でわかったこと

入浴時に石けん類の使用頻度が少ない子たちはアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを発症する子が多い~エコチル調査より~

 アレルギー疾患は、世界中で小児期に最も多く見られる慢性疾患で、その多くがつらい症状を伴います。近年「アレルギーマーチ」と言って、生後間もない頃にアトピー性皮膚炎を発症したことに続いて、食物アレルギーや気管支喘息など他のアレルギー疾患がまるで行進(マーチ)のように発症する現象が知られています。この現象は、皮膚に問題が起きてダニや食物などのアレルギー物質が皮膚から体内に入ってしまうことが原因の一つと考えられています。したがって、乳幼児期にアレルギー物質から体を守る「皮膚のバリア機能」を保つことは、アレルギー疾患を予防する上で非常に重要と考えられています。

 皮膚のバリア機能は、遺伝子タイプによって生まれつき弱い人がいるということが知られているほか、乾燥や寒さといった気象条件、食事、汚染物質、皮膚刺激物質などからも影響を受けると言われています。また、お風呂やシャワーといった日々の入浴習慣も皮膚のバリア機能に影響を及ぼすと考えられており、アトピー性皮膚炎の患者さんを対象とした研究が多数行われてきました。しかし、皮膚のバリア機能が問題となる乳幼児期の子どもを対象とした研究は非常に少なく、入浴習慣や入浴時の石けん類の使用とアレルギー疾患の関係についてあまり知られていませんでした。

 そこで本研究では、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加している子ども74,349名を対象に、入浴習慣の情報とアレルギー疾患の発症の有無に関連があるかを調べました。エコチル調査は、対象となるお子さんがお母さんのおなかにいるときから、出生して成長していく過程について様々な項目を調べる調査です。本研究で取り扱った入浴習慣の状況は、1歳半時点で保護者にお送りした質問票によって情報収集しました。また、アレルギー疾患の有無については、医師の診断があったかどうかを3歳時点で保護者にお送りした質問票にて情報収集しました。

図1 本研究の情報収集の方法

 本研究で調べたお子さんは、1歳半の時にはほとんどの子がほぼ毎日お風呂あるいはシャワーで体を洗う習慣をもっていました。しかし、入浴時に石けん類を使う頻度は異なり、「毎回使う」子が9割と大多数を占めましたが、「だいたい使う」、「ときどき使う」、「ほとんど使わない」お子さんも一定数いました。そこで、「毎回使う」お子さんを基準にした場合の、「だいたい使う」、「ときどき使う」、「ほとんど使わない」お子さんにおける、3歳の時点でのアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ぜん息の3つの疾患の診断状況を調べました。

 その結果、1歳半時点の入浴時の石けん類使用の頻度が少ないお子さんでは、3歳時点でアトピー性皮膚炎と食物アレルギーと診断されている子が多くなる傾向があるということがわかりました。一方、ぜん息に関しては入浴時の石けん類使用の頻度との関連は認められませんでした(図2)。

図2 入浴時の石けん類の使用頻度とアレルギー疾患との関連

オッズ比は一般化線形混合モデルにより算出した。調整変数:母親年齢、婚姻状況、世帯収入、教育歴、妊娠中の就労状況、母親のアレルギー歴、妊娠中の能動喫煙、受動喫煙、妊娠前の体格(BMI)、帝王切開の有無、性別、在胎週数、出生児体重、出生時の季節、授乳方法、出生順位、ペットの飼育、託児の利用、入浴の頻度、湿疹の有無、地域。垂直バーは95%信頼区間を示す。

 このような結果となりましたが、今回の調査対象者のうち1歳半の時点で湿疹のような肌にトラブルがある方では入浴時の石けん類の使用頻度が少ない傾向もわかりました。図2の結果は、1歳半の時点で湿疹がある子とない子の石けん類使用の違いの影響が消えるような方法で解析を行っています。しかし、やはり単に「アトピー性皮膚炎になった子や食物アレルギーになった子が石けん類を使っていなかっただけ」という「原因と結果」が逆転していることを見ている可能性もあるため、1歳半の時点で湿疹がないお子さんだけに絞り込んだ追加の解析を行いました(図3)。

図3 追加解析のデザイン

 その結果、1歳半時点で湿疹のないお子さんに絞り込んでも、1歳半時点の入浴時の石けん類使用の頻度が少ないお子さんで、3歳時点でアトピー性皮膚炎と食物アレルギーの診断がつく子が多くなるということがわかりました(図4)。

図4 1歳半時点で湿疹がないお子さんにおける
入浴時の石けん類の使用頻度とアトピー性皮膚炎および食物アレルギーとの関連

 本研究では1歳半時点での入浴時の石けん類の使用状況と、3歳時点でのアトピー性皮膚炎と食物アレルギーの診断との関連を検討したもので、石けん類がアレルギー疾患の発症にどのように関連するかを調べたわけではありません。しかし、これまでの研究で、皮膚に黄色ブドウ球菌が多い場合にアトピー性皮膚炎が発症しやすいといった報告があります。本研究から見えた結果は、アトピー性皮膚炎発症にかかわるような皮膚の細菌あるいは皮膚に付着したアレルギー物質を石けん類で洗い流すことができなかったことなどが原因ではないかと考えられます。

 一方、この研究の解釈にはいくつかの注意点もあります。まず、扱った情報は保護者の回答する質問票より収集したため、記憶違いや回答ミスなどが含まれている可能性があります。また、石けん類はアルカリ性、酸性、中性といった種類や、抗菌剤を含むものなど多様な種類がありますが、こういった種類についての情報はわかりません。そして、本研究の結果は大多数の人々を比較して見えた傾向であって、アレルギー疾患を持つ個人が「石けん類を使わなかったからアレルギーになった」ことを示す内容ではありません。

 今後は、今回の結果では不確かだった点を克服する研究をセッティングし、乳幼児期の石けん類の使用でアレルギー疾患が予防できるかさらに調べていく必要があります。

 この研究成果は小児アレルギー研究の専門誌「Pediatric Allergy and Immunology」に2023年4月17日に掲載されました。

Association of soap use when bathing 18-month-old infants with the prevalence of allergic diseases at age 3 years: The Japan Environment and Children's Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年5月