エコチル調査でわかったこと

男性のオメガ3系脂肪酸摂取量と配偶者に対する暴力の関連について:エコチル調査

 2017年の内閣府男女共同参画局の調査によると、配偶者からの暴力を経験したことのある女性は31.3%に上るとの調査結果が得られています。
 また、コロナ禍が始まった2020年度は2019年度と比較してDomestic Violence(DV)の相談件数が1.5倍に増加し、DV発生後の取り組みや相談窓口が増えてきています。
 しかし、このような暴力行為を予防する取り組みが普及しているとは言いがたい現状があります。

 こうした中、オメガ3系脂肪酸(青魚に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)、エゴマ油やシソ油に多く含まれるα-リノレン酸など)には暴力的・攻撃的行動の抑制効果があることが知られています。
 しかし、これまでに男性のオメガ3系脂肪酸の摂取量と配偶者への暴力との関連について、検討は行われていませんでした。

 そこで、この研究では、エコチル調査に参加している妊婦さんとその配偶者の男性(各48,065名)を対象として、配偶者の過去1年間の1日あたりのオメガ3系脂肪酸摂取量(食物摂取頻度調査票で調査)と、妊婦さんが経験した配偶者からの暴力(身体的暴力による怪我の経験、侮辱されたり罵られたりといった感情的虐待)との関連を調べました。

 解析の結果、以下の点が明らかとなりました。

  1. オメガ3系脂肪酸摂取量が非常に高い場合を除き、オメガ3系脂肪酸摂取量が高いと配偶者に対して暴力を振るった者の割合が低かった。
  2. この傾向は身体的暴力、感情的虐待のいずれでも認められた。
  3. オメガ3系脂肪酸摂取量が非常に高い場合を含めると、全体としては右肩下がりのU字型カーブを描く関係にあった(図1参照)。
    配偶者に対して暴力を振るった者の割合の最低値は身体的暴力、感情的虐待の双方ともに、摂取量の70パーセンタイル付近(上位30%、2.17 g/day付近)にあったが、それ以上の摂取量では横ばいないしは緩やかな上昇が見られ、摂取量が99パーセンタイル(4.2 g/day 付近)を越えるまで最低値と統計的な差はなかった。
図1.男性のオメガ3系脂肪酸摂取量と配偶者(パートナーを含む)に対する暴力の関係
(点線は誤差範囲)

 以上の結果より、摂取量が非常に高い場合を除き、オメガ3系脂肪酸摂取量が高い男性は、配偶者に対して暴力を振るうリスクが低いことが示唆されました。

 配偶者への暴力のリスクが最も低いのは、摂取量が70パーセンタイル付近(上位30%、2.17 g/day付近)でした。
 非常に高い摂取量にならないと配偶者への暴力のリスクは増加せず、また摂取量が高い方はまれにしかいないというオメガ3系脂肪酸摂取量の分布を考えると、オメガ3系脂肪酸を気持ち多めに摂取するよう心がけることで、人口全体として、配偶者に対する暴力行為を減らせる可能性があると考えられます。

 本研究の限界として、観察研究であるため因果関係まで扱えていないこと、参加した妊婦に対して、約半数の男性配偶者しか参加していないため選択バイアスがあること、非常に単純な質問項目を用いているため配偶者への暴力の全体像をカバーできていないこと、などが挙げられます。

 この研究成果は精神医学系専門誌「Epidemiology and Psychiatric Sciences」に2022年6月23日に掲載されました。

Matsumura K et al. Male intake of omega-3 fatty acids and risk of intimate partner violence perpetration: a nationwide birth cohort — the Japan Environment and Children's Study.

エコチル調査富山ユニットセンター
 2022年6月

ちょっと詳しく

配偶者(パートナーを含む)
に対する暴力

 「配偶者やパートナー間での暴力」を表す言葉として、日本では「Domestic Violence(DV)」がよく用いられています。しかし、DVは同居している全ての近親者間(夫婦・親子・兄弟・祖父母と孫など)における暴力も表します。
 本研究で調査している暴力は、国際的には「Intimate Partner Violence(IPV)」と呼ばれ、同居の有無や法律上の婚姻関係の有無は問わず、配偶者やパートナー(元配偶者や元パートナーを含む)による暴力を指します。IPVには、殴る蹴るなどの身体的暴力、侮辱や暴言などの感情的虐待の他、交友関係をコントロールするなどの支配的行動、性行為や中絶の強要などの性的強要、というような行為も含まれます。