エコチル調査でわかったこと

魚を多く食べる人は妊娠高血圧症候群が少ない?(エコチル調査より)

 魚にはEPAやDHAとして知られるn-3系多価不飽和脂肪酸という脂肪酸が豊富に含まれています。n-3系多価不飽和脂肪酸は、炎症を抑制する効果がある栄養素であり、近年大変注目されています。n-3系多価不飽和脂肪酸は生活習慣病の発症を抑える報告も多数ありますが、妊娠中も非常に重要な栄養素です。
 これまで、妊娠中に魚を摂取すると妊娠中に血圧が高くなる妊娠高血圧症候群に対して好影響があることが、いくつかの研究から報告されてきました。しかし、魚摂取の多い日本人における研究がないのが現状です。

 そこで今回、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加する約10万人から有効なデータが得られた約9万人のお母さんの妊娠前と妊娠中の魚の摂取量と、妊娠高血圧症候群の発症を調査しました。解析は、魚食の量で「少ない」、「やや少ない」、「中程度」、「やや多い」、「多い」の5つにグループ分けをし、「少ない」グループと比較してほかのグループの妊娠高血圧症候群の発症を検討しました。

 妊娠高血圧症候群は、日本妊娠高血圧学会の定義に則り、妊娠20週以降に収縮期血圧が140mmHg、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上に上昇する妊婦としました。さらに32週未満に発症した症例を早発型妊娠高血圧症候群、以降のものを遅発型妊娠高血圧症候群と定義しました。

 その結果、妊娠前の魚摂取が多い妊婦は早発型妊娠高血圧症候群の発症が少なく、妊娠中の魚摂取が多い妊婦は遅発型妊娠高血圧症候群の発症が少ないことがわかりました。

  1. 妊娠前の魚摂取と早発型妊娠高血圧症候群の発症
    妊娠前の魚摂取量が「多い」グループでは、初産群で早発型妊娠高血圧症候群発症のオッズ比が低下し、トレンド検定でも有意な関連が認められました。


  2. 妊娠中の魚摂取と遅発型妊娠高血圧症候群の発症
    妊娠中の魚摂取量が「多い」グループでは、初産群で遅発型妊娠高血圧症候群発症のオッズ比の低下が認められました。

    ※ 統計的有意差あり(p<0.05)
    上記1)~2)のグラフに示した解析は、以下の14の因子で補正した結果です。
    母親の年齢、妊娠前のBMI、教育歴、世帯収入、婚姻状況、アルコール摂取状況、喫煙状況、身体活動強度、就労の有無、妊娠中のEPA・DHAサプリ使用の有無、不妊治療の有無、妊娠糖尿病発症の有無、妊娠高血圧症候群既往の有無、魚摂取以外のダイエットパターン

 また、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸およびリノール酸やアラキドン酸のようなn-6系多価不飽和脂肪酸に着目した解析も行いました。n-3系多価不飽和脂肪酸では、妊娠前の魚摂取が多いと全体群で早発型妊娠高血圧症候群発症のオッズ比の低下を認めました。

 今回の結果より、妊娠前の魚摂取は早発型妊娠高血圧症候群の発症を抑える方向に関連しており、妊娠中の魚摂取は遅発型妊娠高血圧症候群の発症を抑える方向に関連しています。その要因としては多価不飽和脂肪酸の関与が考えられました。

 魚摂取が諸外国と比較して多いと言われてきた本邦でも、若年女性の間で魚摂取の低下が指摘されています。今回の結果をふまえ、健康な妊娠経過のためには、妊娠前からの魚摂取はこれまでと同様に推奨されるといえます。

 しかし今回の研究は、自分が回答する質問票を用いた観察研究であり、妊婦の食事を第三者がコントロールするような試験は行っていません。そのため本当に良い影響があるかをあきらかにするためには、今後魚の摂取量をコントロールするような別の研究を行う必要があります。したがって、魚あるいはn-3系多価不飽和脂肪酸を摂っているからといって、妊娠高血圧症候群になりにくいと結論づけることはできないことにご留意ください。
 また魚の種類によっては、水銀や残留性有機化合物を体内に多く蓄積するものもいます。詳しくは厚生労働省のリーフレット「これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/100601-1.pdf)」を参照してください。

 この研究成果は欧州の栄養医学系専門誌「European Journal of Nutrition」に2026年9月8日にオンライン掲載されました。

Association of the maternal fish and PUFA intake with the risk of hypertensive disorders of pregnancy: a nationwide birth cohort—The Japan Environment and Children’s Study (JECS)

エコチル調査富山ユニットセンター
 2026年9月

ちょっと詳しく

n-3系多価不飽和脂肪酸って?

 DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などで知られる、魚由来の代表的な脂肪酸です(ω3系多価不飽和脂肪酸とも呼ばれます)。血液をサラサラにする成分として、聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 またn-3系多価不飽和脂肪酸は、脳や神経にとって大事なものであり、子どもの発育に必要といわれています。

魚を摂るにあたっての注意点

 一般的に大きな魚は小さな魚よりも、食物連鎖による濃縮により多くの水銀を含んでいます。水銀は胎児の発育に影響する可能性があり、これからママになる方は大きい魚を食べる際には量を控える方が良いようです。
 その一方で、水銀に関して“特に注意が必要でないもの”もあります。魚は、n-3系多価不飽和脂肪酸以外にも、良質なタンパク質やミネラルなどを含み、妊婦さんにとっては栄養バランスの良い食材ですので、積極的に摂っていただきたいです。
【特に注意が必要でないもの】
 🐟キハダ 🐟サケ 🐟イワシ 🐟ブリ 🐟ビンナガ 🐟アジ 🐟サンマ 🐟カツオ 🐟メジマグロ 🐟サバ 🐟タイ

 どのくらいの摂取が良いかの目安については、厚生労働省ホームページ内「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」などをご参照ください。
 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/

妊娠高血圧症候群とは?

 妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に血圧が上昇する病気です。一般的な高血圧症候群とは起こるメカニズムが異なり、赤ちゃんの胎盤とお母さんの子宮との間で、血流のやり取りがうまくいかないことが原因とされています。基本的な治療は降圧薬の投与を行うことですが、病気が進行すると赤ちゃんの低酸素状態や、お母さんの肝臓や神経にダメージを起こすことがあります。
 このため、妊娠高血圧症候群は妊娠中の母児の死亡原因の一つと言われています。また長期的には、妊娠高血圧症候群を発症したお母さんはその後の心筋梗塞などのリスクが上昇することも指摘されています。したがって、妊娠高血圧症候群を予防することは、女性が健康で長い生涯を送るうえでも重要な課題といえます。

オッズ比とは?

 オッズとは、ある現象の起こりやすさを、ある現象が起こる回数(人数)÷ある現象が起こらない回数(人数)として表した値であり、オッズ比とは、この値の比のことです。
 本研究では、魚を食べる量が「少ない」グループのオッズを基準(1)とすると、ほかのグループでは「妊娠高血圧症候群」の発症しやすさが「何倍(いくつ)」になるかを示すために使っています。
 各グループのグラフ上に示された値(=オッズ比)が、1より大きいと起こりやすい、1より小さいと起こりにくいと言えます。

トレンド検定とは?

 本研究で観察された結果が、直線的にだんだん大きく、またはだんだん小さくなるというトレンド(傾向)にあるかどうかを、統計的に調べる方法です。本研究ではトレンド検定により算出された値(p)が0.05未満であると、魚を食べる量が多いグループに向かってオッズ比が直線的に下がっている傾向があると言えます。