エコチル調査でわかったこと

出産1ヶ月後の産後うつが
出産1年後の対児愛着を予測する(エコチル調査より)

 「対児愛着(ボンディング)」という言葉をご存知でしょうか?
 「対児愛着(ボンディング)」とは母親から子どもに向けられる情緒的な関心や愛情のことで、母親が子どもの世話をしたり、守ったりする動機づけにもなります。
 一方で、自分の子どもに対して愛情がわかず、世話をし、守りたいという感情が弱く、イライラしたり、敵意を感じたり、攻撃したくなるような「ボンディング障害」の症状に苦しむ人もおられます。この「ボンディング障害」は虐待を含むマルトリートメント(不適切な養育)につながる危険性も示唆されており、子どもの成長や発達に悪影響を与える場合もあります。

 富山大学の研究グループは以前、産後1か月時点の産後うつとボンディングの程度を評価し、産後うつに関連してボンディングが悪くなることを明らかにしました(Tsuchida et al., Journal of Psychiatric Research 2019)。

 今回の研究では以前の研究を踏まえ、エコチル調査に参加しているお母さん約83,000人の産後1か月および6か月の産後うつをまず調べ、調べた時点から時間経過した産後1年時点のボンディングの程度を評価し、両者の関連をより詳細に調べました。
 ボンディングの程度の評価には赤ちゃんへの気持ち質問票を、産後うつについてはエジンバラ産後うつ質問票を用いて評価しました。この検討では、ボンディングに関連していると考えられる他の要因(これまでの出産経験や、過去の病歴など)を考慮して調べました。

 その結果、他の要因の影響を除外しても、産後1か月および産後6か月の産後うつはいずれも産後1年のボンディングが悪い状態と関連を示しました。また、産後1か月と6か月で、産後1年のボンディングとの関連の強さには統計的に意味のある違いはありませんでした。

 これまで、産後うつの質問票からは「不安」、「快感消失」、「抑うつ」の気持ちの傾向を、ボンディングの質問票からは「愛情の欠如」と「怒りと拒絶」の気持ちの傾向(「因子」と呼びます)を読み取れることが示されています。本研究では、これらの因子について、どれとどれが関連を示すか検討を行ったところ、すべての因子同士が統計的に意味のある関連を示しました。そしてその中でも、「快感消失」と「愛情の欠如」、「不安」と「怒りと拒絶」が他の因子の組み合わせよりも強い関連があることがわかりました。

 以上のことから、産後うつに対して適切なケアを施すことで、その後のボンディングの改善に結び付けられる可能性が示唆されました。また、産後うつに特有の症状とされる「不安」因子は「怒りと拒絶」因子と特に強い関連を示したことから、産後の「不安」のケアによっても、子へのネガティブな感情を抱くことを避けられる可能性が高いと言えます。

 しかしながら、本研究は予防に関する実験的な研究ではなく、観察した研究であるため断言することはできません。今後は、産後うつをケアする早期介入プログラムを提供するといった研究を積み重ねて、さらに検証していく必要があります。

※本研究は、『Psychological Medicine』に2019年9月2日付でオンライン掲載されました。

Kasamatsu et al., Understanding the relationship between postpartum depression one month and six months after delivery and mother-infant bonding failure one-year after birth: results from the Japan Environment and Children's study (JECS)

エコチル調査富山ユニットセンター
 2019年9月