エコチル調査でわかったこと

ソーシャル・キャピタルと
妊婦さんの心とからだの
健康状態との関連について(エコチル調査より)

 人との交流やコミュニティの絆は、ソーシャル・キャピタルと呼ばれ、健康に影響を与える要素として注目されてきました。日本ではここ数十年、核家族化・地方の過疎化・都市部の人口密度の上昇などにより、世代間の交流やコミュニティの絆が弱まっていると考えられています。妊娠中は、体調の変化も大きく、多くの人の手助けを必要とする時期です。妊娠期間にソーシャル・キャピタルが乏しいと、お母さんの心とからだの健康に悪影響を与える可能性がありますが、これまで十分な研究は行われてきませんでした。

 そこで今回、「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)に参加する約8万人のお母さんの回答をもとに、ソーシャル・キャピタルが妊娠中の心とからだの健康状態に与える影響について検証しました。

 

 ソーシャル・キャピタルは、

  • 個人のソーシャル・キャピタル …個人の社会的ネットワークによって具現化される資源
  • 近隣地域のソーシャル・キャピタル …社会的結束によって形成される資源
    (例えばコミュニティ内での信頼のストックや相互関係など)

の程度を質問票の回答から評価しました。
 妊娠中の心とからだの健康状態は、本人が感じる「健康状態」を測定する質問票健康関連QOL尺度(SF–8)の回答から算出される心の健康感とからだの健康感の各スコアを使用しました。

 その結果、心の健康感のスコアは、ソーシャル・キャピタルが最も高い群では、最も低い群と比較して個人のソーシャル・キャピタルで約4.4点、近隣地域のソーシャル・キャピタルで約1.6点高い値となりました。一方、からだの健康感のスコアは、個人のソーシャル・キャピタル、近隣地域のソーシャル・キャピタルともわずかな差しかありませんでした。このことから、ソーシャル・キャピタル、特に、個人のソーシャル・キャピタルは妊娠中の心の健康感と関連することがわかりました。

 以上から、ソーシャル・キャピタルが豊かになると妊婦のメンタルヘルスが改善されることが示されました。したがって、ソーシャル・キャピタルを高める取り組みをすることで、妊娠中の心の健康感を維持できる可能性が示唆されました。

 しかしながら、本研究では友人や地域社会の特徴など、ソーシャル・キャピタルに関連する詳細な情報は得られていません。また、友人や地域社会の有効性・実質的な機能について明らかにするためのネットワーク分析(本人の人間関係・社会とのかかわり方)も行っていないため、今後の研究ではこうした詳細な点に注目することが必要と考えられます。

 この研究成果は医学系専門誌「BMC Pregnancy and Childbirth」に2020年8月6日付で、オンライン掲載されました。

Morozumi R, et al. Impact of individual and neighborhood social capital on the physical and mental health of pregnant women: the Japan Environment and Children’s Study (JECS).BMC Pregnancy and Childbirth (2020) 20:450

人々を思い浮かべている妊婦さんのイラスト

エコチル調査富山ユニットセンター
 2020年8月