エコチル調査でわかったこと

妊娠中のソーシャルサポートと周産期および産後抑うつ状態との関連について:エコチル調査

 産後うつ病は母親と生まれた子どもの心身に深刻な影響を及ぼすことが知られていますが、有病率は10%以上と高く、効果的な産後うつ病の予防方法や回復方法が求められています。
 産後うつ病のリスク要因について、妊娠中のソーシャルサポートが十分でないことと周産期および産後の抑うつ状態との関連についての先行研究は多くあります。
 しかし、これが因果の逆転現象————元からあった抑うつ状態が妊娠中の不十分なソーシャルサポートにつながり、それが周産期および産後の抑うつ状態の悪化につながる————によるものかどうか、はっきりしていませんでした。
 そこで本研究では、こうした因果の逆転を最大限抑えるように工夫した上で、妊娠中のソーシャルサポートと周産期および産後の抑うつ状態との関連を調べました。

 エコチル調査に参加している88,771名の妊婦を対象としました。
 妊娠中のソーシャルサポートは、妊娠中期~妊娠末期の質問票に含まれるENRICHD Social Support Instrument(ESSI)から派生した、次の3項目で評価し、「低い」「中の下」「中の上」「高い」の4段階の水準に分けました。

  • 連絡可能な人で、あなたに愛情や好意を示してくれる人はいますか?
  • あなたは、何か問題を相談したり、難しい決断をするのを助けてくれる、精神的な支えとなる人はいますか?
  • あなたは近しいと感じる、信頼できる人と望む程度の連絡をとっていますか?

 周産期および産後の抑うつ状態については、妊娠中期~末期から産後1年時点までの質問票に含まれるK6質問票(「ちょっと詳しく」参照)とエジンバラ産後うつ質問票(「ちょっと詳しく」参照)の2種類の自己記入式質問票を用いて判断しました。
 K6質問票では5点以上を「抑うつ状態」と定義し、妊娠中期~末期と産後1年時点の計2回測定しました。また、エジンバラ産後うつ質問票では9点以上を「抑うつ状態」と定義し、産後1ヶ月および6ヶ月時点の計2回測定しました。

 その結果、抑うつ状態である割合はソーシャルサポートの各水準において、図1のようになり、ソーシャルサポートの水準が低いほど「抑うつ状態」である割合が高くなりました。
 また、時間的推移を比較したところ、ソーシャルサポートの水準が高いほど大きく回復する傾向がみられました。

図1.K6質問票およびエジンバラ産後うつ質問票で評価した
各ソーシャルサポート水準における抑うつ状態の割合

 これらの結果から、妊娠中に十分なソーシャルサポートが得られないことと、周産期および産後の抑うつ状態とは関連があり、また自然回復が遅れる傾向がみられることが分かりました。

 本研究では、妊娠中に十分なソーシャルサポートを受けることで、周産期および産後の抑うつ状態が予防されるだけでなく、自然回復が促される可能性が示唆されましたが、両者の因果関係を決定づけるまでには至っていません。
 本研究では抑うつ状態の測定を母親の自己記入式質問票から得ており、医師の診断に比べて客観的であるとは言えません。
 また、使用した質問票2種類(K6質問票・エジンバラ産後うつ質問票)は、それぞれで測定時期が異なっており、測定期間を通じて同じ質問票を使用した場合について検討できていません。
 くわえてソーシャルサポートの水準についてはESSI以外の判定方法を実施していません。
 さらに、本研究の対象者は日本在住者であり、日本以外の環境下における影響について検討したわけではありません。
 以上のようなことから、今後さらに追加研究を進めていく必要があります。

 しかしながら、本研究の結果は、妊娠中の十分なソーシャルサポートが、周産期および産後の抑うつ状態の予防と自然回復のために重要な役割を果たすことを示唆しており、今後、妊娠中や産後の母親に対するソーシャルサポートをさらに充実させる根拠となりうると考えられます。

 この研究成果は医学系専門誌「Journal of Affective Disorders」に2022年3月15日に掲載されました。

Causal model of the association of social support during pregnancy with a perinatal and postpartum depressive state: A nationwide birth cohort – the Japan Environment and Children's Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2022年4月

ちょっと詳しく

ソーシャルサポート

 社会において人と人のつながりの中から得られる精神的・物質的支援のことであり、具体的には、

  • 親しい人からの感情的サポート
    (例:辛い時に励ましてくれる、愚痴を聞いてくれる)
  • 道具的サポート
    (例:お金をくれる、直接力を貸してくれる)
  • 情報的サポート
    (例:問題解決へのアドバイスをくれる、良い解決法を教えてくれる)

等に細分化できます。
今回使用したソーシャルサポートの質問項目は感情的サポートであり、おおよそ1/4の妊婦さんが満点を取られていました。

K6質問票

 抑うつや不安といった、産後うつとも関連の高い「非特異的な心理的苦痛」を測定するために開発された質問票です。
 名前の通り6項目の質問から構成されており、4点=いつも、0点=全くない、といった5段階の選択肢で回答します。
 苦痛が高いほど得点が高くなるように作られており、本研究においては、過去の日本国内の研究で示された「5点以上」を抑うつ状態と判定する基準としました。

エジンバラ産後うつ質問票

 産後うつの判断に使われている指標の1つです。
 この質問票には10項目の質問があり、3点=とてもそう思う、2点=そう思う、1点=あまりそう思わない、0点=全くそう思わない、といったような4つの選択肢で回答します。
 産後うつの程度が悪いと得点が高くなるように作られており、本研究においては、過去の日本国内の研究で示された「9点以上」を抑うつ状態と判定する基準としました。