エコチル調査でわかったこと

早産での出生と2歳までの感染症罹患との関係:エコチル調査

 日本では約5~6%の新生児が在胎37週未満の早産で出生します。早産で出生した児の多くは、新生児集中治療室(NICU)に入院し、呼吸や栄養などの治療を必要とします。新生児医療の進歩により、特に在胎28週未満の超早産児の生存率はこの20年間で向上していますが、敗血症や肺炎などの感染症は依然としてNICU入院中の死亡や合併症の原因となる疾患です。

 NICUから退院した後にも、感染症は早産児の健康を脅かす疾患の一つです。特に、気管支炎や細気管支炎、肺炎などの下気道感染症は、2歳未満の乳幼児の入院の主な原因ですが、特に超早産児は、正期産で出生した子どもと比較して、呼吸器感染症による再入院率が高いことが海外から報告されています。

 しかし、早産と正期産で出生した子どもにおける、一般的な小児感染症の罹患頻度についての研究はまだ十分には行われていません。また、2歳未満の乳幼児の下気道感染症の原因の一つにRSウイルスがありますが、日本では在胎36週未満で出生した子どもには、RSウイルス感染症の重症化予防にパリビズマブ(シナジス)の予防投与が行われています。パリビズマブの普及を加味した大規模な研究はほとんど行われていませんでした。

 そこで、本研究では、エコチル調査に参加している母親とその子ども(67,282組)を対象として、早産で出生した児は、正期産で出生した児と比較して、一般的な小児感染症に罹患しやすいかどうかを調べました。また、下気道感染症およびRSウイルス感染症におけるパリビズマブの効果を調べました。

 解析では、在胎週数から早産児と正期産児に群別し、1歳および2歳時の各種感染症罹患歴(上気道炎、下気道炎、中耳炎、尿路感染症、胃腸炎、突発性発疹症、ヘルパンギーナ、手足口病、水痘、インフルエンザウイルス感染症、RSウイルス感染症、アデノウイルス感染症)を比較しました。母体因子の他、母乳育児、集団保育、パリビズマブ投与を調整変数として、多重ロジスティック回帰分析を行いました(図1)。

図1.解析モデル

 その結果、母に関連する因子および母乳育児と集団保育で調整すると、早産児の下気道感染症罹患のリスク比(95%信頼区間)は、1歳時 1.22(1.05-1.41)、2歳時1.27(1.11-1.47)と正期産児と比較して有意に高かった一方で、パリビズマブ投与を調整変数に加えた解析モデルでは、下気道感染症の罹患に有意差がなくなることが明らかとなりました。一方で、この効果はRSウイルス感染症では認められませんでした(図2)。

図2.早産児におけるパリビズマブ調整後の感染症リスクの減少(2歳時)

 本研究から、早産で出生した児は、正期産で出生した児と比較して、1歳および2歳時の下気道感染症の罹患リスクが高いが、パリビズマブ投与を加味すると、罹患頻度に有意差がなくなることが明らかになりました。また、上気道炎や胃腸炎など、その他の一般的な小児感染症に関しては、早産児が正期産児と比べて罹患リスクが高いということはありませんでした。

 RSウイルスは、乳幼児の下気道感染症の原因として最も多いウイルスの一つです。特に早産で出生した子どもは、RSウイルスに感染すると下気道感染症を発症して重症化しやすいとされています。日本では在胎36週未満で出生した子どもは、RSウイルス流行時期に条件を満たせばパリビズマブの予防投与が保険診療で認められています。本研究から、早産児へのパリビズマブの予防投与は、下気道感染症の発症リスクを正期産児と同じ程度にまで下げられる可能性が示唆されました。

 お子さんを早産で出生したご両親の中には、退院してからも感染症にかかりやすいのではないかと不安をお持ちの方がいらっしゃいます。本研究からは、早産で出生した子どもは、必ずしも一般的な小児感染症の罹患頻度が多くはなく、過度に心配をする必要はないと考えられます。

 ただし、本研究の限界として、感染症の重症度や入院率は評価できていないこと、より在胎週数の小さな早産児に関する検討はできていないことが挙げられます。特に超早産児で出生したお子さんや在宅酸素を使用しているお子さんなどは、重症化するリスクは高いので、お子さんにいつもと違う様子があれば、小児科医にご相談ください。

 この研究成果はSpringer Nature系の学術雑誌「Scientific Reports」に2022年12月28日に掲載されました。

Prevalence of infectious diseases in preterm infants: a 2-year follow-up from the Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年1月

ちょっと詳しく

RSウイルス感染症

RSウイルスの感染による呼吸器の感染症です。生後1歳までに半数が、2歳までにほぼ100%の子どもがRSウイルスに感染し、その後は一生のうちに何度も感染と発症を繰り返します。症状は軽い風邪症状から肺炎まで様々ですが、生後半年未満の乳児が罹患すると、細気管支炎や肺炎といった重篤な症状を引き起こすことがあります。近年では、高齢者の肺炎や基礎疾患増悪への関与も確認されています。例年冬期に流行のピークが見られましたが、近年では夏頃に流行することがあります。そのため、小児科では地域の流行状況を常に監視しています。

パリビズマブ(シナジスⓇ)

パリビズマブ(商品名:シナジス)とは、RSウイルスに対するモノクローナル抗体製剤です。RSウイルス感染症の流行時に1か月毎に筋肉注射することで、重篤な下気道炎症状の発症抑制が期待できます。日本で投与対象になっているのは、在胎36週未満の早産児、先天性心疾患のある児、免疫不全やダウン症候群の子どもなどです。在胎週数や月齢により適応が異なりますので、詳しくはかかりつけの小児科医にご相談ください。