エコチル調査でわかったこと

出生コホート調査参加者向けのイベント開催とイベント後に依頼した質問票返送率の関連~エコチル調査富山ユニットセンターでの検討~

 質問票調査は多くの人から日常生活や心情などの情報を収集し、社会の問題を明らかにする重要な調査手法です。しかし、依頼しても質問票の回答が得られないことや、中途で調査をやめてしまう(脱落)事例が起きることで、本来得られるべき情報が得られないこともしばしば生じてしまいます。とくに、長期間に渡って対象者を追跡する調査では、調査の参加者が質問票に回答するモチベーションを維持することは大変難しく、大きな課題となっています。そのため、これまでにも多くの研究で、調査参加者のモチベーション維持の取り組みについて検討されてきました。

 その手段として、回答の手間に対する少額の商品券や日用品などのインセンティブ配布や、調査員が電話やメールなどで回答を促すことなどがモチベーション維持に効果があると報告されています。また、調査の主催者が参加者と対面でコミュニケーションを取ることも効果があるという報告もありましたが、調査主催者が開催するイベントとその後に配布した質問票の返送との関連を検証した事例はほとんどありませんでした。

 そこで、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加しエコチル調査富山ユニットセンターが追跡している母親とその子ども(5,379組)を対象に、イベントを開催しその後に配布した質問票の返送率について検討しました。エコチル調査は妊娠中の母親が調査に参加し、生まれたお子さんを長期的に追跡する調査です。妊娠中はエコチル調査の調査員が産科施設で母親と対面し手渡しで質問票の配布回収を行いましたが、1カ月健診以降は年に2回、郵送にて質問票の配布と回収を行っています。我々はお子さんが生後8カ月のころに「離乳食セミナー」と、生後1歳8カ月のころに「リトミック*教室」を企画・開催し、調査参加者のイベント来場とイベント後に配布した郵送での質問票の返送率との関連を検討しました。

*リトミックとは、音楽とともに体を動かし、体を使った表現や音楽に対する感性を養う教育方法です。

図1.本研究のデザイン

 対象者は、イベント時に既に対象の月齢を超えてしまったなどの理由により案内を送らなかった非招待群、案内したが申し込まなかった非申込群、申し込んだが来場できなかった申込群、来場してイベントを体験した来場群の4つのグループに分け、それぞれの質問票返送率を比較しました。その結果、離乳食セミナーと1歳時質問票の返送率の検討(解析1)、リトミック教室と2歳時質問票の返送率の検討(解析2)、のいずれにおいても、非招待群と比べて、申込群と来場群のいずれも返送率が高いことがわかりました。また、解析2では、イベントの案内を送ったのみの非申込群も、非招待群より高い返送率でした。

解析1 離乳食セミナーと1歳時質問票返送の関係 (n = 5,317)
解析2 リトミック教室と2歳時質問票返送の関係 (n = 4,947)
*解析2は以下の変数で調整。母親年齢、教育歴、世帯年収、就労状況、喫煙習慣、
飲酒習慣、産後うつ傾向、父親のエコチル調査参加、年上のきょうだいの数。

 郵送による質問票調査では、調査主催者は参加者と直接会うことはできませんが、対面や電話で話すなどのコミュニケーションの機会を設けることは高い調査参加率と関連し、調査への参加意欲を高めるとする報告があります。本研究の結果は、調査主催者と参加者の間にコミュニケーションの機会を設けることで、調査参加者のモチベーションが高まったことにより質問票返送が多くなったことが推察されました。

 本研究より、同様の質問票調査を実施する調査主催者に対し、情報の欠損を防ぐ可能性がある方策を提示することができました。しかし本研究では、比較群の割り付けを無作為化していない点や、調査参加者の性格特性の情報を収集することができなかったため調整に含めていない点などいくつかの限界が挙げられます。今後はこの結果を検証し得るデザインの研究を行い、イベント開催と質問票返送の関係について確かめる必要があります。

 この研究成果は医学研究の専門誌「BMJ Open」に2022年12月20日に掲載されました。

Provision of educational events and subsequent questionnaire response rates in a large-scale birth cohort study from Japan

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年1月