エコチル調査でわかったこと

帝王切開出生と3歳時点における小児肥満の関係:エコチル調査

 小児期の肥満は成人まで持ち越されやすく、小児期に肥満であった人は肥満でなかった人と比較して成人期に肥満となる確率が5倍以上になると言われています。

 近年、小児期早期に肥満になりやすい人の特徴の一つとして、帝王切開で生まれたことが関係するのではないかと多くの研究者たちが報告しています。また小児期の肥満のなりやすさを考えるうえで、人種や民族といった要素も強く関連します。これまでアメリカ、イギリス、中国などから帝王切開で生まれることが小児期早期の肥満を増加させるということが報告されてきましたが、日本人を対象にした報告はありませんでした。

 そこでこの研究では、エコチル調査に参加している妊婦さんとそのお子さん(60,769組)を対象として、分娩様式(帝王切開であるか経腟分娩であるか)と3歳時点での小児肥満との関連性について調べました。体格の評価はBody Mass Index(BMI)を用いて行い、国際肥満タスクフォースが示している3歳時点での肥満基準(男子BMI≥17.89、女子BMI≥17.56)を超過している人を小児肥満と定義しました。

 肥満は様々な原因で引き起こされるので、分娩様式以外にお子さんの体格に影響を及ぼすと考えられる様々な条件(妊婦さんの体格やお子さんの出生時の週数・体重など)を一定にするための統計学的手法を用いて解析しました。その結果、帝王切開で出生したお子さんは経腟分娩で出生したお子さんと比較して、男女ともに小児肥満になりやすいことがわかりました。

 日本人はもともと肥満の少ない民族と言われています。今回の研究に参加していただいた妊婦さんの中で、成人の肥満の目安となるBMI25を超えていた方は9.8%だけでした。世界基準ではBMIが25を超える妊婦さんが27%いらっしゃることを考えると非常に少ない数字です。同じように3歳時点での小児肥満のお子さんも今回の研究では8.1%のみであり、他国の23~30%と比較すると非常に少ない数字です。一方で日本人は肥満に脆弱であり、他人種と比較して肥満に起因したり関連する健康障害を発症しやすいと言われています。本研究では肥満になりにくい日本人において、帝王切開出生が小児肥満のリスクとなることを初めて示しました。小児期早期から肥満になりやすい体質であることに注意して生活していくことは、将来的な肥満に関連する健康障害を防ぐことにつながるかもしれません。

 本研究ではいくつかの限界点があります。1つ目は帝王切開出生が小児肥満を引き起こす直接的な理由について解明できていないことです。これまでの報告では、帝王切開出生では分娩時にお母さんの腸内細菌に暴露されることなく生まれてくるため、お母さん由来の良質な腸内細菌そうの定着が遅れて、その結果肥満になる可能性が示されています。本研究ではお子さんの腸内細菌そうに変化があったかどうかは調べられておりません。また2つ目の限界点としては、3歳時点で増加した小児肥満が本当に成人期まで持ち越され、肥満に関連する健康障害を増加させるかどうかを検討できていないことです。今後は直接的に腸内細菌そうの変化を調べたり、帝王切開で出生したお子さんたちに肥満に関連する健康障害が増加するかどうかについて確かめていく必要があります。

 この研究成果はSpringer Nature系の学術雑誌「Scientific Reports」に2023年4月21日に掲載されました。

Caesarean section and childhood obesity at age 3 years derived from the Japan Environment and Children's Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年5月

ちょっと詳しく

Body Mass Index (BMI)

 BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で除算した指数です。成人では一般的にBMIが25を超えると肥満または過体重と言われ、健康障害が増加する目安とされています。小児期には体重だけでなく身長もダイナミックに変化し、さらに男女で成長のスピードが異なるため、年齢・性別のBMI基準が提唱されています。

腸内細菌と肥満

 一部の腸内細菌は食物から効率よくエネルギーを吸収させたり、ホルモンバランスを乱すことにより、宿主の肥満を引き起こす可能性が報告されています。

日本の子どもは肥満になりにくい

 日本の小児肥満有病率はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最も低いとされています。さらに小児期を日本で過ごした日系アメリカ人は、成人期に肥満になる確率が低下すると言われています。子ども時代を日本で過ごすと肥満になりにくいのかもしれません。