エコチル調査でわかったこと

帝王切開による出生と神経発達との関係:エコチル調査

 帝王切開は、新生児と母体にとって救命のための重要な手術です。近年、帝王切開での出産は世界的に増加しており、日本でも帝王切開で産まれる子の割合が増えています。こうした中、帝王切開で出生した子に運動発達遅延、知的障害、自閉症スペクトラム障害(ASD)といった神経発達障害の子が多いのではないかといういくつかの研究報告がありました。そのため、帝王切開が子どもの神経発達へ長期的に影響するのではないかという関心が高まっています。しかし、これらは主として欧米からの報告であり、日本を含むアジアでの状況は不明でした。さらに、帝王切開と神経発達障害との関連に性差があるのかといった研究も十分に行われておりませんでした。

 そこで、本研究では、エコチル調査に参加しているお母さんとお子さんのペア(65,701組)を対象に、帝王切開と3歳時の神経発達障害との関連、またその性差について調べました。

 帝王切開であったか、産道を通って生まれる「経腟分娩」であったかという情報は、出産時のカルテを転記して情報収集しました。また、3歳時点におけるお子さんの神経発達は、保護者が回答した、運動発達遅延、知的障害、自閉症スペクトラム障害に関する診断の有無で判断しました。帝王切開とこれらの診断との関係は、お母さんの年齢や合併症、既往歴、出産歴、在胎週数、出生体重、社会経済状況、飲酒歴、喫煙歴などを調整変数として、ロジスティック回帰分析を使用して解析しました。

 その結果、(1) 帝王切開で出生した児は経腟分娩で出生した児と比較すると、自閉症スペクトラム障害と診断される頻度が高いことがわかりました。一方、運動発達遅延や知的障害については診断が多くなるという傾向は認められませんでした(図1)。

図1.経腟分娩と比べて帝王切開で神経発達障害が生じる割合(全体)

a言語の遅れも含まれる
b自閉症スペクトラム障害(自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群など)

 (2) 帝王切開で出生した女児は経腟分娩で出生した女児と比較すると、運動発達遅延と自閉症スペクトラム障害と診断される頻度が高いことがわかりました。一方、男児では帝王切開で出生した子に神経発達障害の発症率が高いという傾向は認められませんでした(図2)。

図2.経腟分娩と比べて帝王切開で神経発達障害が生じる割合(男女別)

a言語の遅れも含まれる
b自閉症スペクトラム障害(自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群など)

 今回は、女児では帝王切開で生まれると自閉症スペクトラム障害と診断される頻度が経腟分娩の場合より高くなるという結果でした。一方、男児は女児と比べ自閉症スペクトラム障害と診断される頻度が高いため帝王切開をしたことによる差がでなかったことも考えられます。帝王切開での出生が将来の疾患罹病率に影響するという報告は散見されており、男女によって罹患しやすい疾患にも違いを認めますが、そのメカニズムについては今後の動物実験等による解明が期待されます。

 本研究の結果を解釈する上の課題点として、1)神経発達に関する質問は母親の回答に頼っていたため、運動発達遅延、知的障害、自閉症スペクトラム障害がどのように診断されたかまでは不明であったこと、2)今回の判定が3歳であったため、自閉症スペクトラム障害の診断が下されていない児が存在している可能性があること、3)観察研究であるため、多くの交絡因子を調整していますが、因果関係までは扱えていないこと、4) 医療カルテの転記から帝王切開かどうかを判断しましたが、帝王切開が計画的に行われたか緊急対応であったかについての情報がなかったこと、などが挙げられます。そのため、引き続き学童期に同じ解析を行うなど、注意深く調査を進めていく必要性があると考えられます。

 *)自閉症スペクトラム障害は先天的な脳機能障害の一種と考えられていますが、原因は未だはっきり分かっていません。ただし、発症や症状の程度は様々な要因から影響を受けると考えられています。本研究は、こうした潜在的要因の一つとして帝王切開に注目するものです。

 この研究成果は、小児科学系専門誌「BMC Pediatrics」に2023年6月19日にオンライン掲載されました。

Association between Cesarean section and neurodevelopmental disorders in a Japanese birth cohort: the Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2023年7月