教室紹介

概要

当教室では,死因を問わず全剖検例に対して心臓,中枢神経系を中心に定点的に多数の標本を作製し,高精度の鑑定および研究に取り組んでいます。剖検数は人事更新後2000例を超えており,中枢神経系は全例で免疫染色を用いて神経変性疾患の有無,神経病理学的診断を行っています。本邦有数の教育,研究資料の蓄積を達成し,現在も継続中です。講座責任者は法医、病理の専門医をそれぞれ有しておりますので、幅広い分野の剖検例に関する系統的な指導が可能です。研究業績に示されていますように,臨床医学や他学部との共同研究も積極的に行っています。学内共用施設を含め,循環器,神経系の形態,分子生物学的研究のほぼ全てを行うことが可能と考えられ,特に形態,分子生物学的研究に関しては習熟した教官による指導が可能です。またイオンチャネル関連の電気生理学的研究の設備も有していて希望する場合には手技,知識の習得,研究が可能です。

主な研究内容

本学倫理委員会の承諾を得た上で,剖検例に対して以下のような診断,および研究を行っています。法医学講座としては類を見ない独自性の高い活動,研究と考えています。

(1) 心臓突然死,遺伝性心疾患の診断

心臓突然死剖検例に対し,刺激伝導系を含めた詳細な病理組織学的検討を行っています。対照例を含めた1200例以上の組織標本の蓄積を有しており,免疫組織染色や画像解析などを行っています。また冠状動脈硬化症を伴う突然死の血管病理,背景因子の検索を行い,特に現在は若青年者症例の解析を中心に行っています。

形態学的所見に診断名を付しがたい(既存の診断基準を満たす病変を欠く)心臓突然死例においては,次世代型シーケンサー用いた網羅的遺伝子解析を行い,成果を得ています。畑博士は共同研究の一環として,診療科からの遺伝子検索依頼も積極的に引き受けて経験を積みながら,検索手技はほぼ確立しました。現在は一層の検索精度の向上や検出された遺伝子変異の評価法の改善などに取り組んでいます。また,逆に遺伝子異常が発見された剖検例の病理組織学的所見を再評価して,微細な病理学的異常を検出する試みも行っており,成果の一部はすでに公表されています。

一般的に司法解剖結果は警察に示され,解剖部門から直接遺族に開示しないのが通例ですが,当教室では警察の承諾を得た上で,極力多くの遺族から遺伝子検索の承諾を得て検索を施行し,その結果を説明しています。行政解剖は基本的に全例直接ご遺族に説明を行っています。面談時,希望があった場合には大学病院循環器関連診療科にご遺族を紹介して心臓の検査を施行し,カウンセリングを行いながら定期的に経過観察を行っています。また,工学部研究室のご指導を受け,新規に発見されたイオンチャネル遺伝子異常につき,培養細胞を用いた電気生理学的検索を施行し,その意義を検証する研究も行っています。

その他,希少剖検例の症例報告,不整脈の発生に関わる心臓の局所解剖研究等も施行可能で,そのような研究を希望する場合でも多数のテーマを提示することが可能です。

(2) 神経疾患の病理

法医解剖は全例で中枢神経を検索することから,その検索手技,知識の習得は重要と考えられます。当教室は法医学講座では本邦唯一の日本神経病理学会認定施設を取得しています。我々は全ての症例の中枢神経標本を定点的に作成して,免疫染色を施行し剖検精度の向上に努める一方,検索された所見の蓄積を基に,主に神経変性疾患,脳血管疾患,頭部外傷例の臨床病理学的研究を行っています。死因究明をゴールとせず,神経難病(アルツハイマー病,レビー小体関連疾患,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症など)の早期病変検出の試みや,神経変性疾患,脳血管疾患と不慮の事故死,自殺の関連など,世界的に類を見ない視点からの研究を行っていて成果を上げています。近年は遺伝子異常との関連にも着手し,死因との関連や,異状死の予防を目指した早期診断に貢献することを目指し,1例1例を丁寧に検索し,様々な視点からの研究が可能なように症例を観察,診断しています。

(3) その他

現時点では上記を大きなテーマとして取り組んでいますが,当教室では,病理組織学的研究,分子生物学的研究,電気生理学的研究の遂行に必要な設備を揃えており,上記以外のテーマでも様々な研究が可能です。

これまでの司法解剖件数(調査解剖件数)