趣意書

1. 設立

私達,富山大医学部法医学講座は,神経・精神疾患に伴う運動・認知障害や頭部外傷後後遺症などの克服を目指し,医学研究用のヒト脳保存機構として富山大学法医ブレインリソースセンター(THBRC)を構築します。以下の内容は富山大学の倫理委員会の審査,承認を受けております。


2. 目的

THBRCは,法医解剖例を対象とする点で,欧米のブレインバンクや病理解剖をベースとした研究とはシステムが異なりますが,法医解剖後に保存された脳を始めとする中枢神経組織を神経・精神疾患,頭部外傷の病態や原因の解明,治療薬開発の基礎となる医学研究に広く活用して,研究を推進することを目的とします。


3. 解剖,保存

解剖は,刑事訴訟法(司法解剖),警察等が取り扱う死体の死因または身元の調査等に関する法律(調査解剖)に則って行われています。死因や死亡の原因(病死,自殺,事故,他殺など)の究明のために脳を含めた全身の組織を採取し,凍結組織,パラフィンブロックを作成して病理組織学的検査を行い,凍結組織からタンパクの抽出を行って,病気の診断を行います。 解剖は日本法医学会専門医,日本病理学会専門医,日本神経病理学会専門医を有する担当医が行い,全例に対して責任を持って標本採取,診断を行います。原則として脳は少量の凍結組織を採取後,ホルマリンにて固定します。凍結法については,液体窒素あるいはドライアイスによる迅速凍結を採用し,ウェスタンブロットやin situ hybridization 等,先端的研究に使用可能な資源の蓄積を行います。 神経病理学的検索を含む解剖結果は警察を通じて御遺族にお伝えされます。診断のため作成したパラフィンブロック,凍結組織は将来の再鑑定の可能性などに備え半永久的に保存されています。この組織を個人情報を完全に削除した状態で THBRCに登録して,医学研究に使用させていただきたいと存じます。


4. 倫理

司法解剖,調査解剖は原則的に御遺族の承諾がなくても,検察庁,警察の依頼で施行されます。病理組織学的検査のための組織採取,標本作製は死因究明のための検査業務として行われています。 作成後保存しているパラフィンブロック,凍結組織をTHBRCへ登録し,研究使用する際には,解剖前に取得した個人情報(氏名,住所,家族構成,死亡日,死亡地,通院病院名など)はすべて削除し,個人が特定されない状態で保存されます。

また,THBRC への登録,研究使用に関しては,御遺族が希望しない場合には行いません。登録を拒否しても解剖結果に影響を及ぼすことはなく,御遺族にも何ら不都合は発生しません。


5. 保存,管理

保存,管理は富山大学医学部法医学講座が責任をもって行います。


6. 独自性

THBRCの特徴は,多数の疾患脳が蓄積されていること,多数の頭部外傷例が蓄積されていること,0 歳から百寿者を含む幅広い年齢層の脳が蓄積されていること,非神経疾患ないし疾患発症後早期の脳が蓄積されていることです。神経疾患は,幅広いスペクトラムがありますが,多数例の蓄積により縦断的変化として理解することが可能になります。


7. 共同研究

共同研究申し込みの内容に対しては,論文審査と同様の守秘義務のもとに,事前審査を行います。共同研究者の適格性については,法医学講座で審査を行います。共同研究にあたっては,共同研究先及び,富山大学医学部倫理委員会の承認を受けることを前提とします。個人が特定されるような情報は提供せず,個人情報である遺伝子を扱う共同研究は行いません。ヘルシンキ宣言を遵守し,人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成 27 年 4 月 1 日 施行),ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成 25 年 2 月 8 日改正) などの指針に準拠して行われます。


8. 共同研究の条件

倫理委員会の承認を得た上で,THBRC 管理責任者,THBRC神経病理診断責任者が共同研究者となることを条件に,共同研究を開始します。


9. 日本ブレインバンクネットへの協力

日本において脳のリソースセンターのネットワーク(日本ブレインバンクネット,JBBN)が創設されておりますので,将来的に参加,協力を行うことを想定しています。


以上


富山大学法医ブレインリソースセンター

責任者 富山大学医学部法医学講座 ⻄田尚樹