ご挨拶

富山大学医学部分子医科薬理学講座のホームページをご覧いただき、ありがとうございます。我々の研究室では老化制御機構の解明を目指し、特に補酵素であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に着目した研究を行っています。NADは今から100年以上前に見つかった補酵素であり、解糖系やミトコンドリアでの酸化的リン酸化などを媒介し、エネルギー代謝において重要な役割を果たしています。また、DNA修復に関与するポリADPリボシル化酵素PARPや脱アセチル化酵素サーチュインの基質としても利用されることから、これら酵素の活性制御にも関与しています。このように、NADは単なるエネルギー産生の補酵素としての役割を越えて、様々な生命現象や疾患の制御に関わっていることが近年明らかになりつつあります。特にサーチュインは寿命・老化制御に関わる分子として知られており、これら経路の上位に位置するNAD代謝が老化制御の鍵として注目を集めています。私たちの研究の特色としては、質量分析計を用いたメタボロミクスを用いてNAD代謝を個体レベルで詳細に解析し、遺伝子改変マウスなどの解析と組み合わせることで、NAD代謝の生理的老化における役割、さらにはメタボリックシンドロームやがん、認知症などの老化と密接に関連した疾患との関わりについて研究を行っています。また、最近はセリンやグルタミン酸といったアミノ酸と老化との関連についても研究を進めています。近年、薬理学研究はボーダレス化が進んでいますが、教室が培ってきた薬理学的視点を生かしながら新たな技術を取り入れ、最先端の研究を行っていますので、老化・代謝研究に興味があるポスドク、大学院生などのご参加を是非お待ちしています。

富山大学学術研究部医学系分子医科薬理学講座 
教授 中川崇

 


講座沿革
本講座は昭和52年4月に富山医科薬科大学医学部薬理学講座として中西頴央教授のもとに開講されました。中西教授時代の教室の研究テーマは「アルコールおよびアセトアルデヒドの薬理作用」についてであり、アルコール嗜好性や耐性発現と肝あるいは脳内のALDHなどの酵素との関係、アルコールとアセトアルデヒドの細胞膜電流に及ぼす作用などの研究において、生化薬理学的および電気生理学的手法を用いての解析が進められました。中西教授は平成4年8月に副学長に就任され、その後平成5年11月に武田龍司教授が2代目講座主任として着任されました。武田教授は、「呼吸中枢回路の神経薬理学」をメインテーマとし、生体における正常呼吸リズム形成の神経メカニズムの解明やスライスパッチを用いた呼吸中枢ニューロン細胞膜電流の解析などを行い、呼吸器系の薬理学に新しい光を当てた研究が行われました。平成17年3月に武田教授が退官され、平成17年7月に服部裕一教授が北海道大学より3代目講座主任として着任されました。服部教授は「敗血症をはじめとする全身性炎症症候群とそれに付随する合併症の分子病態生理と治療戦略」を主たるテーマとして、薬理学的視点を生かした様々な研究を行い、数多くの研究成果を国際誌に発表されてきました。その間、平成17年10月の3大学統合に伴い、富山富山大学医学部になる際に、講座名が現在の分子医科薬理学講座に変更になりました。平成31年3月に服部教授が退官された後、令和元年10月に中川が富山大学医学部病態代謝解析学講座から4代目の講座主任として着任し、現在に至ります。教育面においては、講座開設以来、医学部における薬理学教育を担当し、医師、研究者の育成に貢献するとともに、大学院においても数多くの修士課程、博士課程の学生が当講座で研究を行い、学位を授与されています。
                                
富山大学医学部40周年記念誌を参考に執筆
文責・中川 崇