仕事

12:生殖チームカーネルサンダースになるか、
従業員で終わるか。

座談会メンバー

  • 小野洋輔

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  • 吉野修

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  • 小林睦

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  • 伊藤雅美

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日本で、2箇所しかできない治療。

ー生殖ではどんな治療をしているんですか?

小野:もとを正せば、生殖っていうグループはなかったんですね。もともと、産科と婦人科しかなくて、吉野先生がきてから、富山大の生殖が始まったというか、復活したというか。

吉野:5年前くらいですかね?

小野:吉野先生を迎えて、伊東さん、小林さん、このふたりを中心につくっていったんです。数年かけて、IVA治療を立ち上げてきたので。あ、えーとIVAの説明をしたほうがいいですね。じゃあ、小林さんから。

小林:まず、早発卵巣不全のことからお話ししたほうがいいですかね。日本人はだいたい50歳くらいで閉経を迎えるんですね。人の卵子というのは、生まれた時に数が決まっていて、ゆっくり貯金を切り崩していくような感じなんです。早くに卵子がなくなってしまう早発閉経の患者さんでも、1000個くらいは残っていると言われているんですけど。卵巣をなんとか活性化させて、残っている卵子から体外受精に持っていくという治療法が、IVAです。

小野:今までは、閉経した方からは卵子を採ることができなかったんですが、IVAによって閉経した方でも、卵子が採れる手段を提示してあげられるようになったという。IVAは世界でも数か所でのみ行われている方法です。

小野:IVAって都会だったら、そのクリニックだけで完結しちゃうと思うんですが、うちだと手術とか体外受精とか、地域の他の不妊クリニックと協力してコラボレートできるのが特色かもしれないですね。

医者って、もっとクリエイティブ。

ーなぜ、富山大で、できるようになったんでしょうか?

吉野:始まりは、河村先生という卵巣の研究では第一人者の先生と僕が、大きめの学会でシンポジウムを一緒にやらせてもらったところからなんですけど。川村先生は非常に行動力のある先生で、どんどん研究を臨床につなげていっている方。実は、河村先生のボスは、私たちのボス斎藤先生と仲がいいんですよ。これらの土壌があったので、河村先生のご指導の下、富山大でも始めることになったのです。

小野:技術としては、開発されたばかりで、可能性としては、すごく高いわけではないんですよね。

小林:卵巣の中に卵子がある方が対象になるわけですが、みんながみんな、うまくいくわけじゃありません。処置の成功率は、10%程度。そこから妊娠できる道のりがまた、長いですよね。

小野:基本的には他の方法を試しても厳しかった、という方が対象になりますよね。10%を低いと見るか、高いと見るか。

吉野:研究をずっとやっているから、こういう新しいことが生まれるんですよね。IVAは臨床と研究が交互になっている一つの例としても、分かりやすいと思います。新しいことに取り組んでいると、新しいアイデアが生まれていく。医者って、やっぱりクリエイティブさがないとダメだと思うんですよ。自分で考えるような医者になってほしいなと思いますね。

小野:そういう意味でも、IVAは象徴的ですよね。吉野先生が富山大に来られてからずっと準備されてきて、ようやく治療をスタートしたところで。

吉野:まあ、彼ら(小林さん・伊東さん)が興味を持ってくれていたので。彼らはIVAに光を見出してくれて、「やりたい!」といってくれて。ローズレディースクリニックに留学に行って、技術を身につけてきてくれたんですね。これからはプラスアルファ、人と違うことをやらないと埋もれてしまう。同じ医者をつくっても、意味がないんですよ。特徴がなければ、医療は意味がない。2028年には、医者は過剰になってしまうので。普通の産婦人科医だったら食いっぱぐれちゃう。

小野:よくファーストフードの話されますよね。

吉野:そうそう。ガイドラインにのっとって、この時はこの検査して、この手術して、患者さんにこう喋りましょうって。そういう医療は、ファーストフードのマニュアルと何も変わらないんですよ。医者はどこに独自性があるか、考えないといけない。本で読んだ知識を伝えるのと、自分で苦労して得た結論を伝えるのと、重みは全然違う。ぜひ重みのある医者になって欲しいですね。同じフライドチキンでもね、従業員がつくるのと、カーネルサンダースが作るのとでは違うと思うんです。

打てば響く医局。

ー外来ではどんな患者さんを診ていますか?

伊東:POIっていう早発閉経の方と、DORっていう卵巣機能低下の方とがいるんですけど。早発閉経の方は、治療すらできないまま悩まれているので。

小野:使命感みたいなものも、すごくあるんじゃないの?

伊東:そこまで立派なのはないですけど(笑)。もちろん、患者さんの力になりたいという一心で。

小林:辛いのは患者さんですよね。費用も結構かかりますし。

吉野:僕たち大学病院なので、ほとんど材料費だけでやっているような状況ですね。そのぶん、いつも言っているけれど、研究は臨床のために、臨床は研究のために。常に何かしら活かせないか考え続ける。

小林:僕は主に、IVAの培養室で働いていて、今6年目なんですけど。吉野先生が富山大に来てくださって、生殖医療をやろうと言った時に、「やりたい!」と手をあげたら、すぐに最先端の医療に携わらせてもらえたので、これはすごくありがたいことだなと。もっと大きい大学病院だったら、自分じゃさわれなかったなと思うんです。

小野:富山大のサイズ感がいいんじゃない?

小林:そうかもしれません。チャンスが多いですよね。

小野:生殖チームのもう一つの売りは、教育もあると思うんです。ここに来ると、臨床と教育の繋がりがわかるんですよ。大きい学会で発表する機会もあるし。学生もかなりエンカレッジされると思いますよ。我々も、それをみてもっと頑張ろうと刺激をもらいますし。

吉野:最近も学会で、学生さんに発表してもらったんですけど。準備には労力はかかったけれど、もう万雷の拍手でね。内容もプレゼンも絶賛で。富山というのは、打てば響く学生さんが多い。打てば響く医局だと思いますよ、うちは。

小野:吉野先生が来たのは、やっぱり大きかったですよ。学生教育もすごく熱心で。あと、初年度に学生が選ぶ、ベストティーチャー賞を取ってましたよね?

吉野:そんなことも、あったかも(笑)。みんなは教育は、興味ある?

伊東:私はちょっと、今はその余裕はないんですけど。ゆくゆくは、と思っています。

小林:ゆくゆくはね。

小野:学生に教えることって、自分にとっても勉強になるような気がしますね。常に自分自身が、学び続けなければいけないし。みんな、自分の関心のある分野だったら熱が入るんじゃない?

吉野:向いている人、向いてない人いますけど。ここにいるメンバはー、みんな向いてるんじゃないですかね。そうじゃなかったら、大学病院にいないでしょ。でも本当に、教育って面白いんですよね。僕は最初は内科志望だったんですけど、産婦人科にシフトしたのは、面白い先生がいたから。授業がきっかけなんですよ。だから、授業は面白くないといけないなと思います。

「そちらは、どんな世界ですか?」

ーちなみに、今はどんな研究を?

伊東:私は、IVAに似ているんですが、ちょと違う研究をしています。IVAは現状では2度手術が必要で患者さんの負担が大きいんですけど、その負担を軽くするために、初期卵胞を大きくする物質は他にないか、という研究をしています。

小林:僕は多嚢胞卵巣症候群っていう、生活習慣病の方がなりやすい病気のことで。排卵をなかなかしない病気なんですけど、その原因を調べています。

吉野:どうやって研究しているかも教えてあげたら?

小林:えーとですね。牛の卵巣を使ってるんです。屠殺場から、さばいた後の卵巣をいただいて、そのまま実験に使っています。牛の卵巣は人より大きいんですが、構造としては似てるんですよね。福井大学の先生が、同じようにされているのを知って、屠殺場に電話してみたら、すんなりOKが出たんで。

吉野:彼はね、自分で考えて、本当にいろいろやってるんですよ。研究って、自分で考えないと面白くないからね。僕にできることは、エキスパートを紹介すること。東大の医局にいた時のつながりを活かしながら。まあ、みんなのつなぎ役ですね。自分がみんなのことを肩車をすることで、その人の視野を高く広げさせてあげて、 自分は 下の方から 「視点が高くなったら、どんな世界が見える?」なんて喋りかけるようなイメージです。僕ができるのは、それくらいなんだよね。あとは、みんな次第。カーネルサンダースになるか、従業員になるか。

小野:やっぱり、ケンタッキーを例に出すんですね。他のファーストフードもあるのに(笑)。