仕事

06:腫瘍チーム腫瘍、ときどき妊娠。
臨床、ときどき研究。

座談会メンバー

  • 中島彰俊

    PROFILE
  • 島友子

    PROFILE

ノーベル賞の時期は、ドキドキ!?

ー富山大学ならではのエピソード、ありますか?

中島:島先生は、生殖免疫のことを研究していて、僕は腫瘍免疫のことを研究しているんですが。島先生は、大学院時代、坂口先生っていう制御性T細胞を発見して、ガードナー賞っていうノーベル賞受賞者がとるような賞をとられた先生のところで研究をしていましたし。僕は大阪大学の吉森先生という、オートファジーでノーベル賞を取られた大隅先生の一番弟子のような方とコラボレーションしていて。ちょっと虎の威を借る話ですけど(笑)。

島:研究に関していうと、日本で一流の先生たちとコラボレーションしてますよね。

中島:島先生は直接行って、坂口先生のもとで研究していて、僕の場合は、論文に名前を載せていただいたり、アドバイスをもらったり、そういう形でのコラボレーションが多いです。

島:他でも研究してみたいと口には出していたんですが、何も情報がないので、斎藤先生に言われるがまま、坂口先生のもとに行きまして。ここで研究するより、トップランナーのところで勉強してくる方が意味があるんだって、背中を押してくれたんですけれど。実はその時はまだ、坂口先生が、そこまで有名な先生だとは存じ上げておらず(笑)。

中島:今も一人、大阪の方に行ってるよね。こうして富山大から他の大学にいく先生がいることで、繋がりも増えるので。

島:みんながみんな、行けるわけじゃないけれど、希望がある人にはチャンスを与えてくれますね。

島:自分のところでやれ!と言う先生もいらっしゃるでしょうし、海外に行け!という先生もいらっしゃるでしょうし。

中島:つながりがないと、なかなかそういうこともできないけれど、斎藤先生は顔が広いからね。

島:懐も深いしね。

中島:ちなみに、坂口先生はもうすぐノーベル賞を取るんじゃないかと言われてますけど。

島:iPSの山中先生、オートファジーの大隅先生と、医学生理学賞は日本人が続いているところなので、取れるかどうか。

中島:ノーベル賞の時期は、そわそわしてますよね。

島:余談ですけど、北日本新聞がノーベル賞の時期になると、斎藤先生に、坂口先生がノーベル賞をとったらインタビューさせてくださいって申し込みが来るくらい。

中島:インタビューをとった後に、一番弟子とか二番弟子が取材を受けたりするからね。

島:坂口先生がおっしゃってましたけど、みんなにバカにされても腐らずに、ずっとその研究をやっていたら途中で、「本当に、制御性T細胞ってあるんだ」という話になって、急に盛り返してきたって(笑)。

中島:そんな細胞いないって、昔は言われてましたからね。

ノーベル賞の時期は、ドキドキ!?

ー研究のこと、もう少しお聞きしてもいいですか?

中島:臨床は腫瘍だけど、研究は妊娠のことをやってるんですよね。

島:そうそう。他の科だったらないでしょうけれど、産婦人科ならではかもしれないですね。

中島:僕は胎盤の研究をしているんですけれど、斎藤先生がもともとされていた研究でして。ガンって他の臓器に浸潤していくんですけど、胎盤ってガンが浸潤しても、ある一定のところで止まるんです。胎盤で浸潤が止まるメカニズムを研究することで、他の臓器へのガンの浸潤を止めることができるんじゃないかと。学生の頃にそんな話を聞いたりして、胎盤の研究をしたいと思ったのがきっかけですね。ガンの直接の研究はしていないんですが、今は胎盤の研究を進めているところです。

島:私は生殖免疫のくくりになるんですけど、制御性T細胞っていう免疫細胞と妊娠との関連について研究しています。妊娠というのは、母親とは違う異物が体にある状態なんですが、なぜか母体に拒絶されない。ガンも体にとっては異物なのに、なぜか拒絶されない。妊娠と腫瘍は、同じなんじゃないというところで、生殖免疫の研究をはじめたんですが、ゆくゆくは腫瘍に活かせたらなあと。そのスイッチを、いま考えているところです。これがなかなか難しいんですけど。

中島:同じような立場で二人ともやってるんですよね。臨床ではガンの患者さんを見るんですけれど、研究では妊娠のことをしていたりするので。まったく同じことはしていないんだけれど、広い意味で捉えれば、分野は類似している。そういう意味で、うまくスイッチを切り替えて、二人で同じようにガンの研究ができたら面白いねって話は、よくしますね。

島:コミュニケーションはよくとってますね。学年も近いし、腫瘍チームは人数が少ないし。研究のことや臨床のことは、よく相談しますし、手術も一緒に入ってやりますし。

効くロジックがわかる。だから面白い。

ー臨床と研究、重なるところはありますか?

中島:研究では、生物学的な変化を見てるんですよ。生物学的な特徴を胎盤とガンで比較して、両方の違いや共通点を見つけてみたり。例えばガンも、ガンという特徴を持った生物と捉えるんです。僕はオートファジーの研究をしているんですけど、ガンではオートファジーもありますし。臨床ではガンを見ているけれど、この人はオートファジーを抑制したらどうなるのかなとか、研究を臨床に活かせないか、いつも考えていますね。実際に臨床試験で卵巣癌にオートファジーを抑制するような薬剤が使われた試験も海外にあるので、今はその動向を注目しています。臨床と研究は、一部では明らかに重なるところはありますね。

島:私も全く同感です。臨床試験だけやってると、こういうガンのタイプにはこういう薬がいいとか、この薬が出たからサンプル使ってみようとか、表面上の知識だけで、あまりアカデミックじゃない。研究をやっていると、なぜその薬が効くのか。バックに隠れている理論的なところまで考えられる。「あ、だから効くんだ」と分かったりする。臨床だけの臨床試験だったら、正直面白くないと思うんです。

中島:論理がわからないんですよね、研究をしていないと。まさしく、あれじゃない?今で言えば免疫阻害剤とか。あれ、臨床だけやっていても、なかなか分かりにくいでしょ。

島:チェックポイント阻害剤というものを、卵巣癌にも臨床試験で使うようになったんですが、免疫系をコントロールするもので、効く人効かない人いるんです。難治性の卵巣癌に使って、今効果を見ているところ。去年始まったばかりの試験なんですけど。免疫ってこのところ、すごく注目されているじゃないですか。患者さんにしても、免疫チェックポイント阻害剤って、試験の対象じゃなかったりするけれど、使って欲しいんですよね。今はまだ治療として成績を見ている段階で、保険適用にする前なんですけど。生殖免疫の研究をしていたから、中身というか、その本質というか、どこにどんな風に効いているか、イメージも捉えやすいし。なぜ効くかがわかるから、患者さんにも説明しやすいし。試験はこの範疇ですけど、こうやったらもっと効くんじゃないかっていうアイデアも出たりします。

中島:今現在、腫瘍チームでは腫瘍を題材にした研究はしていないんですが、島先生がやっているような、腫瘍の免疫については、新しい薬が出てきているんですよね。その薬の効き方を見るために、腫瘍の中にいる免疫細胞というものを調べ始めたところ。理論的にはこの人には効かないはずなのに、効いたりすることもあるので。腫瘍免疫の特徴を明らかにするために、富山大の免疫学の先生とコラボレーションも進んでいます。

ー研究を続けることで、何か変化はありましたか?

中島:新しいものが、常に出続けるんですね、研究を続けていくと。臨床もそうなんですけど。医学的知識というのは、臨床研究なり、基礎研究が進むにつれて、絶え間なく進化していくんです。そういう刺激を、常に得ることができているというのは大きいですね。治療に関しても、ちょっと立ち止まっていると、1年2年でどんどん話が変わってきたりするので。

島:ずっとやっていると、「それ面白いね」とかって評価してくれる人が広がっていくんですよね。「もっとこういうのやったら面白いんじゃない?」と提案してもらったりとか。外部の方との出会いがある学会も、研究の励みになりますね。学生さんも面白いと思って、食いついてくる子もいたりして。

中島:学会の機会は、相当あるよね。臨床の学会も入れたら、結構な数。秋頃が一番多くて、その時時期は月に2~3の学会に行くこともあるけれど、平均すると月1くらいかな。

島:そういうのは、大学病院ならではだよね。一回、学会に行くと情報収集ができるので、行かないままでいると、どんどん置いてかれちゃうというか。新しいことを知らないまま終わってしまう。

中島:自分で勉強するといっても限界があるじゃないですか。学会に行くと、トピックスとなるようなことが話し合われていたりするから。自分が知らなくても、その分野の流れがわかったりしていいですよね。

「俺知らない」という人はゼロ。

ー他の大学にはない、富山大学病院のいいところって何ですか?

中島:他のところのことはあまりわからないので比較は難しいですが。臨床と研究を基本的には、あまり離れて考えていないところはありますね。臨床から研究にフィードバックさせるとか、臨床の疑問を研究に繋げるとか。研究のための研究というよりも、将来的に臨床につながることを目指している。医療に携わる人間はみんなそうだけれど、ここのメンバーは、より具体的に考えていると思うんです。

島:うちならでは・・そうですね。臨床も研究も、少ない人数でやっているので、中島先生が見ている患者さんは私も知っているし、私の見ている患者さんは中島先生も知っているし。「俺知らない」とかは、一切ない。チームみんなで患者さんを見ていて、より細かい医療の提供をしているような。そういうところがあると思います。他と比べられないけれど。

中島:隣の塀があると、わからないですよね。

島:類推すると、うちは、よく患者さんを見ているんじゃないかと思いますけど。

中島:そうだね。あとは、これも類推だけど、化学療法をずっと続けているのは他にはないだろうと。施設施設によって5年生存率は明らかになっていないんですけれど、一般的なところでみると、卵巣癌の治療の効果は高いんじゃないかと思います。何が違うかというと、再発率の高い方には抗がん剤を継続的にやっているところだと思うんです。世界的には、あまりエビデンスのある話ではなくて、自施設だけの話なんですけれど。

島:もう一つ、付け加えるとしたら、私自身の話になるんですが、大学院生の時だけじゃなくて、臨床でも外部に行かせてもらっているんです。埼玉国際医療センターの婦人科腫瘍科というところに、7ヶ月間お世話になったんです。腫瘍専門のところにずっと行きたくて、だいぶ前に斎藤先生にお願いしていたのを、ずっと覚えてくださっていて。お話があった時に、行かせてもらえたんですよ。普通、臨床のトレーニングって若手が、専門医をとってサブスペシャリティをとる前に行くんですけれど、私の場合ある程度学年がたってから行ったので、上っ面じゃなくて本質的なところも学べたし、すごく勉強になったんですよね。いろんなところに繋がりがあって。

中島:そういう取り組みも、うち独自かもしれないね。

島:斎藤先生が「行ってきていいよ」と言ってくれても、一緒に働くみんなからも「いいよ」と言ってもらえないと、なかなかそういうチャンスは得られない。

中島:島先生のような例はそんなに多くはないですが、研究だけじゃくて、臨床も外部から学ぶことができるのは、うちのいいところだと思います。

島:そのぶん、しっかり還元させていただきますので!