環境

05:医局の機動力この医局は、
“The doctor”の集団です。

座談会メンバー

  • 吉野修

    PROFILE

小さいところで、いがみ合ったってしょうがない。

ー富山大に来てみて、どうでした?

吉野(以下省略):来て驚いたのは、セクショナリズムがまるでないところ。セクショナリズムはおろか、垣根を全く感じない。「ここの研究テーマ面白いな」と思ったら、他の診療科にも気軽に声をかけられるし。私の古巣では、こうはいかなかった。ここまでセクショナリズムがない組織も、珍しいと思います。

ー東大から、富山大に来られたきっかけは?

東大の先生に、昔言われたんですよ。「もう煮詰まってきた頃でしょう?斎藤先生のもとで研究をやったら、もっと芽が出るんじゃない?」って。実際に、富山に来てから、研究のランクが一つ上に上がりました。斎藤先生は、センスがあるんですよ。つまらないものはつまらない、面白いものは面白いって、はっきりされている。「論文を書くために実験してるんじゃない。知りたいことがあるから実験をして、結果的に論文を書くんだ」って、よくお話されていますけど。医局のすごく良いご意見番ですね。いい先生を紹介してくれますし。

ー医局の機動力については、どう思いますか?

程よいサイズ感だからこそ、機動力は素晴らしい。コラボレーションがしやすいんですよ。他の学部、たとえば薬学部の先生たちとのコラボレーションも、簡単にできてしまう。所属や立場が違っていても、お互いにすぐにwin-winの関係になれるんですよね。「小さいところでいがみ合ったってしょうがない。みんなで助け合おうよ」という考え方が、医局全体に根付いているのだと思います。窮屈さを感じたことは、富山大に来てからは一度もないですね。

「くっつけやすさ」から生まれた、ここだけの検査法。

ー富山ならではの魅力、どのようなところに感じますか?

新しい発想が生まれやすい土壌が、富山にはあると思います。変な権威主義も、無駄な垣根もないから。AとBの要素が仮にあった時に、くっつけやすい。新しい発想は、新しい組み合わせから生まれるものだと思うんです。この「くっつけやすさ」というのが、新しい発想には非常に重要。医師はクリエイティビティを持たなければいけませんから。富山大で長年続けてきた羊水検査から世界で唯一の検査法が生まれたのも、「くっつけやすさ」の賜物ですよね。

ー「くっつけやすさ」が、魅力に通じるんですね。

大学内だけではなくて、他大学の先生とも、くっつけやすいんですよ。斎藤先生が顔が広いから。富山は研究のメッカだと言ってくれる他大の先生もいるほど。国内の他の産婦人科から、一目も、二目も置かれる医局だと思います。研究も臨床も、熱心な先生が多いから、そういう意味で僕たちの情熱がちょっと暑苦しすぎるのが、玉にキズかもしれません。学生さんにちょっと敬遠されてしまうのかも(笑)。

代わりがきかないドクターでありたい。

ーこれからのドクターは、どうあるべきだと思いますか?

大きな医局って、4ヶ月に一回、大きく人が入れ替わるんです。自分じゃなきゃできない仕事というところにモチベーションを感じるのに、組織の仕組み上、簡単に人が入れ替わってしまう。その時からですね、代わりがきかないドクターでありたい、学生にもそういうドクターを目指して欲しいと、強く思うようになったのは。

ー代わりがきかないドクター、具体的には?

この話は、しょっちゅうスタッフや学生にもしているんですけど、ガイドラインの通りに検査をして、手術をして、患者さんに説明をしていたら、マニュアル通りのファストフード店と何も変わらないわけです。クリエイティビティのかけらもない。そうではなくて、他にはない独自性を持った医師に、僕たちはならないといけないと思うのです。

ー富山大の医師は、吉野先生の目にはどう写っていますか?

富山大の先生達は、医師として面白いんじゃないかな。“one of them”ではなくて、“the one”といいますか。“a doctor”ではなくて、“the doctor”の集団だと思いますね。あとは、やっぱり雪国のお国柄というか、富山の人は辛抱強い、粘り強い人が多い気がします。10000回やってダメなら、10001回やってみる、という先生もいますから。これはお世辞でもなんでもなくて、みんな個性が出ていると思います。