13:雰囲気よく飲む。よく笑う。よく働く。

座談会メンバー

    • 鮫島梓

      PROFILE
    • 森田恵子

      PROFILE

産婦人科 冬の時代?

ー医局の雰囲気を教えてください

鮫島:今の雰囲気ができたのは、先輩たちの努力によるところが大きいです。昔、私が学生だった頃は結構ギスギスしていて、「冬の時代」って呼んでいるんですけど(笑)。人が少ないからみんな疲れてて、疲れてるからお互いにギスギスして、ギスギスしてるから新しい人も入らない。その悪循環から一向に抜けられず、私が入るまで6年間入局がなかったんですよ。だから6年前の先輩たちはかなり辛かったと思いますよ。ある程度力がついて専門医とかになっているのにずっと下っ端の仕事をしなきゃならないし、上の先生達も点滴とったりとか他の科だったら下に任せられるような仕事もやらなくてはいけなかったりで。そこから医局の雰囲気を変えていかなきゃならないって動きになったんです。

森田:6年間・・・。先輩達はどんな努力をしたんでしたっけ?

鮫島:それまで個人個人で動いていたところが、「お互い助け合う」って空気に変わったと思います。制度的な話だと、産休明けの人がそのまま離れてしまうと辛いので、日直だけでもしてもらってキャリアも確保される仕組みをつくったりとか。あとは学生とか研修医をかまいまくる。なにかと仕事をお願いしてコミュニケーションを積極的にとるようにして、足りないところは飲みに連れて行く(笑)。やっぱり飲み会みたいな砕けた場だと、授業や実習だとわからない雰囲気が分かったりして良いですよね。でも本当に気遣いあってカバーしあうっていう感じがありました。

森田:なるほど。

鮫島:本当、私もやたらかまわれましたね。今は私も一生懸命学生の事をかまっていますよ。時々罵声も浴びせていますが(笑)。でもそれが好きで来る人もいるんです。

森田:今はすごくアットホームな雰囲気ですよね。ちょっと仲良すぎるかもって思うくらい(笑)。お互いあだ名で呼び合って。夜中みんなで仕事してても部活の延長みたいな気持ちになっちゃいますよ。働いていて楽しいです。

鮫島:富山大学出身の人が大半だけれど、寄り道系が多いんですよね。留年する人もいれば、他の大学出てから医学部に入り直したって人も結構いるし、学生時代に子供産んでって人も。もちろん現役でそのままって人もいます。いろんな人がいるから風通しも良いんです。キャラクターも立ってるし。

森田:鮫島先生を筆頭に(笑)。

鮫島:いやいや、私は一番穏やかな・・。

ー齋藤先生はどんな先生ですか?

森田:齋藤先生は、昔はもっと怖かったですよね。

鮫島:いくつか禁句みたいなのがあるんです。昔「産婦人科に男は向いていないと思う」って言った学生がいて、そしたらもう2時間くらいお説教。「医師たるもの」って。そういう意味では少し丸くなったかな。齋藤先生、もう院長ですし。でも自分たちの教授が院長って心強いですよね。

森田:うちは女性ばかりの産婦人科の割にあんまり男女の差がないですよね。女子っぽい男子がいたりとか。

鮫島:逆に男性の中にいる女性はすごく自己主張しちゃって、うまく行かなかったりすることもありますからね。とにかく「女性だから男性だから」っていうのは全然ないんです。

森田:そういえば齋藤先生が院長になってから「お祝い膳」が始まりましたね。食堂と連動して、フルコースが出るようになったんですよ。産後のお母さんに「お疲れ様でした」と。

鮫島:たしかに、産婦人科でやりたいって思うことがやりやすくなったかも。病院全体を巻き込んじゃって。

加速するノミニケーション。

ー森田先生は戻ってきたパターンですよね?

森田:そうですね。出戻りです。帰らないって宣言したのに(笑)。

鮫島:まだ信用してないですけどね、ふわふわしてるし(笑)。

森田:富山大学にそのまま入局してしまうと、何年目にどこでなにをしているかだいたい想像ついちゃうんですよ。それが引かれたレールを歩くみたいで面白くないと思って、東京に出ました。だけどそこで気づいたのが「フリーで働いている人たちが必ずしも面白い仕事をしているわけではないな」って。とても自由な人が多くていろんな生き方をみせてもらえてよかったですが。都内も良いポストは医局人事で埋まってますし、医局のようにある程度のルールがあって仲間でカバーし合おうって気持ちがあるのも面白い。もちろんお互い、こだわりがあれば、主張もあって、ぶつかる時もあるんですけど「どっちがいいかな」って思った時に、戻ってみるのもありかなって。帰ってきたら絶対楽しい職場だとわかっていたので。そういうまどろっこしさも含めて(笑)。

鮫島:東京で泣いてるって噂があったもん。まあ、泣いてるならしょうがないなあって思って。

森田:泣いてないですよ(笑)。周りには普通に入った同期もいるんですけれど、私の場合は普通に入っていたらすぐに辞めていたと思います。逆に。

ー後輩たちとはどのように関わっているのですか?

鮫島:ここ2人が絡むと後輩をやたら飲みに誘う傾向があって、それがパワハラになってないのかってのが最近の悩みなんですよ(笑)。一応「断りにくいかもしれないけど断ってね」とは言ってるんですけど。この前の月曜日に行ったし、今週の金曜日は忘年会もある。

森田:でも忘年会も当直の人は来れないんです。少なくとも1人はお留守番という。

鮫島:一応、3人体制で2人が当直あと1人が予備班ってことになってます。忘年会の日は私が予備班だから飲めないんです・・。残念。

森田:予備班も月4・5回は出動しますからね。

鮫島:でも当直は昔よりはだいぶ減ったんですよ。私が1・2年くらいの時は今の倍くらいあったことを考えると、とても楽になりました。研修医2年目の時、私が「産婦人科に決めた」って友達に言ったら「産婦人科だったらしょうがない、もう誘わないよ」って返されたんです。それくらい気の毒に思われていたのが、いつの間にか「産婦人科はいいよね」「安定してるよね」って言われるようになってて驚いています。私が入ったからかな(笑)。

(一同爆笑)

森田:いやでも、ほんとそうですよ。鮫島先生が一番盛り上げてくれていますよね。一緒にいろんな負担も背負っていますけれど。あ、忘年会の幹事は今年から私が引き継ぎますよ。そういえば、予約の時に「今年は鮫島さんじゃないんですか?」って言われて(笑)。お店の方が残念がってましたよ。

鮫島:4・5年ずっとやってたからな~。忘年会とか学生連れて行く係みたいな感じで。今はもう全部森田先生に受け渡したから。

森田:いや、そこまでは言われてないですけど(笑)。みんなで長野県の産婦人科サマースクールに行ったりもしました。帰りに上高地の手前でトマト食べたの覚えてますか?

鮫島:あ、食べた!楽しかったなあ。医局旅行とか学会とか忘年会とかもなんでも、研修医のみんなも連れていくようにしていますよ。

森田:楽しいイベントに巻き込んだら、入局してくれるんじゃないかと考えているんです。あの子達は冬の時代を知らないので「あ、楽しいところなんだ!」って思ってくれるかな?って。

鮫島:古田くんなんかは学会の飲み会で入局宣言してましたもんね。深夜2時くらいに「お前はどうするんだ!」って聞いたら「あ、はいります」って。「えー!」ってもうみんなびっくり。結構前から決めていたみたいなんですけれど、シャイだったのか、全然そういう素ぶりがなくて。北陸ならではのシャイさというか(笑)。

森田:この前は医局旅行で山梨に行きましたよ。ここ最近は若い人しか参加していなかったんだけど、今回は米田先生とか塩﨑先生とか年上の先生も参加してくれました。21人中10人参加なので結構よい出席率かもしれないです。幹事も私がやって。ずっと飲んでただけでしたけど(笑)。

擬死7回、絶対死なせない。

ー印象に残っているエピソードはありますか?

鮫島:私が入りたてほやほやの時の話なんですけれど。上の先生が不在の時に妊婦さんが大量出血をおこして、命にかかわる状態になったことがあったんです。そこにいた人たち当直とか待機とか関係なく全員集まって、みんなでなんとかしなきゃいけないみたいな感じで。とにかくみんな集まったことがあったんです。中島先生が「なんとしても助けてやるんだ」って言って、他の先生たちも「俺たちもできる限りのことをやんないと」「絶対死なせない」って口々に。あ、ちょっと感動・・。みたいな。その時は本当に「この医局入ってよかったな」って思いましたね。新入りの私たちはあまりなにもできなくて、中島先生たちが手術している横で両手両足から一生懸命点滴とったりとかしてたんです。うちの医局だけじゃなくて麻酔科の人とかたまたま居合わせた先生もすぐ対応してくれて、看護師さん達も一緒に頑張ってくれたりとか。まあ医局に限らず、「この病院っていい病院なんだな」と思えた最初の出来事でした。

森田:それで助かったんですか?

鮫島:そう。お腹開けたら血がばあって溢れ出てくるのを初めてみました。どこから出るわけでもなく、身体中のあらゆるところが出血しやすい状態になっていて、全然止められないんです。手術室の床も真っ赤。輸血しても入れた血がそのまま出ていくって感じ。擬死7回。「ピー」が7回ですよ。マッサージして「ドンッ」ってやって。麻酔科の先生にどこでもいいから血をとってくれと言われて、だけど普通に腕から採血しても全然とれなくて、「ならお腹の血をそのままくれ!」って。それを調べたら電解質の異常に気がついたんです。手術室に「カルチコール!」って声が響きました。あのとっさの判断で助かったんです。あれが大きかった。

森田:やっぱりいい人材が揃ってる。

鮫島:ほんと壮絶。もう産婦人科やばいって思いましたね。それ以外にも割と何回かそういうのがありました。でもその度に団結力で乗り切ってきたんです。

森田:すごい話ですね・・。

鮫島:「良いところに入った!」ってその時すごく思いましたし、自分が上になったらそういう風にやらなきゃいけないなとも思いました。普段から良い雰囲気をつくることが、いざって時の強い団結に繋がる。この実感はこれからも大切にしていきたいです。