10:先輩・後輩合言葉は、“ギブアンドギブ”

座談会メンバー

  • 吉野修

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  • 小野洋輔

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臨床は研究のために、研究は臨床のために。

ー出会いはいつですか?

吉野:小野先生がテニスに誘ってくれたのが最初って感じかな。彼はテニスがとても強くて、富山県でも上位に入る実力者なんですよ。私じゃとても敵いませんでした。

小野:吉野先生もテニスをされると聞いたので、お誘いしたんです。もう5年前のことですね。ちょうど大学院に行くことになったくらいの時期で。吉野先生には、大学院に入る意義や将来的にどう繋がっていくかなどを熱く教えていただき、それに引っ張られるようにして大学院生活がはじまりました。それからは、日中の病院の勤務が終わったら医局に来て研究。もう部活の延長みたいな感じですよ。吉野先生、朝6時まで付き合ってくれるんです。

吉野:長い人生を考えた時に、将来の方向性がいわゆる“医者”だけだと振れ幅の狭い人間になってしまう。けれども医者はキャリアの積み方次第で、研究者でもあり、教育者でもあり、って選択肢が増えていくんです。小野先生に大学院を勧めたのはそういったところですね。将来の可能性を広げること。医者って本当はすごく幅のある職業だと思うんです。

小野:そうですね。吉野先生にこの世界に連れてきてもらって特に変わったことは、「臨床」と「研究」が繋がっている実感がもてた事です。

吉野:それはとても大事。臨床試験での疑問を研究し、研究のことを臨床にフィードバックする。「臨床は研究のために 研究は臨床のために」この関係をいかに有機的なものにできるかが重要で、そこから応用が利くようになってくるんです。本を読むだけじゃ自分のものとして落とし込めないし、医者のポテンシャルを活かしきれない。

小野:視野がかなり広がったと思います。僕の場合は、頑張っている誰かをサポートできる人になりたいと思うようになりましたね。教えてもらったことを誰かに伝えないと意味がないっていうか。

ギブアンドテイクではなく“ギブアンドギブ”。

ーおふたりの関係は?

小野:「大切なのはギブアンドテイクじゃなくて“ギブアンドギブ”」これは吉野先生が一番最初におっしゃった言葉です。その時はあんまり考えなかったんですけれど、なぜかずっと耳に残っていて、だんだんわかってきた気がするんです。なんというか、ポジティブなキャッチボール?みたいな。

吉野:人間関係で一番大事なのは「お互いをリスペクトする」ことだと思うんですよ。医局でもまったく同じです。先輩後輩だから上下関係の話になるけれど、あるのは年齢の差だけで人間に上も下もない。利害関係というか、見返りを求めてやるから「裏切り」だの「搾取」だのって感情が生まれてしまうんです。相手が一生懸命やってくれていることが伝わると、自分もそれ以上のことを返してあげたいって思うようになる。ギブアンドギブ。お互いの心が響き合ってよい雰囲気がうまれるんです。

小野:「ギブすることを楽しむ」って感じですよね。すごい深い言葉。この言葉の意味は、何かに一生懸命になっているときじゃないと実感できないと思う。僕は、この4年間のことを形にして発表することが、吉野先生に対する最高のギブになるかなと思っています。

吉野:朝6時まで一緒にやってますからね。今日もこれからがんばります(笑)。彼の研究は、最初の方はみんなから冷ややかな目で見られていたと言うか、「本当に大丈夫なのか?」って感じだったんですよ。だけど、粘り強く粘り強く研究を続けて、今年は学会賞を4つも獲ったんです。これは本当に凄いことで、これだけコンスタントに獲れるのは全体の1%くらいじゃない?

小野:でも吉野先生が最近獲った賞の方のがよっぽどすごい。

吉野:いやいや全然。

小野:吉野先生が温かく見守ってくれている感じが良かったかもしれないですね。僕は立ち上がりがイマイチな分、粘り強く続けるタイプだから。テニスと一緒で。賞はなんというか、こぼれ落ちてきたって感じ。

吉野:賞を獲りにいったって感じではないよね。いいもの作ると結果がついてくる。僕らはいつもお互いのプレゼンを一緒に作っているんですよ。この前の場合だったら、僕が「こういう風にやってみたら?」って言って、彼がそれを頑張ってやって「結果出ました」となって、「そしたら次はこうしようか」と。2人で実験のアイデアを作っていく。どっちがイニシアチブをとるとかではなく。だから、僕が嬉しいのは、“縁の下の力持ち”になれることなんですよ。イメージとしては小野先生を肩車して「そこから何が見える?」って感じかな~。

結果か。プロセスか。

ー医局内での雰囲気はどうですか?

小野:さっき「部活の延長みたいな」って言葉を使ったけれど、これは好きな人と嫌いな人がいますよね。逆にビジネスライクにやりたい人もいる。

吉野:たしかに。“医師生活に求めること”という質問に対して、今の若い人たちはなんの悪気もなく「休みを取る」と言いますからね。僕たちの頃はちょっとあり得なかった。

小野:価値観が違うんでしょうね、無駄な労力は使わないという。

吉野:まあ、僕らも「近頃の若いもんは」と言われてきたからね。スタイルが変わるのは良いと思うんだけど、それでアウトプットの質が下がってしまうのならそれは本末転倒かもね。

小野:普遍的な話ですが、ちゃんと手をかけたり、こん詰めたりしたほうが良いものが出来上がるんじゃないかな。

吉野:結果を大事にするか。プロセスを大事にするか。

小野:今の学生ってものすごく優秀ですよね。かなり早く勉強しているというか、質問してもほとんど返ってくるんですよ。正直僕はそういうタイプじゃなかったので、すごいなあと。なにか目標があったら、そこへの最短距離を見抜く力があるように見えます。

吉野:たしかに、優秀になってきてる。僕がアメリカに留学した時の事なんだけど「日本人はすぐに do my best と言う、別にそんなことどうでもいい、結果さえ出してくれればね」と言われたことがあるんです。それが結構ショックで、僕はなんとなく結果よりプロセスを大切にしてあげたいなと思っているんですが・・

小野:若い人は結果にこだわっているのかもしれないですね。結果出ればいいじゃんと。

吉野:出た時はいいけれど、出なかったときにプロセスを見守っていきたいなとは思います。それが上の役割だと思うんです。

小野:プロセスをみるってことは、いずれ結果を出すためにみるわけですからね。ダメだった場合はやっぱりプロセスをケアして、次に結果がでるようにする。

吉野:見守っていてあげたいですね。その人の生き様というか。

小野:うーん。僕は、頑張りたい後輩がいたら一緒に頑張ってあげるって感じかな。研究ってほとんどうまくいかないじゃないですか。でもその中でたまたま結果がでることがある。しぶとく頑張る成功体験ですかね。だけどそういうスタイルみたいなものを口で言ったりするのはあんまり得意じゃないので・・(笑)

“輝ける瞬間”をつくること。

ーこれからについて考えていることはありますか?

吉野:東大の大須賀先生という方がいて、僕の恩師なのですが、僕は大須賀先生に引っ張り上げてもらったという感覚はあります。でも大須賀先生はあんまり前面に出たりはしなくて、僕に活躍の場を与えてくれて、そこで活躍するのをすごく喜んでくれる。恩を着せようとしたりは全くしないんです。そういうところに逆に恩を感じてしまうというか。

小野:吉野先生と同じですね。

吉野:そういうことをしてあげたいな~と思っているんです。そうやって繋がっていきたい。

小野:でも、それがこれからも下に繋がっていくのかって事は考えないといけないと思います。相当な時間を費やさないとそういう関係が生まれなくて、例えば女性だったら結婚して子供がいたりするとなかなか夜遅くまではいられない。そういう意味でも、やっぱり僕は吉野先生ととても良い時間を過ごせたんですけど。

吉野:今の医療って、全部マニュアルなんですよ。A~Zまで全部やることが書いてあって、そうなると医者としての個性がなくなっていく。ファストフード店となにが違うんだ、っていう。つまらないでしょ。せっかくの可能性が台無しなんです。

小野:そうですね。

吉野:これからの学生には、将来人生を振り返った時に“輝ける瞬間”をつくって欲しいと思うんです。「1番輝いた瞬間が医学部に受かった時」なんて風になるのはつまらない。人間は下方修正対応機能がとても強いので、「こんな現実も悪くないかな」思っていると、せっかくのポテンシャルを潰してしまうことになる。富山大学の学生は、他大生と比べてもすごい可能性を持っていると思います。ダイヤの原石のような。ぜひ、可能性を伸ばしていく方向で研鑽を積んでもらいたいですね。

小野:僕は自分のやり方を見つけられたのが良かったです。楽しんでやっていけそうだなって思いますよ。