エコチル調査でわかったこと

妊娠中のチーズの摂取量と生まれた子どもの3歳時点の睡眠時間との関連:エコチル調査

 5年毎に総務省が実施している社会生活基本調査によると、平均睡眠時間は男女ともに前世紀から減少傾向にあり、特に10代の睡眠時間が短いことが明らかにされています。また、日本の子どもの睡眠時間は他の国に比べると短いと言われています。

 こうした中、発酵食品の積極的な摂取が腸内細菌そうに変化を与えること、腸内細菌そうの多様性は覚醒・睡眠リズムを良好にすることが知られています。また、我々は以前、妊娠中に味噌汁を多く摂取していた母親から生まれた子どもは、1歳時点において睡眠不足のリスクが低くなることを報告しています(「妊娠中の味噌汁の摂取量と子どもの睡眠時間は関連する」)。しかし、1歳以降の関係性については明らかにされていません。

 そこで、この研究では、エコチル調査に参加している妊婦さんとその子ども(64,200組)を対象として、妊娠判明から妊娠約7ヶ月目までに摂取した発酵食品の摂取量と、3歳時点における子どもの睡眠不足との関連を調べました。発酵食品の摂取状況は、食物摂取頻度調査票の味噌汁・ヨーグルト・チーズ・納豆の回答を用いました。また、お子さんの睡眠時間については、米国National Sleep Foundationが示した3歳児における1日の推奨睡眠時間(10~13時間)を基に、10時間未満を「睡眠不足」と設定して検討しました。

 その結果、チーズの摂取量が最も少ない群を基準(1.0)にして、チーズの摂取量と睡眠不足の子どもの発生率を比較した場合、妊娠中のチーズ摂取量がより多い群では、3歳時点の睡眠不足のお子さんの割合が少なくなるという関連が見られました(図1)。一方、味噌汁、ヨーグルト、納豆では、摂取量と睡眠不足の関連は見られませんでした。

図1.妊娠中のチーズ摂取量と生まれた子どもの3歳時点における睡眠不足の関連

 子どもの腸内細菌そうは、新生児期から乳児期、離乳期にかけて大きく変化し、3歳前後で安定化し、成人と同様の組成になると言われています。母親由来の腸内細菌そうが子どもに受け継がれる可能性については他の研究からも報告されており、今回明らかになった結果は、こうした機序と関係しているものと推察されます。

 本研究が示した結果は、これまでに報告がない新規性が高い情報です。しかし本研究では、観察研究であるために因果関係まで扱えていないこと、腸内細菌そうを直接測定できていないこと、チーズの種類(妊娠中の非加熱のナチュラルチーズ摂取はリステリア菌の感染リスクが高まるため推奨されていません)まで調査できていないこと、などの限界が挙げられます。今後はさらにこの結果を検証し得る介入研究を行うなど、妊娠中のチーズ摂取と生まれた子どもの睡眠不足の関係について確かめていく必要があります。

この研究成果は疫学・公衆衛生学系専門誌「BMC Public Health」に2022年8月6日に掲載されました。
Association between maternal fermented food consumption and child sleep duration at the age of 3 years: the Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2022年9月

ちょっと詳しく

チーズ

 チーズには、生きた乳酸菌と酵素を含む「ナチュラルチーズ」と、チーズ製造時の熱処理で乳酸菌を死滅させた「プロセスチーズ」があります。2017年度の国際酪農連盟日本国内委員会の調査によると、日本のチーズ総消費量は約32万t、そのうち国産ナチュラルチーズは約4.6万tであり、日本ではナチュラルチーズよりもプロセスチーズの消費量が多いのが現状です。日本の年間消費量は年々増加していると言われていますが、ヨーロッパの国々に比べると少ないと言われています。

睡眠不足の定義

 米国のNational Sleep Foundation は3歳から5歳時点の推奨睡眠時間を10~13時間としています。年代ごとに細かく推奨する睡眠時間を設定しています。
https://www.sleepfoundation.org/press-release/national-sleep-foundation-recommends-new-sleep-times