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小児期からの生活習慣病予防目次へ

なぜ、小児の生活習慣に注目するのでしょうか?

平成11年度の人口動態統計によると年間98万人の方が亡くなりますが、そのうち29万人が悪性新生物(がん)で、15万人が心疾患(心臓病)で、14万人が脳血管疾患(脳卒中)です。心疾患と脳血管疾患は、ともに血管の動脈硬化をもとにした血液循環に関連した疾患であるため循環器疾患と呼ばれていますので、癌と循環器疾患で約3分の2の方が亡くなっていることになります(図:日本人の3大死因)。 さて、これらの疾患は成人病と以前は呼ばれておりましたが、心疾患のうちの心筋梗塞や狭心症、脳血管障害や、一部の癌は生活習慣とのつながりが強いことから、数年前より生活習慣病と呼ばれるようになりました。心筋梗塞や狭心症、脳卒中は、ある日突然発作という形で発症するわけですが、それにいたるまでにかなりの間、危険因子といわれる高血圧や高脂血症、糖尿病とよばれる疾患にかかることで血管が硬く脆く細くなる動脈硬化が人より早くに起こり、最終的により重篤な病気になることが知られています。そして高血圧や高脂血症、糖尿病の背景には肥満があることが多く、肥満は遺伝的な影響もさることながら、その人の生活習慣に根ざしていることが多いことから、こうした病気を一括して生活習慣病と呼ばれるようになりました。 ですから、心筋梗塞や脳卒中は50歳以降ころから徐々にと発症する病気ですが、そうした病気を予防するためには、小児期からの予防が大事であることがわかります(図:生活習慣病増加の背景)。

日本人の肥満の人の割合はどれくらいでしょうか?

現在の日本人の肥満の割合はどれくらいでしょうか? 1997年の国民栄養調査によれば小児肥満で10.7%となっており、1970年代は3%であったため、この20年間で3倍に増加したことになります。そこで、厚生労働省が中心となって実施している「健康日本21」プロジェクトでは2010年までに7%までに低下させようという数値目標を挙げています(図:健康日本21)。ところで小児肥満の5から10%には高血圧、高脂血症、糖尿病などの肥満に伴う合併症があるとの調査結果があり、このまま肥満が増加すると小児期の生活習慣病の増加が懸念されます。

生活習慣と健康(とくに肥満)について

なぜ、こうした小児における生活習慣病が増えているのでしょうか?
それは、近年の子どもの生活習慣の急激な変化に関連しているとされます。たとえば食習慣では朝食の欠食、間食や夜食の摂取頻度の増加があげられます。また食事内容では、総カロリー摂取量に対する脂質の割合の増加があげられます。運動習慣では、学校以外で運動をする児童の割合が減少傾向にあり、運動不足の児童が増えています。またテレビやテレビゲームの時間が長くなり動かない生活パターンになってきています。また夜更かしして睡眠不足の傾向の児童も増えています。こうした生活習慣の変化が肥満をはじめとする生活習慣病の増加に関連しているとされます。

食習慣

食習慣については食事パターンと食事内容が近年大きく変わってきています。
食事パターンの変化
食事パターンの変化としては、夜型の生活パターンになり夜食や間食の摂取は増加しているのに対して、朝食については欠食傾向にある児童が増えています。そしてこの調査では、朝食の欠食傾向にある児童に肥満が多いという結果になっています。(図:朝食の欠食と肥満)朝食を食べないと午前中の集中力や意欲が低下するという精神面への影響が良く知られていますが、肥満という身体面の観点からも重要かもしれません。

食事内容の変化
食事内容の変化については、総カロリー摂取に対する脂質の増加が指摘されています。
昭和30年代では、総カロリー摂取に対する脂質の摂取は15%程度したが、平成年代に入って30%と約2倍になっています。脂質を多く摂取すると肥満になりやすいということが昔から言われています。子どもが好きなハンバーガー類は、脂質の割合は40%程度はありますので、こうした脂質が多い食事を食べる時は、野菜類をできるだけ摂取するなどして食事のバランスをとるよう心がけていただくと良いでしょう。

運動習慣

日本学校保健会の調査によると、学校以外で運動する子どもの割合は平成5年度で小学生で55%、中学生で40%、高校生で25%となっており、学年があがるにつれて低下する傾向があります。しかし、昭和50年代ではどの学年も10−15%程度運動する率が高くなっており、学校以外で運動する児童の数は近年では減少傾向にあります。肥満は、ごく簡単に言えば、エネルギーの摂取量と消費量のバランスがくずれて、摂取量が消費量よりも大きくなった場合に肥満になります。したがって、運動量が減れば肥満に傾きます。私たちの調査では運動を「大変良くする」と答えた児童に対して、「ほとんどしない」という児童に肥満が多い傾向にありました。(図:運動の活発さと肥満)肥満の予防には適度な運動が必要であるといえます。「適度の運動」の定義は難しいのですが、軽い運動(徒歩、家事など)なら1日30分程度、中等度の運動(自転車の運転など)なら1日20分程度、重い運動(ジョギング、テニスなど)なら10分程度というのがひとつの目安になると思います。

テレビの視聴時間・テレビゲームの時間


今から20年位前までは、午前0時以降のテレビ番組というのは稀でした。しかし今では午前0時前に終わるテレビ局はほとんどありません。それだけ日本人は生活習慣が深夜化しているといえます。多くの人の暇は、運動する代わりにテレビをみていると考えられ、消費のカロリーは低下するため肥満に傾きます。またアメリカの調査では、テレビの時間が長い児童ほど、テレビのコマーシャルでやっているお菓子を食べる傾向にあるなどという調査もあり、消費カロリーが減って、摂取カロリーが上がっていることが肥満に結びつくようです。私たちの調査でもテレビの視聴時間が長い人ほど肥満の人が多いという結果でした。したがって、テレビは1−2時間程度として長時間見ないようにすることが肥満の予防にとって重要であるといえるでしょう。

睡眠習慣


睡眠習慣の実態
現在、小児の生活はいっそう夜型に変化してきており、就寝時刻は遅くなる傾向にあります。しかし、朝は学校があるため遅くまで寝ているというわけには行かず、結局、睡眠時間が短くなります。(起床時刻の図)(就寝時刻の図)(睡眠時間の図)日本学校保健会が実施した全国調査では、小学3−4年生の小学生で40%程度が睡眠不足の自覚があり、学年が上がるほど睡眠不足の自覚症状のある児童・生徒の割合は高くなります(図)。では、なぜ就寝時間が遅くなるのでしょう?小中高生男女とも1番の理由は「なんとなく夜遅くまで起きている」です。小学生で多い理由は「家族みんなが寝るのが遅いので自分も遅い」であり、中学生になると「勉強で遅くなる」が多くなってきます。(図(男子))(図(女子))

睡眠中に何がおきているか

睡眠と健康について説明する前に、睡眠中にどのようなことが体の中で起きているのか簡単に説明します。睡眠中の脳や体の状態は時間によって大きく変わります。このことは、脳波をとると良くわかります。覚醒し緊張しているような時は、細かな早い波がでているのに対して、寝ているときは、遅く大きな波が出ています。(図:典型的な脳波)そして睡眠中は約90分を1周期として一晩に4−5回浅い睡眠と深い睡眠とを繰り返して朝に目が覚めます(図:睡眠サイクル)。
子どもの睡眠を考える上では、大事なホルモンとして成長ホルモンがあります。これは脳の下垂体というところから、睡眠が始まるとともに分泌されるホルモンで、睡眠開始後約3時間の間が一日の中で最も分泌量が多くなります。このホルモンは主に睡眠中のタンパク質の合成に関係しています。筋肉や骨格の発達に大切な働きがあります。だから「寝る子は育つ」のです。もっとも、背の高さは遺伝的な影響が強く、睡眠時間以外にも背の高さに関連しているものはいろいろあります。また、成長ホルモンは蛋白の合成以外にも、夜間の脂肪分解にも関わっているとされます。ですから、睡眠時間が短くなると夜間の脂肪の分解が抑えられて肥満に傾く可能性があります。
また生活習慣と健康との関係において、睡眠中の体の変化として、もうひとつ大事な変化は自律神経の活動の変化です。自律神経は交感神経と副交感神経から構成されており、それぞれ相反する働きをします。交感神経は緊張しているときに働いている神経で血圧や心拍や血糖を上げる働きがあります。逆に副交感神経はリラックスしている時に働いているホルモンで血圧、心拍、血糖を下げる働きがあります。睡眠中は、副交感神経のほうがより活動しています。ところが、睡眠不足になると交感神経のほうが活動が強くなることが知られています。交感神経の活動が高いと血圧、心拍が上がりやすくなり、また血糖を下げるインスリンの働きが悪くなるため血糖値が上がりやすくなります。そのため、睡眠不足は糖尿病、高血圧、肥満になりやすくなると考えられています。私たちの調査でも、睡眠時間が短い人に肥満は多いという結果でした。(図:睡眠時間と肥満

『寝る子は育つ、寝ない子は太る!?』

生活習慣の問題とは、見方を変えると1人1日24時間の持ち時間をある生活にどう時間配分するかという問題といえましょう。したがって、ある生活時間が長くなると、ある生活時間が短くなるわけで、つまり「生活習慣は連鎖している」ともいえます。睡眠時間と肥満との関係を考えた場合、テレビの時間が長いから就寝時刻が遅くなり、就寝時刻が遅いとお腹が空くから夜食を摂取し、就寝時間が遅くても学校に行く時間は決まっているからあまり朝遅くまで寝ていられないので、結局睡眠時間が短くなり、また朝ぎりぎりまで寝ているから朝は食事を欠食し、朝食を欠食するから午前中の意欲や集中力が低下して運動をしない、というふうに、すべてが肥満形成へと向かいます。また睡眠不足が続くと、日中のやる気がでない、運動するのもおっくうだ、といった抑うつ的な状態にもなることが知られています。(図:「寝ない子は太る」のメカニズム)したがって十分な睡眠をとることは身体的な健康とともに精神的な健康を維持する上で重要であるといえます。

小児期からの健康づくりのために

小児期からの健康づくりのためにはどうすればよいでしょうか。

三歳時の生活習慣はその後も継続する

健康づくりはいつから始まるかといえば、早ければ早いほど良いということになると思います。イギリスでは、生まれてか1年間の間の栄養状態がよく体重増加が十分にある人ほど将来、糖尿病や高血圧になりにくいといった調査があります。生活習慣という観点からは、3歳ころの生活習慣はその後も継続する傾向にあります。たとえば、睡眠習慣では3歳の時に早寝であった人は小学4年生の時も早寝の傾向にありました。逆に三歳の時に遅寝の人は小学4年生の時も遅寝の傾向にありました(図:3歳児と小学4年時の就寝時刻の関係)。ですから、3歳の頃の生活習慣はその後も継続しやすいため、幼少時期から好ましい生活習慣を形成することが健康の維持増進にとってとても重要であるということが言えると思います。  

親子の生活習慣は関連する

子どもの生活習慣の形成にとって両親の役割は大きいと考えられます。そこで富山市内の4つの小学校の御協力を得て、約400人の児童とその両親を対象に、親子の生活習慣の関連性を評価しました。その結果、夜食の摂取頻度は親子とくに母親と子どもの関連性が強いという結果になりました。つまり両親が夜食を摂取する頻度が高いと子どもの夜食の摂取頻度も高いのです。ただし、両親が食べるから子どもが食べるのか、子どもが食べるから両親も食べるのかはこの調査からはわかりません。また起床時刻も母親との関連性が強いという結果でした。父親の起床時刻とはあまり関連がありませんでした。つまり母親が早起きだと子どもも早起きの傾向にあるという結果でした。テレビの視聴時間については父親・母親同程度に子どものテレビの時間と関連がありました。つまり生活習慣のうち夜食の摂取頻度、テレビの視聴時間、起床時刻は両親の生活と子ども生活は関連があるわけで、逆に子どもの望ましい生活の確立には両親の協力が必要であるということになるといえます。(図:親子の生活習慣の相関関係

子どもの生活習慣は社会環境の影響を受ける

子供の生活習慣は、周囲の社会環境の影響を受けることが考えられます。たとえば、運動習慣1つをとってみても、運動するための時間があり、安全に運動できる場所があり、運動する仲間がいてはじめて運動習慣が形成されると考えられます。都市化が進むと、交通量が多くなるなどで安全に遊べる場所が少なくなり運動不足になるといわれています。実際私たちの調査でも、都市部の子どもは活動量が少ない傾向にありました。また家族構成も子どもの生活に影響を与えていると考えら得ます。私たちの調査では、3世代家族の児童は、早寝早起きで朝食を摂取する傾向にあることがわかっています。

まとめ

以上、子どもが心身ともに健康であるために、幼少時期からの「食う・寝る・遊ぶ」という生活の3要素が大変重要であることがいえます。そして、子どもが好ましい生活習慣を築いくためには、幼少時期からの家族や社会の協力が必要であると思います。つまり生活習慣病も「三つ子の魂百まで」といえるのではないでしょうか(図:三つ子の魂百まで)。

謝  辞

本調査の実施に際して、富山県厚生部、県内の各保健所(現・厚生センター)、富山県学校保健会、県内の各小中高等学校のご協力を頂きました。保健所長の先生方、保健師の皆様、小中高等学校長、クラス担任の先生方、養護教諭の皆様に厚く御礼申し上げます。また、対象児童の保護者の皆様には、長期にわたりご協力を頂きまして誠に感謝の念に絶えません。あわせて厚く御礼申し上げます。本調査は、厚生労働科学研究費補助金、日本心臓財団研究助成金、明治安田厚生事業団研究助成金、富山県医師会研究助成金の助成を受けて実施されました。

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