富山大学医学部看護学科人間科学Ⅰ講座

人間科学Ⅰ講座

この講座のテーマは「運動器から考える健康と看護」です

 人間の生命を支える骨格は運動器からなります。運動器が正常に機能することで、私たちは自立した行動を行うことができ、生きる喜びが得られます。一方、高齢化社会を迎えた現在、運動器の障害は急増しています。運動器は生命の存続には直結しないようにみえても、――人間は動くもの――動くことができなくなったらどうなりますか?
 実は運動器の健康こそが心身の健康につながっているのです。
 運動器を健康に保つこと、そして運動器の回復を支援することがその人の健康および生きがいにつながっていくのです。そこでもう一度、運動器の健康という視点で看護学を考えてみませんか?

 運動器の障害には疼痛、拘縮、麻痺、切断など様々な症候がありますが、この中で、最もつらいのは「痛み」です。痛みこそが最も人に苦痛を与え、人間の「こころ」までをも変えてしまうこともあるからです。中でも癌性疼痛や慢性疼痛と呼ばれる病態はその人に「うつ」状態を引き起こします。一方で、この痛みは、他者からみて最も判断しにくく、客観的に評価することができにくいものです。
 しかし、患者さんの痛みに寄り添うにはそれを可能な限り把握しなければならなりません―バイタルサインに匹敵するものとして医療者は心得るべきであり、「運動器の健康と看護学」へのアプローチに加えていただきたいと思うのです。

「足腰の健康」を見つめなおそう

 当講座では運動器の中でも特に―自立に最も関係のある部分―「足腰の健康」に注目していきます。
 国民の有訴者率として最も高い頻度である腰痛、それに関連する下肢の坐骨神経痛やしびれという「からだ」の症状が「こころ」の在り方とどのように結びついているでしょうか?疼痛とそのケアを考える運動器の疼痛看護をはじめ下肢機能のフィジカルアセスメント方法の開発、意味づけを研究していきます。疼痛を認める患者様(特に、脊椎、骨関節など運動器の慢性痛の患者)が対象になりますが、「痛みを如何に理解して、分析するか」という点に主眼をおきます。
 このテーマは特に社会人博士前期課程の方にとって、自分の経験を生かせるので、取りかかりやすいテーマではないかと考えています。以上の研究テーマが卒業論文、修士論文の中心になりますが、そのほかにも運動器医療、癌と疼痛の科学、心身相関、人間科学に関連する領域であれば個別に学部学生、大学院学生の希望やアイデアに応じて新たなテーマを模索していきますので直接ご相談ください。

大学院を目指してください

 大学院で看護学を学ぶということはどのような位置付けでしょうか?それは学部教育に比べて、何かがプラスαされていなければなりません。
 将来の看護教育の中心に立つ人にとって、より高い看護実践能力を学ぶということはもちろん必要です。しかし、そればかりではなく、私は看護学の向上のため医学実験研究の経験、看護学のみならず健康科学にも視点を向けること、国際感覚を身につけるための英語力の向上ならびにリーダーシップを発揮できるための社会感覚(コミュニケーションを含む)などが必要と考えています。特に大学院教育の中でしか経験できない実験研究の考え方は生涯においてきっと役に立つでしょう。
 実験研究は科学であり、そこには再現性、普遍性というものが存在します。一方、看護学は臨床実学であり、人間が相手である以上、かならず例外があり、相手に即して考えていかなければいけないことは周知の事実です。両者は一見異なるように見えるのですが、実は車の両輪と言えるのではないでしょうか?様々な患者様に対し、看護師として何がプラスできるか?これを養うことが目的になります。
 看護の中に自分らしさを築くには、ケース・バイ・ケースの実例の中からいかに共通項を見つけて体系化していくかが重要ではないかと考えます。「看護の中の準不変性の発見」とでも名付けたら良いでしょうか。このことが理解でき実感できた人とできなかった人において、その満足度の差はきっと大きいのではないかと推測するのですが、いかがでしょうか。
 単に学位というタイトルの取得にこだわるのではなく、看護学の中に研究の面白さを見つけて下さい。現代社会の難局を乗り越えるには、ガッツ、多様性の理解、女性研究者育成の3つが必要と考えています。