エコチル調査でわかったこと

1歳時点におけるヨーグルトとチーズの摂取頻度と1歳時点および3歳時点における睡眠時間の関係:エコチル調査

 日本の子どもの睡眠時間は他の国に比べると短いと報告されており、乳幼児期の睡眠不足は、肥満、学力・空間認識能力の低下、多動につながるといわれています。

 こうした中、発酵食品の積極的な摂取が腸内細菌そうに変化を与えること、腸内細菌そうの多様性は覚醒・睡眠リズムを良好にすることが知られています。また、我々は以前、妊娠中に味噌汁を多く摂取していた母親から生まれた子どもは1歳時点において妊娠中にチーズを多く摂取していた母親から生まれた子どもは3歳時点において睡眠不足のリスクが低くなることを報告しています。しかし、子どもが成長するにつれて、子ども自身が食べたものも睡眠時間に影響することが予測されます。

 そこで、この研究では、エコチル調査に参加している妊婦さんとその子ども(65,210組)を対象として、離乳食として摂取した1歳時点のヨーグルトおよびチーズの摂取頻度と、1歳時点と3歳時点における子どもの睡眠時間との関連を調べました。お子さんの睡眠時間については、米国National Sleep Foundationが示した1日の推奨睡眠時間を基に、1歳時点の「睡眠不足」を11時間未満、3歳時点の「睡眠不足」を10時間未満と設定しました(図1)。

図1. 1歳時点のヨーグルトおよびチーズの摂取頻度と、1歳時点と3歳時点における子どもの睡眠不足との関連

 子どものヨーグルトの摂取頻度が最も少ない群を基準(1.0)にして、ヨーグルトの摂取頻度と睡眠不足の頻度を比較しました。その結果、1歳時点におけるヨーグルトの摂取頻度と3歳時点における睡眠時間においては、傾向検定が有意であったものの、有意な群間差は認められませんでした(図2)。一方、それ以外の条件で摂取頻度と睡眠時間との関連は見られませんでした。

図2.1歳時点におけるヨーグルトの摂取頻度と子どもの3歳時点における睡眠不足の関連

 子どもの腸内細菌そうは、3歳前後で成人と同様の組成になると言われており、母親由来の腸内細菌そうが、子どもに長期的に受け継がれることはすでに報告されております。本研究からは、子どものヨーグルトの積極的な摂取が、子ども自身の睡眠時間と関連すると結論づけることはできませんでした。ですが、覚醒・睡眠リズムを適切に調節するためには腸内細菌そうが必要であると言われており、子どものヨーグルトの積極的な摂取が睡眠に良い影響をもたらす可能性や、子どもの成長とともに子ども自身が食べるものの影響を受ける可能性は否定できませんでした。

 本研究が示した結果は、これまでに報告がない新規性が高い情報です。しかし本研究では、観察研究であるために因果関係まで扱えていないこと、腸内細菌そうを直接測定できていないこと、ヨーグルトやチーズの摂取については頻度に基づいており、摂取量がわからないこと、などの限界が挙げられます。今後はさらに長期的な観察を行うなど、子どものヨーグルトの摂取と睡眠時間との関係について確かめていく必要があります。

 この研究成果は小児科学系専門誌「BMC Pediatrics」に2022年11月1日に掲載されました。

Dietary intake of yogurt and cheese in children at age 1 year and sleep duration at age 1 and 3 years: The Japan Environment and Children’s Study

エコチル調査富山ユニットセンター
 2022年11月

ちょっと詳しく

ヨーグルト

 ヨーグルトとは、乳酸菌などの力を借りてミルクを発酵させて作る発酵食品です。厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改訂版)」によると、乳製品の1回あたりの目安量は「離乳中期(生後7~8か月頃)50~70g、離乳後期(生後9~11か月頃)80g、離乳完了期(生後12~18か月頃)100gとされています。

睡眠不足の定義

 米国のNational Sleep Foundation は1歳から2歳時点の推奨睡眠時間を11~14時間、3歳から5歳時点の推奨睡眠時間を10~13時間としています。年代ごとに細かく推奨する睡眠時間を設定しています。
https://www.sleepfoundation.org/press-release/national-sleep-foundation-recommends-new-sleep-times

傾向検定

 傾向検定とは、各グループを個別に調べるのではなく、調査対象となった集団全体の増加傾向、減少傾向を調べる統計的手法です。