糖尿病・代謝・内分泌 研究紹介

脂肪組織の炎症に着目した研究

脂肪組織は大きく皮下脂肪と内臓脂肪に分けられます。このうち内臓脂肪型の脂肪蓄積は、生活習慣病の発症と深い関係にあります。その理由のひとつは、肥満患者さんの内臓脂肪では様々な悪玉生理活性物質が産生され、これがインスリンの効きを悪くするからです。この状態をインスリン抵抗性と呼びます。
かつては、内臓脂肪でこのような生理活性物質の産生を担当する細胞は、大型化した脂肪細胞であると考えられていました。しかし最近では、肥満した脂肪組織に浸潤する炎症性細胞、特にマクロファージが、炎症性サイトカインをはじめとする悪玉生理活性物質を強く産生することが分かりました。すなわち、脂肪組織の慢性炎症が、肥満インスリン抵抗性の重要な基盤病態を形成するわけです。

私たちのグループは、脂肪組織に浸潤するマクロファージと全身の代謝異常の関係に注目して検討を進めています。まず、脂肪組織のマクロファージをフローサイトメトリーにて解析したところ、上述の炎症性の特徴を持つM1マクロファージとは別に、抗炎症性のM2マクロファージと呼ばれる分画が存在することを見出しました(図1)(Fujisaka S, et al. Diabetes, 2009)。その後、M1マクロファージが炎症性であると同時に低酸素の特徴を有することを見出し(図2)、肥満に伴う脂肪組織の慢性炎症の形成に、マクロファージの低酸素シグナルの活性が重要であることを報告しました(Fujisaka S, et al. Diabetologia 2013)。

そのような検討結果を踏まえて現在では、マクロファージ特異的HIF-1欠損マウスや同SIRT1欠損マウス、M2マクロファージを薬剤投与にて除去できるM2マクロファージアブレーションマウスの作成と解析、などの検討を進めています。
同時に国内外の研究室とも共同研究を行い、その結果を学会発表や論文の形で報告しています。

図1
糖尿病・代謝・内分泌研究紹介(図1)
マウス精巣上体脂肪を、脂肪細胞とその他の細胞分画(SVF)に分ける。フローサイトメトリーで、CD11とCD20をマーカーにSVFを分けると、M1マクロファージとM2マクロファージを分離することができる。 (Fujisaka S, et al. Diabetes, 2009 より一部改編)


図2
糖尿病・代謝・内分泌研究紹介(図2)

免疫染色では、低酸素プローブであるピモニダゾールがCD11c陽性M1マクロファージに一致して強く取り込まれた。またこの部分はHIF-1αの染色と一致した。一方CD206陽性のM2マクロファージには、ピモニダゾールの取り込みは強くなかった。 (Fujisaka S, et al. Diabetologia 2013 より一部改編)

抗酸化剤アスタキサンチンの作用の研究

肥満になると、蓄積した内臓脂肪組織において肥大した脂肪細胞に加えマクロファージの浸潤が認められ、TNFα、IL6、パルミチン酸 などのサイトカインや脂肪酸の産生が亢進する結果、骨格筋、肝臓などにおいてインスリン抵抗性が増強し、血糖値が上昇することが示唆されています。
さらに、その詳細な機序として、これらのサイトカインや脂肪酸が細胞内で酸化ストレスを引き起こし、産生された活性酸素種 (reactive oxygen species : ROS)がインスリン作用を障害することが指摘されています。
アスタキサンチン(AX)はキサントフィルに属する赤色のカロテノイドであり主に甲殻類などの海洋生物の赤色部分の構成成分ですが近年はヘマトコッカス藻からの大量生産が可能となり、抗紫外線効果などを目的として市販されています。
AXの抗酸化作用はin vitro においてビタミンE の500 倍程度と報告され非常に抗酸化力が強いことが特徴です。

我々は、ラット骨格筋モデル細胞(L6 細胞)を用いAX がサイトカインや遊離脂肪酸が産生するROS を効果的に消去しインスリン抵抗性を改善することを報告しました(図3)(Ishiki M, et al. Endocrinology 2013より引用)。
同様に、in vivoにおけるアスタキサンチンの効果を検討しますと、肥満モデルマウスのインスリン抵抗性がやはり改善することを見出しています。

一方で、高血糖そのものが血管内皮細胞でROS を産生し動脈硬化を促進することも報告されており、本カロテノイドは肥満におけるインスリン抵抗性の改善の他に、糖尿病の合併症進展に深く関わる血管病変を改善する可能性もあり、2 型糖尿病の病態を幅広く改善し得る効果が大いに期待されます。身近にある何気ない物質が糖尿病を改善するかもしれない夢のある話題です。

図3
糖尿病・代謝・内分泌研究紹介(図3)

アスタキサンチン(AX)はL6細胞で、TNFαやパルミチン酸により減少したインスリンによるブドウ糖の細胞内への取り込みを改善した。

糖尿病・メタボリック症候群に関する臨床研究を行っています。

a) 2型糖尿病原因遺伝子の解明
理化学研究所、東京大学糖尿病代謝内科との共同研究で2型糖尿病の原因遺伝子の解明を行っています。又、当科では、主に、その遺伝情報を臨床面でどのように応用可能か、オーダーメード医療の開発を目的としています。
具体的には、2012年に遺伝情報を組み合わせたgenetic risk scoreが糖尿病発症や、発症後のインスリン分泌、インスリン治療の必要性に関連している事を明らかにしています。

図4
糖尿病・代謝・内分泌研究紹介(図4)

b) 2型糖尿病の最適治療を選択するための指標に関する研究
当科入院患者においてインスリン分泌能(グルカゴン負荷試験、CPI, SUIT,食事負荷試験時のCペプチドの変化)を測定し、特にインスリン治療を選択する上で、どの指標が有用であるかどうかについて検討している。(Iwata M, et al. J Diabetes Investig 2014)

図5
糖尿病・代謝・内分泌研究紹介(図5)

c)糸魚川市、JCHO高岡ふしき病院との共同研究で糖尿病・メタボリック症候群の有病率調査
 (Okazawa T, et al. Nutrition & Diabetes 2013)
d) 他、アディポネクチン三分画と糖尿病・メタボリック症候群・喘息との関連について
 (Hayashikawa Y, et al. Endocrine journal 2015)

主な糖尿病グループの研究業績(2014)

原 著

  1. Hara K, Fujita H, Johnson TA, Yamauchi T, Yasuda K, Horikoshi M, Peng C, Hu C, Ma RC, Imamura M, Iwata M, Tsunoda T, Morizono T, Shojima N, So WY, Leung TF, Kwan P, Zhang R, Wang J, Yu W, Maegawa H, Hirose H, DIAGRAM consortium, Kaku K, Ito C, Watada H, Tanaka Y, Tobe K, Kashiwagi A, Kawamori R, Jia W, Chan JC, Teo YY, Shyong TE, Kamatani N, Kubo M, Maeda S, Kadowaki T. Genome-wide association study identifies three novel loci for type 2 diabetes. Hum Mol Genet. 2014 Jan; 23(1): 239-46.
  2. Kaku K, Watada H, Iwamoto Y, Utsunomiya K, Terauchi Y, Tobe K, Tanizawa Y, Araki E, Ueda M, Suganami H, Watanabe D. Efficacy and safety of monotherapy with the novel sodium/glucose cotransporter-2 inhibitor tofogliflozin in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus: a combined Phase 2 and 3 randomized, placebo-controlled, double-blind, parallel-group comparative study. Cardiovascular Diabetology. 2014 Mar 28; 13: 65.
  3. Tanizawa Y, Kaku K, Araki E, Tobe K, Terauchi Y, Utsunomiya K, Iwamoto Y, Watada H, Ohtsuka W, Watanabe D, Suganami H. Long-term safety and efficacy of tofogliflozin, a selective inhibitor of sodium-glucose cotransporter 2, as monotherapy or in combination with other oral antidiabetic agents in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus: multicenter, open-label, randomized controlled trials. Expert Opinion on Pharmacotherapy. 2014 Apr; 15(6): 749-66.
  4. Hikosaka K, Ikutani M, Shito M, Kazuma K, Gulshan M, Nagai Y, Takatsu K, Konno K, Tobe K, Kanno H, Nakagawa T. Deficiency of nicotinamide mononucleotide adenylyltransferase 3 (nmnat3) causes hemolytic anemia by altering the glycolytic flow in mature erythrocytes. J Biol Chem. 2014 May 23; 289(21): 14796-811.
  5. Iwata M, Matsushita Y, Fukuda K, Wakura T, Okabe K, Koshimizu Y, Fukushima Y, Kobashi C, Yamazaki Y, Honoki H, Suzuki H, Kigawa M, Tobe K. Secretory units of islets in transplantation index is a useful predictor of insulin requirement in Japanese type 2 diabetic patients. J Diabetes Investig. 2014 Sep; 5(5): 570-80.

総 説

  1. 薄井 勲,戸邉一之.脂肪組織マクロファージとインスリン抵抗性.Annual Review 糖尿病・代謝・内分泌.2014 Jan; 71-7.
  2. 福田一仁,戸邉一之.SGLT2 阻害薬.内科.2014 Jan;113(1):83-6.
  3. 石木 学,戸邉一之.肥満メタボを伴う糖尿病には どのような指導・管理をするのでしょうか?.臨床栄養別冊. 2014 Apr;52-6.
  4. 薄井 勲,戸邉一之.メタボリックシンドロームとマクロファージポラリティー.血管医学.2014 Jun 10;15(2): 37-43.
  5. 戸邉一之.はじめに.医学のあゆみ.2014 Aug 30;250(9):1.
  6. 岩田実.腹部肥満による心血管危険因子集積に対する加齢の影響.医学のあゆみ.2014 Aug 30;250(9):652-4.
  7. 薄井 勲,戸邉一之.脂肪組織マクロファージと低酸素.医学のあゆみ.2014 Aug 30;250(9):751-4.
  8. 藤坂志帆.フローサイトメトリー.医学のあゆみ.2014 Aug 30;250(9):851-4.
  9. 加来浩平,谷澤幸生,荒木栄一,綿田裕孝,岩本安彦,宇都宮一典,寺内康夫,戸邉一之,池田勧夫,菅波秀規, 渡邊大丞,前田 肇.選択的 SGLT2 阻害薬トホグリフロジンの臨床第Ⅲ相 4 試験を用いた安全性の検討-国内治験 の併合データを用いた部分集団解析-.医薬ジャーナル.2014 Sep 1;50(9):2200-7.
  10. 岩本安彦,加来浩平,宇都宮一典,寺内康夫,戸邉一之,谷澤幸生,荒木栄一,綿田裕孝,渡邊大丞,菅波秀規. 選択的 SGLT2 阻害薬トホグリフロジンの年齢別に見る有効性と安全性の検討~国内治験の併合データを用いた部 分集団解析~.医薬ジャーナル.2014 Sep 1;50(9):2208-18.
  11. 戸邉一之,加来浩平,谷澤幸生,荒木栄一,綿田裕孝,岩本安彦,宇都宮一典,寺内康夫,渡邊大丞,菅波秀規. 選択的 SGLT2 阻害薬トホグリフロジンの年齢別に見る有効性と安全性の検討~国内治験の併合データを用いた部 分集団解析~.医薬ジャーナル.2014 Sep 1;50(9):2219-29.
  12. 宇都宮一典,川浪大治,加来浩平,寺内康夫,戸邉一之,谷澤幸生,荒木栄一,綿田裕孝,岩本安彦,菅波秀規, 渡邊大丞.選択的 SGLT2 阻害薬トホグリフロジンの腎機能別に見る有効性と安全性の検討-国内治験の併合データ を用いたサブグループ解析-.医薬ジャーナル.2014 Sep 1;50(9):2230-9.
  13. 薄井 勲,戸邉一之.DGAT1 阻害薬.月刊糖尿病.2014 Sep 30;10:56-62.
  14. 角 朝信,戸邉一之.脂肪細胞分化と Hippo pathway.医学のあゆみ.2014 Nov 1;251(5):467-72.
  15. 新村里美,戸邉一之,福田一仁.SGLT2 阻害薬による肥満症治療の可能性.ホルモンと臨床.2013 Feb 1;61(2): 145-50.(2013 年未掲載分)

学会報告

  1. Ishiki M, Nishida Y, Takikawa A, Koshimizu Y, Iwata M, Usui I, Tobe K. Astaxanthin, a strong antioxidant, ameliorated glucose metabolism in obese mouse through various mechanisms. 74th scientific sessions of American Diabetes Association; 2014 Jun 13-17; San Francisco.
  2. Takikawa A, Mahmood A, Fujisaka S, Nakagawa T, Senda S, Aminuddin A, Usui I, Tobe K. Myeloid cell-specific deletion of hypoxia-inducible factor 1-alpha gene protected against diet-induced insulin resistance in mice. 74th scientific sessions of American Diabetes Association; 2014 Jun 13-17; San Francisco.
  3. Fujisaka S, Ussar S, Kahn CR. Antibiotic treatment alters the gut microbiome, adipose tissue inflammation and energy metabolism. 74th scientific sessions of American Diabetes Association; 2014 Jun 13-17; San Francisco

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