脊椎脊髄外科班

脊椎班では、頚部から腰部までの脊椎脊髄病を専門に扱っています。具体的には、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症を始め、脊椎後縦靱帯骨化症、黄色靱帯骨化症や側弯症などの脊椎疾患や脊椎・脊髄腫瘍、脊椎外傷(骨折や脱臼など)の診断と治療を行っています。

臨床

当科ではこれまでに脊椎の手術法の開発と改良に努めてきました。腰椎疾患にはトランペット型椎弓切除術および腰椎脊柱管拡大術を開発し、現在も適応を十分吟味した上で行っています。また腰椎前方椎体間固定術についても、優れた長期成績を検討し、その発展を目指しています。頚椎疾患には頚椎椎弓形成術(en bloc cervical laminoplasty)を開発し、国内外での評価を得て今日では頚髄症における一般的な手術手技となっています。現在でも教室では、これら術式による治療結果、問題点の発掘、さらに適応についても長期にわたり追跡調査して検討を加えることを続けています。その他脊椎インストゥルメンテーション、内視鏡手術も行っております。

特徴的な治療

我々の診療グループの特徴を2つあげます。

  • 脊髄モニタリング

    脊椎の手術を安全に行うことを目的として当科では種々の脊髄機能モニタリング法の開発研究を精力的に行ってきています。現在も経頭蓋電気刺激による脊髄誘発電位の臨床応用を行っています。

  • 脊椎コンピューターナビゲーション

    脊椎の手術では様々な器具を用いて脊椎の固定をすることがあります。脊椎ナビゲーションとは固定器具が適切な位置に入っているかを手術中に確認できるシステムです。1999年以来当科ではこのシステムを用いて安全に手術を行うように努めており、高度先進医療として承認されています。

以上の最新の機器を使いながら安全に手術が行えるよう努力しています。

基礎研究

1)椎間板研究

我々の研究グループでは力学環境と椎間板代謝の関係、さらに遺伝的要因を明らかにする一連の研究を展開してきました。独自に開発した静水圧チャンバーを用い、椎間板の髄核・線維輪各分画別のプロテオグリカン合成とメタロプロテアーゼ産生の観点から、異なる静水圧が、椎間板代謝に異なる影響を及ぼすことを明らかにし、これが椎間板変性の一因となる可能性を示しました。さらにこのマトリックス代謝を椎間板自体が産生するnitric oxide(NO)が仲介することも明らかにしました。一方、腰椎疾患に関する疫学的研究で、すでに腰椎椎間板ヘルニアおよび広く腰椎椎間板変性においても家族性素因が存在していることを証明し、遺伝的背景の存在を示唆してきました。さらにその遺伝的因子として、いくつかの遺伝子の多型が椎間板疾患に関連していることを明らかにしました。特に腰椎椎間板ヘルニアの原因遺伝子のひとつが、CILP(cartilage intermediate layer protein)遺伝子であることをつきとめ、これがTGF-βを介して椎間板疾患を引き起こしていることを示しました。この知見は雑誌Nature Geneticsに掲載され、世界的に評価されています。

2)医原性腰椎疾患の病態

腰椎後方手術侵襲による馬尾癒着の予防のための一連の検討を行っており、術後早期に起こる馬尾血管透過性亢進と馬尾集合癒着、それに反応した髄膜周辺の炎症細胞浸潤、引き続く馬尾癒着、神経変性という一連の病態をとらえています。さらに腰部癒着性くも膜炎モデルラットにおける血液および脳脊髄液から馬尾への糖移行の変化、馬尾への栄養供給の障害について解明しました。

3)傍脊柱筋機能障害病態

腰椎後方手術後に起こる腰背筋力低下、あるいは腰痛惹起の原因と実態に関して、基礎実験で術後腰背筋組織には開創による圧迫力と圧迫時間に応じた変性が惹起されること、さらに臨床的には再手術時に得た筋組織で神経原性変化や加齢変化が促進される所見が高率に認められることが証明してきました。また手術後に起こる腰背筋パフォーマンスの低下、神経障害に伴う組織学的異常とMRIによる筋の画像所見との関連を明らかにした上で、より安全な腰背筋の周手術期管理の確立を行っています。

4)脊椎後縦靭帯骨化症の病態

脊椎後縦靭帯骨化症の病態については未だその成因がわかっておりません。我々の研究グループでは遺伝子学的なアプローチで本疾患の成因に迫る研究を行っております。その他、これまでには後縦靭帯骨化症がどのような過程で伸展するのか、どのような患者様に伸展の危険性が高いのかを明らかにしてきました。今後は治療に向けた研究を展開していきたいと思っています。

5)脊柱側弯症の病態

思春期特発性側弯症は思春期に骨の成長に伴って側弯症が発症する病気で、未だ原因がわかっておりません。治療法は装具治療と手術治療しかなく、有効な薬はありません。その中で我々は、骨の代謝や骨の成長に必要なビタミンD結合蛋白やビタミンD代謝が関連している可能性を蛋白質の解析から突き止めました。さらに今後ビタミンD代謝がどのような影響を起こしていくかを研究しています。また脊椎後方にある黄色靭帯が側弯症発症にどのように関連しているかを研究しています。