仕事

03:産科チーム「世界で唯一」が、
うまれるところ。

座談会メンバー

  • 塩崎有宏

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  • 米田哲

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  • 米田徳子

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産婦人科だけど、腸内細菌を研究?

ーみなさんは、どんな研究をされていますか?

塩﨑:私がメインにやっているのはデータベースでして。日本産科婦人科学会の周産期登録委員会というのがあるんですけど。全国からデータを集めて、合併症を持ったお子さんのデータを集めているんです。どういう原因で、合併症が起きているかを調べるという、どちらかというと予防医学の方ですね。最近気になっているのは、妊婦さんの体重。小さなお子さんを産むお母さんが増えてるんですよね。おそらく、AKBの影響だと思うんですけど。

一同:AKB・・・?

塩﨑:まあ、AKBのような、いわゆるアイドルの影響なのかなと。痩せている妊婦さんがすごく多いんですよ。朝食を食べない女性も多いですし。出生体重が減っていることに、おそらく関係していると思うんですけど。本当に因果関係があるかどうかを、研究しています。

米田哲:僕たちは妊娠にトラブルが起きた状態から立て直すんだけど、どうしても立て直せないこともある。予防医学という考え方は、根本的に必要とされてますよね。

塩﨑:善玉菌が妊娠を維持するのに大事かもしれないっていうのが最近分かってきて。これも予防医学にも通じる話なんですけど。

米田徳子:産婦人科で、腸内細菌のことも研究してるのって、ここだけじゃない?

伊藤:あと鹿児島かな?

塩﨑:腸内細菌は食べ物からですから、食事が大事なわけですね。しかも、受精前、妊娠する前の母体が大事。それくらい、すぐに人の腸内細菌は変えられないわけですから。だから、女性たちはしっかり食べないといけない。AKBのようでは、よろしくないと。

米田哲:塩﨑先生、結局AKB好きなんじゃない?(笑)

塩﨑:いや、嫌いですよ(笑)。

ー他のみなさんは、どんな研究をされていますか?

米田哲:伊藤先生は、エコチルに関わってたよね?

伊藤:エコチルというのは、環境省がやっている、10万人規模の日本初の調査で。出生から13歳までフォローアップして、半年ごとにアンケートを送り続けて、妊娠中の生活習慣から食事から、事細かく情報を集めているんです。もともと10万人でスタートして、徐々に減っていくから、今は8万人くらいかな。世界中のいろんな国でやっている調査なんですけど、10万人規模で実施したのは日本が初めてで。私は、妊娠中と分娩までの調査に、3年くらい関わっていました。この調査から、妊婦さんで、血液中のオメガ3脂肪酸が高い人は、産後うつ傾向が少ないとか、新たなデータも出ています。

ーなぜ、世界に先駆けて、富山大で実現できたんですか?

米田哲:菌の検査については、斎藤先生の先見の明があったんじゃないかと思いますね。ちらほら報告はあったけど、うちでやろうって腹をくくって。

米田徳子:もともとウレアプラズマという菌は、早産の胎盤では一番よく出るって報告はあったんですけど、以前の富山大の培養法では、誰も菌が出たことがなかったんです。それで、この培養法じゃおかしいんじゃないか、という話になって。臨床検査の先生に、特殊な培養法を学びに行ってくれって、教授が大阪母子医療センターに送り出して。それからですね、検査で菌が出るようになったのは。

伊藤:教授の存在は、大きいですね。

米田徳子:もともと、PCR法は羊水用に開発してくれたわけじゃなくて、敗血症の検査法として開発されたものを、羊水に応用したんですけど。医局同士の垣根が低い、小さい大学だからこそ共同研究をやりやすいんだと思いますね。

米田哲:比較的、他科の先生と気軽に「やってみる?」なんて言い合える雰囲気はありますよね。大きい大学に所属したことがないから、分からないけど(笑)。

「多分」じゃなくて、根拠を示す。

ーそのほかに、研修医や学生にアピールしたいところは、どんなところですか?

米田徳子:学生時代があまりにも昔すぎて、分からないけれど(笑)。いろんな分野をやれるっていうのは、いいと思うんです。例えば吉野先生は生殖が専門ですけど、腫瘍もやりたいっておっしゃってるし。どの分野もできるのかなと思いますね。

伊藤:鹿児島に行っていた時に、違う医局の先生に言われたのが、富山大学は他の先生たちが、「多分こんなもんだろう」ってやる時に、「多分」じゃなくて、ちゃんと根拠を示すって。根拠を持ってやっているのが、かっこいいって、言われたことあるんですけど。ちゃんと羊水穿刺することも、その一例かもしれない。

米田哲:最近はやっと認められてきましたけど、今でも羊水穿刺は、否定的な人はたくさんいますけどね。生まれそうになっている時に針を刺すわけですから。患者さんに対して、申し訳ない気持ちも実はあって、僕はもともとは、羊水検査は嫌いだったんですよ。でも、数が集まってきたから、まとめてみようと思って始めたら、意外といろんなことがクリアにわかって、どうしたら臨床に返せるかが見えてきて。

伊藤:破水がリスクだって言ってるのに、破水しそうになっている人に検査をするわけですからね。

米田哲:切迫早産になるというのは、どのみち赤ちゃんには悪い環境なんですよ。最近はそういう説明もして、わかってくれるようになって来たんですけど。昔はその辺も、わかっていないから。

伊藤:やる方も怖かったですよね。最初は、我々も「いいの?」って思いながら。でも今となっては、やったほうがいいとはっきり言えます。

米田哲:昔はPCRで得られる情報もなかったから。最近なんですよね、確立したのは。今は患者さんから調べてくださいって言われることもありますし。いろんな施設から、「羊水送るから調べてくれませんか?」て言われるくらい。特許申請を進めているので、近い将来、どこの周産期の医療センターでも、今は富山でしかできないPCR法ができるようになりますね。

周産期は、宝の宝庫。

ー周産期の面白さは、どんなところにありますか?

塩﨑:斎藤先生はとにかく顔が広いから、いろんな情報が入ってくるんですよね。もうアイデアが次から次へと生まれて、こぼれ落ちてますから。

米田哲:拾いきれない時もあるくらい。もっとスタッフがいれば、もっともっとできることはありますよね。周産期は特に、宝の宝庫。テーマに溢れてると思う。いろんな研究が、臨床研究というかたちでできるのも、周産期臨床の特徴だと思いますけど。

伊藤:胎盤も謎ですよね。あそこだけで、腎臓と肝臓と肺の機能を持ってますから。胎盤がダメなら、赤ちゃんは育たない。胎盤って何なんだろうって本当に思います。

米田哲:子宮内環境は、本当に謎がいっぱい。最初はいやいや採っていた羊水が、臨床と直結して、そういう説明をすると、患者さんが協力してくれて。地道な努力が、時間をかけて実を結んでいく。富山大は、そういう研究が得意なのかもしれない。

米田徳子:ただ、富山らしい周産期の醍醐味って、説明が難しい。ある程度、臨床の経験を積んでからここにくると、「お!すごい!」と思ってもらえると思うんだけど。

伊藤:こうだから、この処置がいいって、徹底的にエビデンスに基づいてやっていますから。まあでも、その辺も入局して5年目くらいに分かることなのかも。

米田哲:この対談を読んでもらえれば、ちょっとは伝わるんじゃない?新しいことをどんどん取り入れて、常に治療に反映させていて。

塩﨑:結果が出れば、どんどん臨床に返せる。そのストックを、富山大はずっと貯めてきていると思うんです。今までの先生たちのおかげだと思いますね。

世界で唯一、富山大にしかない検査法。

ー世界でここだけ、とはどういうことでしょう?

米田哲:切迫早産っていうと、36週までに陣痛が来て、産まれそうになっている人たちなんですけど。そういう患者さんに、富山大はずっと羊水検査をしてきた、というお話からした方がいいかなと。羊水を検査するには、羊水穿刺といって、お腹を刺さないといけないから、嫌がる妊婦さんも、ずいぶんおられましたけれど、斎藤先生はその研究をずっと続けて来られたんですよね。

米田徳子:もう20年くらいね。

米田哲:赤ちゃんが、お腹の中でどういう気持ちでいるかって、なかなか分からないんですよ。環境を嫌がる赤ちゃんは、1000gで産まれたり、最悪400~500gで産まれたりするんですけど。お腹の中がどういう環境か分からないまま、妊娠期間を延長するためだけに、日本の産婦人科医は、子宮収縮抑制剤をずっと使ってきたんです。

米田徳子:出口が開いてきたら、縛ればいいという発想。妊娠期間を延長する処置ばかりで、なぜ切迫早産が起こるのか、根本的な理由を誰も究明していなかったんですよね。

米田哲:そこで、徳子先生が、羊水を取っているんだったら、何か情報が得られるんじゃないか、というところで始めたのが、先ほどの研究。僕は羊水に菌なんているわけがないって、はじめは思っていたんですけど。実際、以前までの培養検査だと、菌が出なかったんですよ。

米田徳子:今までの培養法とは違うPCR法を、臨床検査部の北島教授、仁井見准教授との共同研究開発で、やったんですけど。それがヒットしたというわけで。3~4時間で菌がいるかいないかを、正確に評価する方法は、世界でここ、富山大にしかないんですよ。

米田哲:その検査の結果、ウレアプラズマという菌と一般細菌が二重にいることが非常によくないと分かったのも、世界初ですし。抗生物質で叩いたらいいのでは、という仮説のもとで抗生物質を使っていくと、やっぱりいい。大々的な数字じゃなくて、とりあえずのまとめなんですけど、約4週間の延長効果を得ることができたんです。